目を覚ました人です。
連載、始めました。
勇者と魔王の子って…
ー日本某所ー
「ふいー、終わった終わった」
「この後一杯どうですか?」
「お、いいですな。じゃ、後は頼むよ」
「…お疲れ様でした」
やはり今日もそうだった。確かに自分にはこれと言った特技や誇れるものは無く、
企画も通った事も無いため、永遠の平社員ルートを辿っている。
「何してんだろ、俺…」
会社を出て、歩きながらそんな事を考えていた。
そろそろ心身共に、限界が近づいて来ているようだった。
「はぁ、こりゃ来世に期待って事で…」
『おい!!危ねぇぞ!!』
「え?」
急に響いた怒号に一瞬反応が遅れた。そして…
キキッッッッッッッ!!!!!!ドンッッッッッッ!!
一瞬何かが光り、それは徐々に広がり俺を包んだ。
あぁ、死ぬのってこんな感じなんだな…
一つの命が途絶えた時、ある場所では新しい命が生まれていた。
それは日本と、世界を変える、大きな出来事だった。
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「父さん、この先かな?」
「あぁ、もう少し先にいるはずだ」
あぁ、なんて普通で、平和な会話だろう…これが狩りではなければ。
今年で7歳になり、ようやく親同伴での狩りが認められた。と言うより許して貰った。
7歳の喋りじゃ無いって?そりゃ記憶があるんだもん。
記憶が蘇ったのは2歳の時。梯子から落ちた衝撃でだった。
最初は混濁していたものの、意識がはっきりすると叫んでしまった。
そう、俺は転生したのだ。魔人が住み、魔物が蔓延り、何より魔法があるこの世界に。
それを知った時は歓喜狂乱だった。そして、目の付くもの全てが新鮮だった。
名前は、レン=ファウスト、ファーストじゃなくてファウスト。
父さんは、全てに興味を持ち、聞いてくることが嬉しかったのか、どんどん教えてくれた。
…母さんに内緒で。
そう、母さんに内緒だったのだ。一度理由を聞いたら、
「母さんに言った日が、俺の命日だ」
と言っていた。
母さんに内緒であれもこれも教えて貰い、さぁ、実践だと意気込んだ昨日、ついにばれたのだ。
きっかけは些細な事だった。翌日、つまり今日の準備をしていた父さんがうっかり口を滑らせたのだった。
普段使っている念波の魔法を切った状態で喋ったのだ。
あの時の事はあまり思い出したく無い。と言うか記憶が無い。
父さんが言っていた事はとても理解した。充分な程に…
夜中、父さんの懇願の声が、家に響き渡ったのは言うまでも無い。
さて、話は戻り、現在に至る。
今日、目が覚めてリビングに行くと、ズタボロになった父さんがいた。
朝食を摂り、森に入った。
因みに、家は森の中にあり、ひっそりと暮らしている。
大体、食料は森の中で獲り、近くに平原があったのでそこで魔法の練習をしていた。
あった、と言うのは、5回目ぐらいの魔法の練習で荒野に変えてしまったからである。
森の中を歩いていると、魔物の反応があった。
それが冒頭である。
魔物は、と言うか全ての生き物に対して〈魔力感知〉は使える。
全ての生き物に魔力は存在する。木も、空気にも、この世界自体が魔力そのものだ。
〈魔力感知〉は父さんから教えて貰ったのだが、生き物だけと思っているらしい。
んで、〈魔力感知〉に引っかかった魔物の魔物は禍々しいものだった。
「なんて言うか、負の感情って言うか、そんなモノを圧縮したみたいな感じがする」
「フム、流石は私の息子だな。良く分かってるじゃないか」
でも少し、
「大き過ぎない?」
「確かにな…少し急ぐぞ」
そう、魔物の魔力は感じた事はなかったが、妙に大きかったのだ。
少しスピードを速めながらその場所に着く。そこには、
「おお、デカイ」
「ムム、確かにデカイ」
「虎かな」
「虎だな」
そこに居たのは体長5mにもなる様な、巨体の虎、サーベルタイガーに近いかな?
おぉ、初めて見た。やっぱ魔物ってこれが基準なのかな?
「それじゃ、行くぞ!!」
「ま、待て!!」
なんか聞こえたけどいいか。
俺はすぐにカタをつけるため、懐ろに潜り込んで首を狙う。
だが、思ったよりも動きが速かった。巨体の割には動けるな。
「これなら、どうだっ!!」
後ろに後退する事でかわした虎を、今度は身体を捻りながら、転がる様に地面すれすれを飛ぶ。
何回か地面を抉りながら虎を切る。よし、手応えはあった。すると、
ドシッ
虎の首が落ち、遅れて身体が倒れる。
ズシン!!
こんだけデカイと、倒れるだけで地面が揺れる。
ふう、少し、本気で動いたからお腹がすいたな…
「お腹が空いたから帰ろ?父さ…ん?」
「お、おぉ、帰ろうか。少し待ってろ」
「はい」
そう言って、父さんは虎を血抜きをして、持って帰る様だ。
少し神妙な顔をしながら家に帰っていった。
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「これを…あの子が狩ったの?」
「あぁ、瞬殺だった」
「…そう」
レンの両親である二人がリビングで話していた。
難しい顔をしていた。
「俺の剣技、お前の魔法を受け継いでいるようだ」
「それは…そうなるわね」
「…」
「もう、あの子も世に出ないとね」
「あぁ、そろそろ向こうの世界との干渉の契約期間に入る」
「そうね。引越しもあるものね」
「やっぱり通わせるのか?」
「そうね、こんな森の奥に引きこもっていたんだもの」
そんな会話は朝になるまで続いていた。
それは世界そのものの常識を覆し、変えていくとも知らずに…
お楽しみ頂けたでしょうか?
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