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04話 『青弄の風 前編』



 師匠からは、色々な話を聞かせてもらった。

 それでようやく、自分の任務の全容がボンヤリとだが理解できてきた。


 そもそも、朝国の目的は何なのか。

 王国の混乱を見て、帝国の領土を奪い取るために仕掛けてきているのかと安易に思っていたが、どうやらそういうことではないらしい。

 朝国の勢力域はあくまで小大陸本土であり、大大陸と小大陸を繋げる砂漠地帯――前世で言う所のアラビア半島が、緩衝地として存在する。朝国が侵攻しているのは、その緩衝地たる砂漠地帯であって、帝国がどうとかいう話ではないんだとか。


 砂漠地帯には、ほとんど何もない。所々に点在する湧水地に、朝国へ向かう旅人のための小規模な街があるだけだ。そんな場所へ攻め込んだ所であまり意味はない。

 じゃあ、なんで朝国がわざわざこんな土地を欲しがるのかと言うと、それは偏に交易のためだ。


 朝国に個人が旅行に行くことには特に制限は無いが、朝国と貿易をすることは教会が禁じている。そのための監視施設が『旅の塔』であり、数百の『旅の塔』が砂漠を横切るように設置されている。

 もちろん、広大な砂漠地帯全てを監視することなんて不可能だが、それでも『旅の塔』の存在によって、密輸者たちは大幅に迂回しながら進まないといけない。それに、『旅の塔』は聖官が砂漠を巡回する時の宿ともなる。密輸者にとって、神出鬼没の聖官が最大の敵だ。聖官なんかに見つかった日には、問答無用で殲滅されるから。

 そういった心理的な壁によって、朝国は半ば鎖国された状態にあるのだ。


 朝国からしたら、目障りで仕方が無い……ということで、『旅の塔』を破壊することを目的に侵攻してきているのが現状だという。


 朝国と教会勢力の戦争は、対朝戦争として何度か繰り広げられているが、昔母上から習った歴史では、その目的は専ら本土の攻撃だった。教会側がメフィス・デバイを占拠したこともあれば、朝国側が帝国に打撃を与えたこともある。

 今回は、そういった全面戦争とは少し趣が異なるようだ。



 で、今回。

 聖官に任されている任務は大きく分けて三種類。


 一つ目が防衛任務。

 『旅の塔』を朝国兵の侵攻から守ること。

 当然、聖官だけでは足りないから、特に重要度の高い塔だけを、師匠みたいに自由に『能力』を使えない聖官が守ることになる。


 二つ目が遊撃任務。

 『旅の塔』のうち、聖官以外の神官なんかが守っている塔から狼煙が上がったら助けに行ったり、あとは朝国兵を見つけたら、それを殲滅する。


 三つ目が攻撃任務。

 これまでの二つは基本的に、攻撃を仕掛けてきた朝国兵を撃退することが目的だったが、これは朝国軍本部を攻撃して、早期に戦争を終わらせることを目的とする。



 ……で、攻撃任務を担当する聖官は四名。

 聖官第三席、フレイ・フィーネ聖官。

 聖官第九席、サラ・フィーネ聖官。

 聖官第四十五席、アル・エンリ聖官。

 そして、聖官第五席――



 ――



 師匠に続いて階段を下りると、そこはさっきまでいた部屋と同じような作りをしていた。中央に穴が空き、そこを螺旋階段が貫いていて、その螺旋階段を中心として円形の空間が広がる。上――俺たちが侵入したのは三階だったらしいから、ここは二階となる。


 二階には窓が一つも無かった。薄暗い。三階に繋がる小さな穴が幾つか空いていて、そこから光を取り込んでいるらしい。今は日が出てるから薄暗い、で済んでいるが、夜はほとんど真っ暗だろう。それを証明するように、そこかしこに短くなった蝋燭の刺さった燭台か置かれている。


 螺旋階段に沿って歩いていると、グルリと順番に部屋が見渡せる。三階は談話室って感じだったが、二階は……何と言えばいいんだろう、その他諸々?


