第九十二話 温泉お披露目会その2
「あー!ほらほら!先にそこで身体洗って!ただでさえ毛が抜けそうなんだから!」
どれが大人でどれが子供なのかわからない猫耳の群れを統率するのは無理ゲー過ぎる……。
せめて大人たちがどれなのかパっと見でわかればなんとかなるのに、誰よ、こんな設定にしたの!
あたしでした……。
「ルーちゃん、あっちをお願いするわね。ナーちゃんも使い方覚えてるでしょ?向こうの人達に教えてあげてね」
「はーい!」
「わかりました!母上!」
はー、一体どうなることやら……。
◆◇◆
「こらこら!髭共!まだ入るな!!!先にそこで身体を洗え!!!」
どれがおっさんでどれが子供かだなんてこの際どうでもいい。どうせこいつら大人も子供も等しく言うこと聞かないだろう。
「おら!言うこと聞かないと湯上がりの旨い酒はなしだぞ!」
酒をちらつかせた途端、真面目に話を聞き出しやがった。わかりやすい性格だがこれはこれで頭にくるな。
「あー、モル…モル……ええと…」
「モル山です」「モル次郎です」「モルランです」
「ああ、そんな感じ。じゃあ、モル山はあっち、モル次郎はそっち、モルランはあそこの髭どもに風呂の使い方を教えてやってくれ。くれぐれも身体を洗う前に風呂に入らないよう目を光らせろ」
「「「御意!!」」」
ったく、せめてこれがモフモフパラダイスだったら、猫耳の群れだったらまだ気分が良かったんだけど、混浴の夢は消え去ってしまったしな……。あっちはきっとキャッキャウフフと楽しくやってるんだろうな。
◇◆◇
「だーーー!!!泳いじゃだめ!だめだめ!水しぶきがかかるでしょ!あ!石鹸で滑って遊んじゃだめよ!もーーーーー!!!」
まったくこの猫共は落ち着くってことを知らないのかしら?まだ髭の方が言うこと聞きやすそうで羨ましいわ。もしも私がユウだったら、髭共とのんびり湯に浸かりながら一杯やってるとこだったわね。
きっとユウ達はまったりしてるんでしょうねえ……はあ、腹立たしい……。
◆◇◆
「こらこらこらーー!!!!どっから持ってきたその酒!!そんな強いの飲みながら入っちゃだめ!だめったらだめ!!!どっかの駄女神みたいに湯船で寝ちゃうから!お前らが真似したら次起きた時転生先だから!だめったらだめ!!!!」
まったくこの髭共め、酒をちらつかせたのが悪いのかどっからか酒を持ち出してきやがった。猫耳達も酒はスキみたいだけど、ここまでじゃなかろう。
はあ、何で俺……女の子じゃねえんだろう……。
「さ、おっさんどもそろそろ上がるぞー。このまま入ってたらドワーフの煮込み料理になっちまうからな。ほらほら、上がった上がった!酒が待ってるぞ!」
温泉に入って疲れるっていうなかなかのレア体験をしてしまった。女達も丁度上がり始めたところだったようでボチボチとロビーに人が増えてきた。
パンは……と、なんだか疲れた顔をしてるな……。隣の芝は青いってやつか。あっちはあっちでなんか色々大変だったんだな……。でも猫耳だからいいだろ…こっちは……髭だ……。
「色々言いたそうな顔をしてるが…俺も耐えたんだ……まずは…飲もうぜ…」
「あんたも苦労したんだね……うん、のもっか……」
パン秘蔵の無限ビールサーバーを出してもらい、俺とパンの分を注いで見せる。
「これはな、こうやってこう!そして…こうだ。んでもって一気に……ぐいっといく!………ぷっはあ……!!!髭に…乾杯!」
「む!なんだか知らんが旨そうだ!!ユウ!俺達にも飲ませろ!}
「はいはい!押すな押すな!めんどくさいからさっきの容量で自分でやれよ!」
「あ!くれぐれも壊さないでよ!それあたしのなんだから!」
押すな押すなとドワーフが殺到する。注いだそばからその場で飲もうとするもんだから酷い有様だ。
「こらーー!!!注いだらさっさとどっかいって座れ!!次の人の邪魔になるだろ!」
度数が低いためか、さっさと飲んでまた直ぐ並んでやがる。無限ビールサーバーvs無限ドワーフ!終わるのか?このループ……!
見てるとパンのやつもちゃっかりループしてやがる。いやまあパンの私物だから構わないけど、なんか君、今日ずっと飲んでない?
って、子供たちまで飲んでるんじゃないのかこれは!?
「あー!だめだめ!一応だめ!子供たちはこれを飲みなさい!」
予めボックスに入れておいたよく冷えたフルーツ牛乳を取り出し子供だと言う連中に持っていってもらう。多分、おっさんやおばちゃんも混じってるんだろうけどこの際どうでもいいな!
こっちはこっちで気に入ってくれたようで口々にうまいうまいと言っている。
「どうせ聞いてないだろうけど一応言うからな!ビール飲み放題は今日だけだぞ!!!後は飲むのに特殊な物々交換が生じるからな!」
「そんな殺生な」
「ええい!美味しいものには対価が必要なんじゃい!」
これはさっさと村の整備をして金取らないとホント駄目だな。何が駄目かってパンが率先して飲みまくってるのがだめだ。
このままにしておいたらきっとドワーフ達のせいにして毎日入り浸って酒浸って駄女神度が急上昇しちゃうわい。
とは言え、なんだか今日はもう働く気がしなくなったし俺も…今日は……!
「おらおら!どいたどいた!俺にもビールをよこせえ!!!」
こうしてこの集落2回めとなる大飲み会が始まり、翌朝2回めの大二日酔いを迎えるのだった。
……モンハンを…買って…しまった……。