表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/243

09話 『能力探索(リテイク)』



 自分の『能力』が分かった俺は、嬉々として実験を繰り返した。


 初めての不思議能力。


 楽しくないわけがない。


 実験の結果、俺のスペックが判明した。


 手のひらを地面から五センチ以内に近付けると、砂鉄を集めることができる。棒磁石よりは少し強いかもしれない。


 ……いやいや、もちろん、これで終わりじゃないぞ。


 俺には必殺技がある。


 地面の上に体育座りすることで、大量の砂鉄を集めることができる。ちょっとした山になるくらい。


 ネオジム磁石……とは言わないが、かなり強力な磁力だ。電子機器とかは破壊できるかもしれない。


 ……以上。


 ……。


 おいっ!!


 誰だよ!!


 俺の能力決めたの!!


 こんなクソ『能力』、いらねぇよ!!


「……はぁ」


 まあ、最初から分かってたことだ。


 七歳の頃には気づいていた。


 この世界でも、俺は主人公ではない。


 いいじゃないか、クソ『能力』で。


 無いよりマシだ。


 ……それに、俺にはもう一つ『能力』がある。


 磁力――この『能力』が、青なのか緑なのか分からないが……一方が磁力だとしても、もう一つ『能力』が残っているはず。


 正直、あまり期待はできないが……やっぱり期待してしまう。


 もう一つの『能力』は、カッコいいかもしれない。


 ……まあいい。


 そもそもの俺の目的は、死から逃れることだ。


 今日は、適当に砂鉄でも集めて過ごすとしよう。



 ――



「……アル、なにしてるの?」


 俺がセコセコと砂鉄を集めていたところに、サラが帰ってきた。


 アリ塚のごとき大量の砂鉄の山を、避けて近付いてくる。


「魔素を消費してるところ」


「――っ! 『能力』が分かったの?」


 サラは、こっちが嬉しくなってしまうくらいの、いい笑顔だ。まるで自分のことのように喜んでくれてる。


「どんなのっ? 見せて!」


 よろしい。


 今の俺は、機嫌がいい。


 しゃがんだ俺は、両手のひらで輪っかを作った。


 興味津々で近づいてきたサラが、上から覗き込んでくる。


 観衆の視線に、程よいプレッシャーを感じつつ……魔素を手のひらに集中する。


 ザザッ――っと、微かな音が聞こえた。


 砂鉄が集まっている音だ。


 サラが息を飲む。


 あっという間に、黒い小山が完成する。


「ふぅ……」


 俺は額ににじんだ汗を、手の甲で拭った。


「……でっ?」


 頭上から、サラの弾んだ声が聞こえた。


 顔を上げると、嬉しそうな表情のサラが、俺を覗き込んでいた。


「それでっ、なにが起こるのっ!」


「えっ、終わりだけど」


「……そ、そうなの?」


 サラが、畏怖を込めた瞳を砂鉄山に向けた。


 その中には、幾ばくかの好奇心が見え隠れしている。


「これ、さわってもいい?」


「ああ」


 サラはしゃがむと、俺の作った山に恐る恐る人差し指を突っ込んだ。


 最初は爪先の先端、ほんの数ミリ食い込ませるだけだった。徐々に大胆に、指の根元まで山に突っ込み始める。


 人差し指でグルグルと砂鉄山をかき回したサラが、俺に顔を向けてきた。


 困惑した表情だ。


「けっきょく、どんな『能力』なの? これに、なにかすごい効果が――」


「無いけど」



 ○○○



 砂鉄集めで一日が終了した俺は、サラと一緒に帰宅した。


 フレイさんが居間の椅子に座っている。


 フレイさんは、サラに続けて帰宅した俺に目を向けて、


「『能力』は分かったか?」


「はい、分かりました」


「おっ」


 想定外だったらしく、フレイさんは目を見開いた。


「見ます?」


「だから……お前の『能力』は、模擬戦で見せろっつったろ」


「模擬戦の中で見せられるようなものじゃないので」


 フレイさんは、豆鉄砲で打たれたような顔をした。


「そんなに特殊な『能力』だったのか? 戦闘に使えない……『治癒能力』とか?」


 (おのの)くフレイさんを見て、サラが笑いを堪えている。