 ベッドが六台、壁に沿って並んでいる。

 あと……あれは、聖石か? 青色の水晶が、宙に浮かびながら淡く発光している。大きさは人頭大。聖石としてはかなり小さい。どっちかと言うと『儀式』の時に使われる青石くらいの大きさだけど、あっちは宙に浮かぶことはない。


 聖石らしきものの隣には、水桶と、食器の並んだ棚。台所……かな? ナイフとまな板が、壁に打ち据えた釘に吊り下げられている。


 ……で。


 てっきり、フレイさんは眠っているのかと思っていたが、見ると、フレイさんは起きて、椅子に座っていた。椅子に座って、机に両肘をついて、頭を抱えている……。


 椅子は、十人くらいなら一度に食事ができそうなほどの大きな机に設えてあるものの一つ。そして、机を挟んでフレイさんと対面に……女の人が一人、座っていた。


 身に纏うのは、肩に金三環の刺繍された神官服。黒い髪の毛をポニーテールにしている。肌の色は、王国民に特徴的な血管が透けるような白色ではなくて……最近よく見慣れた、ちょっと黄色がかった色。文句なしに美人だけど、彫りはあんまり深くなくて、鼻なんかも王国民と比べたらずっと低い。


 加えて特徴的なのは……その女の人が、両目を閉じていることだ。清純な、凛とした佇まい。顎をひき、背筋をピンッと伸ばしている。

 そして……なぜか、右手をチョキの形にして、人差し指と中指の間に金貨を挟んでいた。


 聖金貨。

 中央部に、青色の宝玉が埋め込まれているのが特徴だ。


 教会が聖官の賞与としてのみ発行する金貨で、一枚で王国金貨十枚と交換できる。とはいえ、その希少価値から、実際は数倍の価値で交換してくれることが多い。ちなみに、王国金貨一枚で、頑張れば一年は暮らせるくらいの価値だ。


 女性は、聖金貨を指で弾いてから、パシッと右手でそれを掴んだ。

 ゆっくりと手のひらを開くと、そこには既に何も無い。


「勝ち。相変わらず、フレイ、単純。いい財布、ね」

「……ぬぐぉ」


 フレイさんは唸り声をあげてから、顔を上げた。


「分っかんねぇ……今回はいけると思ったのに。お前、一体どうやって」

「もう一回やれば、分かる、かもしれない、ね?」


 ニヤッと笑った女性は、ふと視線に気付いたように、上を見上げた。ちょうど、俺と目が合った気がした。瞼を閉じてるから、違うはずだけど……視線を感じる。


「先生、懲りずにまたやっているのですか……」


 師匠が、呆れたような声音で言った。

 あ、そうそう。

 ずっと気になってたことだけど、師匠がフレイさんのことを『先生』と呼ぶのは、フレイさんが師匠にとっての師匠だったかららしい。俺にとっては、フレイおじいちゃんだな。


 階段の最後の段を踏んだ師匠は、そのままフレイさんたちの座る机のあたりまで向かって、


「風音聖官に、これまで何度負けていると思っているのですか。必ず負けると分かっているのですから、あえて立ち向かう必要もないでしょう」

「あぁ? おい、クルーエル、それを言ったら終いだろうがよ。どうして自分が負けるのか、それが分からないから、やってるんだからな」


 一体何の話をしてるのか。気になって、俺も師匠の後に続こうとすると――


「――カザネッ!!」


 俺の頭の上を何かが、というか言うまでもなくサラが、跳び箱のように跳び越えて行って、俺は危うく転びかけた。

 サラを睨み付けようとして、俺はあり得ない光景を見た。


 サラが……浮いてる。

 モモンガみたいな体勢のまま、サラは上空二メートルの辺りで浮遊していた。


 目を擦って、もう一度見てみると、それでもやっぱり浮いていた。


「サラ、元気にしてた、か?」

「うんっ!!」


 風音聖官が笑顔で立ち上がって両手を広げると、サラはその神官服の胸の中に着地した。

 ギュウッと、サラが抱きしめると、風音聖官はサラの頭を両手で撫で繰り回した。どうやら、二人はとっても仲良しらしい。互いに呼び捨てだし。

 確か、風音聖官はサラの師匠だったはずだが……俺と師匠の関係とは似ても似つかない。


 横目でサラと風音聖官を見つつ、俺はフレイさんたちの方へと向かった。

 机の上を見る。


「あれ?」


 何かあるのかと思っていたが、机の上は空っぽだった。

 俺は、ムスッとした顔のフレイさんに目を向けて、


「フレイさん、一体どうしたんですか? 負ける、とか何だとか……」

「お? 何だ。小僧もこう言うの興味あったのか。――よし、金を出せ」


 なぜに?


