第九十七話 新たな村、作りませんか
「よう、マルリさん!飲んでるかい」
ちゃっかり女神主催の飲み会に参加していたマルリさんに声をかける。ビールに夢中になっているようだったが、声に気づくとにっこりとこちらに手を振ってくれた。
「おお、ユウ殿ではないか。どうしたんじゃ?またあのオンセンに入れてくれるのかの?」
「はは、気に入ってくれたようで何よりだがアレの開店は少し待って欲しいな。というか、その温泉に関わる話をしようと思うんだけど……平気かい?」
見た目は幼女、仕草は幼女、されど中身はかなりの御年!そんなマルリさんは、というかこの種族は酒を飲んでも大して顔に出ないため酔い具合がつかめないのだ。
あまり泥酔している状態で大事な話をしても―と思うのだが、後日「何の話だったか」と言われたらまた話をつければ良いだろう。別にそこまで急ぐ話でも無いしな。
「酒はの、うまい。うまいが、限界まで飲むとの、パタンと眠ってしまうんじゃ。朝までぐっすり眠ったら疲れなんてひとっ飛びじゃい。お前さんが気にしてるのは頭がしかと働いているかじゃろう?
平気じゃ平気!頭まで持ってかれるのは若い連中くらいじゃよ。80を超えるとな、とんと平気に名るんじゃよ」
80歳から酒耐性が強化されるって恐ろしい種族だな。まあいい、それなら話も出来るってもんさ。
「前に話したと思うけど、俺達は物々交換の際に現物の代用となるもの、”金”を使ってるんだ。例えば今なら酒を造ってる人のところに行き、肉と交換して貰ったりするだろ。
でも、それだと肉がもう要らない!って時に肉で交換したい人が来たら困っちゃうわけだ。優しい人なら仕方なく肉と交換するが、そうじゃない人は断ってしまうだろう。
でも、俺達の方法なら酒の交換に肉では無く金を渡すんだ。その金はかさばらずなんにでも交換できる。俺達がこれから始めようとしている温泉なんかだと特に都合が良い。
1回銅貨2枚、パン4個と同じ価値を持つ金を払って温泉に入るわけだ。俺達はそうして集まった金を持ってお前達の村で武器や酒を買う。
俺達から金を手に入れた者達はそれを持って温泉に来て入浴したり、中でビールを買ったりするわけだ」
「なるほどのう、今までの物々交換だとたまに面倒な事がおきてたからの。武器なんてそう手に入れたくなる物じゃなかろう?食べ物と交換を頼もうにも断られることが多くてな、よく相談をうけておったんじゃ」
「そういう不平等が無くなる良い仕組みだからさ、是非導入してくれないか。もしそうなったらこっちでも武器を沢山買い取ることが出来るしさ」
マルリさんは少し考えるような顔をした後、村についても聞いてきた。金を使うなら村の仕組みを導入しないと面倒だからな。
「うちの近所の集落を村というものにした、という話は前にしたよね。それは指導者を中心にそれを補助する役割を持つ人を数人で集落の運営をする仕組みなんだ。
今でもマルリさんが村長と似たような事をしてると思うけど、もう少し仕事が増えるし、他の村の村長と会議をすることもあると思う。
「なんだか大変そうじゃのう。わしにできるじゃろうか」
「心配しなくても良いさ。はじまりの村の村長だって元はただの狩人だからね。村の若い奴が補助についているからあまり苦労はしてないみたいだよ」
「その補助というのはわしにもつけてくれるのかの?」
「ああ、勿論。最初からこの村の補助というのは難しいだろうから、俺の知り合いを今度連れてくるよ。しばらくの間そいつとここの若い奴をマルリさんにつけようと思う。若い奴には徐々に仕事を覚えて貰って、最終的には全部ここの人で賄えるようにする予定だよ」
そこまで言うとようやく安心したような顔になった。いきなり村と言う物を提案され、今より面倒くさそうな村長をやれと言われても普通は困るからな。
「それで村長の一番大切な仕事はお金の管理、そして村長会議だね。最初のうちは定期的に村の家庭、1世帯ずつにいくらかずつお金を配るんだ。その管理と、始まりの村との村長会議。
会議は俺の家にあるゲストハウス……今は宿屋になってたか……、そこを使ってやるからちょっとした旅行みたいなもんだと思って良いよ。(直ぐ着くけど)」
村長会議と言った時面倒くさそうな顔をしたマルリさんだったが、俺の家出やると言った瞬間食らい付いてきた。
「ここではない何処かに連れて行ってくれるのかの!?」
「ちょ、マルリさん顔近いから!色々不味いから!そうだよ、旅という感じでは無いけど、会議の日は俺の家に連れて行くよ」
「わしは生まれてこの方、いや、わしらはみんなこの住処周辺から出たことが無いんじゃ。外は寒いじゃろう?いくらモコモコを着て行ったとしても遠くまで行く気が起きんもんね。
じゃから、ここでは無い別の地、わしらとは違う人間達が暮らす土地を見られるとはわくわくなのじゃよ」
「わくわくなのかあ、うんうん、そういう事なら村長頑張ってくれよな」
よしよし、村の話はうまくいきそうな気がしてきたぞ。
……しかし、ここの人に限らず、この世界の連中はあんまり旅に出ようとする奴が居ないんだよな。始まりの村でもドワーフの話を聞いたことが無かったし、無難に無難にと言う性格のキャラ設定がされてるんだろうか。
ん?となるとシゲミチ達が純粋なこの世界の人間で初めて長距離を旅した人間になるのかも知れないな。
しかも他の種族と交流を持つ初めての存在というのもおまけに着いてくるし、地味に偉業を達成させることになってしまうな。
……「人間族で」というくくりを無くすればそれらは全てモルモル達が該当してしまうのだが、それは内緒にしてシゲミチSUGEEEEEに徹しよう。乗せてあげれば良い仕事をしてくれるだろうて。