 俺は若干苛立ちながら、右手に握りしめていた黒い粉をフレイさんに見せた。


 怪訝そうな顔のフレイさんの前で、砂鉄をテーブルの上に撒く。


「これが、僕の『能力』です」


 フレイさんが身を乗り出した。


 俺が両手で輪っかを作ると――まるで巻き戻しでもしているかのように、砂鉄が俺の手のひらの中に戻った。


「おお……」


 フレイさんが唸る。


「その粉を、自在に操る『能力』か?」


「まあ、そんな感じです」


「なんだ、結構面白そうな『能力』じゃねえか」


「……そうなんですか?」


 砂鉄を操る能力が、何かの役に立つのか?


 フレイさんは、顎を撫でながら、


「例えば、そうだな――その粉を、敵の口から体内に侵入させて、中から攻撃する、とか。考え方次第では使えるだろ?」


 ……フレイさん、恐ろしいことを考えるな。


「……それは、無理ですね。自在に操れはしないので。直線的に引き付けることしかできません」


「そうなのか?」


 フレイさんはサラに目を向けた。


 サラが頷いている。


 それを確認したフレイさんは腕を組んで、難しい顔をした。


「……何かないのか? その『能力』を役立てる方法は」


 そんなもの、すでに熟考済みだ。


 カッコいい使い方ができないかと試行錯誤したうえで、どうしようもないという結論に至った。


 まあ、でも……せっかくだから、もう一度考えてみるか?


 磁力でできること。


 鉄を引き付けること以外。


 ……電子機器の破壊とか?


 うん。


 この世界が前世みたいな電子機器社会だったら、攻撃対象はかなり多い。


 だが、この世界は中世ヨーロッパ風だ。電子機器なんてものはない。


 他に、こんな世界でも磁力を役立てる方法……強いて言えば。


「フレイさん。小さめの鉄片とか無いですか?」


 俺は人差し指と親指を、五センチくらい開けながら言った。


「ん? そんなもの何に使うんだ?」


「僕の『能力』に使えるかもしれないので」


「おお、そうか。……だが、そんなに小さい鉄は無いな。明日までに用意しとこう」


 フレイさんがそう答えると、突如サラが手を上げた。


「パパ! それならあるわよ!」


 一人で叫ぶと、バーンと扉を開けて、サラは消えた。


 扉の奥から、しばらくガチャガチャとうるさい音が聞こえた後、サラは戻ってきた。


 手には斧を持っている。


「おっ、おい! サラ、それをどうするつもりだ……?」


「もちろん――」


「サラ、ちょっと待――」


 サラは、斧の刃の部分を両手で持つと、そこから鉄を千切り取った。


 大して力を入れているように見えないのに、まるでガムでも千切るように、グンニャリと鉄製の刃が変形する。


「はいっ、アル!」


 ちょうど五センチくらいの鉄片が、サラから渡された。


「……ああ、サラ。……それ、まだ使えたのに」


 フレイさんが一人で呟いているが、サラには全く聞こえてないようだ。キラキラとした瞳で、俺のことを見ている。


 俺は小刻みに震える手で、サラから鉄片を受け取った。


 フレイさんも気を取り直したのか、俺に注目している。


 ……そんな期待の瞳を向けられても困るんだが。


 俺の思いついた、磁力の使い方。


 前世では、三大発明とか言われてたっけ?


 火薬、活版印刷、そして――羅針盤。


 要は、方位磁石だ。


 まあ、海や砂漠ぐらいでしか方位磁石を使う機会なんて無いので、役立つ『能力』とは言えないが……驚かせるくらいはできるだろう。


 魔素を集中させる。


 磁力を込めるのは、右手に摘まんでいる鉄片。


 磁力が鉄片に集中し――


 赤熱した鉄片が、爆発した。


「あつッ!!」


 落下した鉄片は床を焼き、黒い煙が上がっている。


 焦げ臭い匂い。


「わぁっ! すごいっ! なにこれ!」


「おいっ! そういうことするなら、先に言っとけよ!」


 サラとフレイさんが何か叫んでいるが、俺自身が混乱中だ。


 サラが俺の体を前後に揺すってこようが、気にならない。


 ……今、何が起こった?



 ○○○

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