 マジマジとフレイさんの顔を見つめると、


「おいっ、さっさと金出せよ。もしかして聖金貨の一枚も持ってないのか?」

「いえ、あっ……聖金貨は無いですけど、銀貨なら」


 俺は神官服の内ポケットから、銀貨を取り出した。

 狼の姿が刻印された、章狼正銀貨。

 華では金貨よりも銀貨の価値が高く、華における王国金貨みたいなものだ。


 これ……銀貨って言ってるけど、プラチナなんじゃないかと俺は密かに思ってる。

 だって、全く錆びないし。まあ、どっちでもいいが。


 師匠は素早い手付きで俺の手から銀貨を奪い取ると、しげしげとそれを見つめた。


「おぉ? 珍しいもん持ってるな。聖金貨じゃねぇけど、これなら――おい、風音」

「なに、か?」

「もう一勝負、行こうぜ」

「懲りない、ね」


 風音聖官はサラを床に置くと、椅子に座った。

 状況が良く分からずに呆けていると、突如として首根っこが掴まれた。尋常でない力で引っ張られて、無理やりさっきまでフレイさんの座っていた椅子に、入れ替わりに座らされる。


「俺じゃねぇぞ? 次はコイツが勝負だ」


 目の前に風音聖官が座っている。

 圧力。ジッと見られている……ような気がする。

 見えているはずがないのに、確かに値踏みをされている気配がする。


「……いいね。勝負は、何にする、か? 大したものは、ないけど、ね。賽子に――」


 フレイさんが投げた銀貨を受け取って、風音聖官はニヒッと笑った。


「――金幣。どっちでも、いい、ね」

「……はい?」


 助けを求めて、俺は師匠へ目を向けた。

 師匠は、ふぅーと息を吐いてから、自分の眉間に指先を押し当てる。


「賭博ですよ。そこの風音聖官は大の賭博好きでしてね、色んな聖官に勝負を吹っ掛けるんです。そして……私の知る限り、その全てに勝っています」

「それって」

「そう、いかさまです」

「――聞き捨て、ならない、ね」


 風音聖官が、口をへの字に曲げていた。


「いかさまなんて、してない、ね。私、すごく運がいい。それだけ、よ」

「……風音聖官は尋常ならざる豪運を持っていますから、勝負をするなら負けると思っていた方がいいでしょう。――先生」


 師匠は、フレイさんへと冷たい瞳を向けた。


「先生も、アル聖官を巻き込まないでください。先生と違ってアル聖官は真面目なんですから」

「巻き込んでなんてねぇぞ。小僧が自分でやりたいって言ったんだ――なぁ?」

「いえ……そんなこと言ってないですけど」

「いや! 俺はしっかりとこの耳で聞いたぞ。ちょっと教えて欲しいですーってな」


 ……別に、実技で教えて欲しいなんて言ってないんだが。ちょっと、気になっただけで。

 でも、まあ……。


 俺は、チラリと風音聖官に目を向けた。

 バスケットボールを回すみたいに、ピンと立てた人差し指の指先で、俺の銀貨を回している。


 思わず、二度見した。


 クルクルと、かなりの速度で銀貨は回っている。


「するの、か。しないの、か。私は、どっちでもいい、ね」

「……やります」

「ふっ、賽子、金幣?」

「せっかくなので、その銀貨で」

「あい分かた、ね」


 パシッ、と風音聖官は銀貨を掴み取った。


 ……正直、あんまりこんなことは言いたくないけど、俺はお金には困っていない。章狼正銀貨一枚くらいなら……まぁ、面白そうだし、使ってもいいだろう。


「掛け金は、コレ。私が勝たら、そのままもらう、ね。そっちが勝たら、私が金貨一枚あげる、ね」

「分かりました」


 俺が言うと同時、風音聖官は、自分の隣に座っていたサラに向けて銀貨を放った。サラは慌てた様子もなくそれをキャッチすると、マジマジと手の中の銀貨を見つめる。


「ワタシ?」

「頼んだ、ね」


 何かのやり取りをしてから、風音聖官は俺の方を見た。


「勝負は、簡単。まず、そっちがどの目が出るか、宣言する。次に、私が宣言する。それから、サラが金幣を弾く。当たてた方が、勝ち、ね」

「えっ、それでいいんですか?」

「いい、ね。それと、もしも私が、いかさましてるって証明できたら……そう、ね。十倍にして、返してやる、よ」


 風音聖官は、ニヒッと笑う。


 勝負の形式は単純なコイントス。しかも、先に宣言するから、例えば超人的な感覚でどっちが出るかを当てることもできない。

 だとしたら、必勝のためにはコインそのものを操作するしかないが……そんなもの、どこかしらに必ず違和感が出る。

 わざわざいかさまの条件を付けてきたってことは、それだけの自信があるってことか?


「…じゃあ、狼が描かれてる方で」


 特に深く考えることなく、俺は言った。

 銀貨は片面には狼の姿があって、もう片面には華の皇帝紋が描かれている。どっちが表でどっちが裏なのかは知らないが――


「私は、その反対、ね」


 俺が狼側を選んだから、自動的に風音聖官は皇帝紋側になる。

 風音聖官が言った瞬間、サラが銀貨を弾いた。


 風切り音を響かせながら、銀貨は俺と風音聖官の間に放物線を描く。

 俺は、何か変な挙動がないか、全神経を集中してその軌道を観察する。

 サラはかなり上手に弾いたようで、俺の目からしても、止まっているようには見えない。それなりの速度で回転している。


 仮に見えたとしても、それだけでは銀貨の挙動を予測することは不可能だろう。机に落ちれば複雑な運動をするはずだし、そんなものを人の頭で考えられるはずがない。

 もしも可能なのだとしたら……それは、何かしらの手によって操作してる以外にあり得ないけど……。


 銀貨の挙動を見るに、不自然な点はない。


 机に衝突した銀貨は一度、斜めに高く跳び跳ねた。

 再び、金属音を響かせながら着地して、その場で円を描くように回転する。


 そして――


「私の、勝ち、ね」


 何の不自然な所もなく、銀貨は皇帝紋の側を見せて停止していた。

 それを、ヒョイッと風音聖官が摘まみ取る。


 なんだか騙されたような気がする。

 負けた、それはいいんだけと……ただただ二分の一の確率に負けただけで、悔しくとも何ともない。せめて、例えば表も裏も出ず、銀貨が立ったまま停止したとかだったらスゲーってなるのに……ごくごく普通の結果だし。


 不満の視線を向けると、フレイさんはニヤニヤしていた。


「どうだ? 何も変な所が無かっただろう」

「ええ、まあ」


 頷いて答えると、師匠が口を挟んできた。


「ですが、似たような勝負を、彼女は少なくとも数十回勝っているはずなんです。聖官相手に。しかも、その誰もが種を発見できていない。これ以上は続けない方がいいと思いますよ。ちょうど、そこに絶好の凡例がいます」


 師匠に指差されたフレイさんは、苦笑しつつ、


「まっ、十回は負けてるわな。何とか仕組みを知りたくて俺の方から毎度吹っ掛けてるんだが、さっぱりでな。小僧ならもしかして……と思ったが、やっぱ難しいか」

「だから、種なんてないって、言ってる、ね」


 風音聖官は俺から勝ち取った銀貨を天井高く放ってー


「狼」


 キンッと音を立てながら銀貨は何度か跳び跳ねて、狼の面を上に向けて静止した。やっぱり不自然な所なんてどこにもない。

 ……というか、今気づいたけど、そもそも風音聖官は目を閉じてるのに、どうやって銀貨がどちらを向いてるのか認識してるんだろう? 謎だ。


 風音聖官は机の上から銀貨を拾うと、それを隣のサラに渡した。


「あげる、ね」

「いいの? コレ、お金でしょ? よく分からないけどだいじなモノだって、イプシロンが言ってたけど」


 サラはキョトンとした顔で首を傾げる。

 風音聖官はニッコリと微笑んで、


「黒狼の描かれた物を持てると、幸せになれるて昔から言う、ね。その銀貨、いい御守り。私はいっぱい持てるし、サラが持てる方がいい、ね」

「ふぅーん……」


 唇を尖らせながら、サラがチラリと俺の方を見てきた。


「アルは、持ってるの?」

「ん?」


 「コレ」と言って、サラは手のひらに乗っけた銀貨を見せてきた。


「ああ、何枚か持ってる……それにどうせ王国とか帝国じゃあ使えないからな。遠慮せずにもらっていいぞ」

「じゃあ、もらう!」


 パッと笑ってから、サラは風音聖官の方を向いた。


「カザネ、ありがと!」

「気にしなくていい、ね」


 風音聖官がポンポンとサラの頭を撫でていると、突然弾けるような音がした。

 見ると、師匠が両手を打ち鳴らした所だった。


「お遊びはこれくらいでいいでしょう。荷物は、先日教会から届いています――そこに」


 師匠の視線の先、ベッドのすぐ傍に目を向けると、小ぶりなリュックが四つ床の上に置かれていた。


「……もう少し、ゆっくりしていきたかったんだがな」


 残念そうに呟きながらフレイさんはベッド際に向かい、両手で四つのリュックを拾う。

 「ほれ」と、かなりの速度で放られたリュックは、コントロールよくそれぞれの手の中に納まる。


 中身を見てみると、乾燥した食べ物らしきものと幾らかの服。それと、小袋がいくつか……あれ?


「神官服はここで脱いでけよ、無駄に目立つからな。替えの羽織がその荷物の中に入ってるから、それを着ろ」


 言いながら乱暴に神官服を脱ぐフレイさんへ、俺は困惑の目を送った。


「あの、フレイさん?」

「なんだ?」

「この荷物、水がないんですけど……大丈夫ですか?」


 フレイさんは、なんだこいつ? みたいな顔で俺を見てきた。

 俺、何か変なこと言ったか?


 聖官として暮らした一年、俺は師匠と一緒に色んな場所へと任務へと向かった。旅の経験はそこそこある。で、人がいない場所――未開の密林や、無人島、そこへの旅で最低限必要な荷物は、水だ。

 聖官と言えども、水が無ければ三日で死んでしまう。そして、現地で常に水が手に入るとは限らないのだ。


 ……まぁ、聖官の胃袋なら多少の汚水くらいは大丈夫だけれど、未知の何かヤバい物質が入っていないとも限らないし、そもそも汚水なんて飲みたくない。師匠の話で聞いたのだが、昔水源の無い岩石島に閉じ込められてしまった聖官がいたらしいんだが、その聖官は海鳥を捕まえて、その血液で喉を潤したんだとか。


 ――絶対に、嫌だ。


 だから、俺は師匠に倣って、そういう任務の時は最低限の水を持ち歩いていた。



 今、俺たちがいるのは砂漠だ。砂漠なんて、水が一番大切な場所だろう。そのはずなのに、リュックの中には水らしきものは一つも入っていなかった。


「水なら幾らでも手に入るから、心配しなくていい。それより、さっさと準備しろ」

「あ、はい」


 ピシャリ、と言われて、俺はすごすごと引き下がった。

 リュックの蓋を閉めて、神官服を脱ぐ。リュックを背負うと、俺以外の三人の準備は既に終わっていた。


 茶色の――ちょうど砂漠の砂と同じような色の羽織を着ている。これなら、遠くから見てもそう簡単に見つかることはないだろう。


 フレイさんは、俺たち全員をグルリと見渡した。



「じゃ、行くぞ」



 ○○○

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