第八十九話 温泉施設
なんだかとってもしょうも無い時間を過してしまった気がする……。気を取り直して作業に入るか。ピシッと整列しているモルモル達はやる気に溢れている。ほんとうちの駄女神がすいません!って感じだ。
「さて、すまんなモルモルAからC!っと、喚びにくいから一応名前をやろう。順番にモル山、モル次郎、モルランだ。話はモルゾウから聞いてるな?基礎は作ってあるから取りかかってくれ!」
「「「了解」」」
ピシッと揃ったその返事はモル助ブートキャンプの効果だろう。現在うちの水回りはモルゾウとモル助2匹のモルモル達により管理されている。
うちのモルモル達は女神水により妙に知能を初めとしたステータスがやたら高くなっているが、モル助はその影響が強く,元々理屈っぽい性格だったのも有り知将とも言えるほどに育っていた。
そのモル助が日頃から掃除の合間にやっているのが新人研修、別名モル助ブートキャンプだ。定期的に湿地帯に出向いては若いモルモルをスカウトし、ルーちゃんに使役させた上で地下で特訓。立派な清掃用モルモルに育て上げ、たまにダンジョンにも派遣しているようだ。
今回やってきたモル山達はその卒業生とも言えるモルモル達で、モル助に鍛えられているだけあり中々優秀だ。
基本設計は家やゲストハウスの浴場と変わらないためスムーズに作業をしていく。ただし、今回はお湯も外から引く必要がある。そのため上水の経路が通常の風呂より1本増え、浄化槽も1槽増やしている。
浄水槽を増やしたのは念のためだ。今回排水するのは温泉の湯だ。場合によっては通常の湯よりも高温の物が流れ込むことが考えられる。モルモルがどれだけの熱に耐えられるのかはわからないが、あまり熱いお湯が流れ込むようでは気の毒。
なので第一槽に取りあえずため、加水や放熱で水温が下がってから第2槽へ流す。そこでモルモルが浄化した後、池に放水する。池の水は余剰分が川に流れ込むようになっているが池でもモルモルが浄水するため、多少水温が高い以外は川に影響を与えることは無いだろう。
槽の開閉スイッチを取り付け完成だ。これは魔道具なので面倒くさいギミックは全部魔法的なあれやこれで上手いことやってくれる。けして解説が面倒くさいとかそういう事では無いぞ。
ここまで来れば後は上物だ。建造キットを立ち上げ図面をスキャンさせる。後は範囲を指定すれば……おしまいだ。
後は建造ボタンを押すだけで5分ほどで作業終了だ。旅の途中暇つぶしに回収した資材が沢山あるし、建造資材に困ることは無い。3Dプリンタ的にジワジワ出来上がっていく建造物はなんだか気持ち悪いが、住んでしまえば一緒なので気にしないのだ。いや住まないけどさ。
無駄に日本家屋的なデザインにこだわってしまったので、ストックから粘土がゴッソリ無くなってしまった。粘土はカッパのオッサンにキウリを上げれば埋蔵地を見つけてきてくれるため、入手自体は楽なのだがオッサンの相手が面倒くさい。
あいつら皆ダンジョンに消えれば良いのに……。
と、あっという間に建物が出来たな。今回はしっかり内装の設定画もつけたので中身もサクッと出来上がっている。家を建てた時のように後から竈が無いーとか騒ぐ心配は無いのだ。
今後のことを考え、浴場の他に食事を取れるスペースと厨房、休憩室。2階には宿泊施設も用意した。
最初はお試しで無料にするが、村化したあとはお金を払って利用して貰うようにしたかったので入り口に受付も設けた。
受付でお金を払うと鍵を渡され、その鍵を持って中に入る。その際には靴を脱いで鍵の番号に該当する下駄箱に靴を入れて鍵を閉める。
その鍵は浴場のロッカーにも使うことも出来るのだ。よくあるスーパー銭湯的なアレですね。
誤算だったのがその鍵だ。下駄箱とロッカーは一応男女それぞれ50セット、合計100セット作ったわけだけど、鍵に結構金属を使ってしまった。クロベエやルーちゃんがたまに拾ってきてくれてたのがゴッソリ消えてしまったので、ここの鉱山で少し稼いでいく必要があるな。
……やり過ぎないようにしないと。
さて、完成しちゃったけどどうすっかな……。気分的にはこのまま温泉に浸かりたいんだが、パンを放置して先に入っちゃうと後からめっちゃ言われそうだ。しかも2ヶ月くらい毎日だ。
とは言え、さっさと試してここの人達を集めた体験会を開きたい。
……しょうがねえなあ。
「ルーちゃん、パンを呼んでくれないかな?ルーちゃんが声をかければきっと届くよね?」
「ママ?うん、わかった。ちょっと待っててね」
間もなく,パンが目の前に現れた。コップ片手に満面の笑顔で。
「だからあたしいってやったのよー……ってあれ?あれれ?ユウ?あれ?」
なるほど、「呼んでくれ」っていったのを「喚んでくれ」と解釈したのか。ていうか女神を召喚できるダンジョンコア……というかこいつ使役されてたのか……?女神とは……っつうか……。
「なんで素材回収に行った人がドワーフと仲良く酒飲んでるんすかね」
「え?あ?ああああ、こ、これは違うの、おっさんが駆けつけ三杯って……」
「そこは一杯だろうがよ……、まあいいや。罰は後から倍増させるとして、温泉が出来たから試してみようぜ」
罰と聞いてゲンナリした顔をしていたが、後ろを振り返り温泉施設が目に入ると目に見えて明るい顔になった。
「あんたたまに才能見せるわよね!やるじゃない!」
「はいはい、どうもどうもっと。あー、ちなみに土足禁止だからな。スーパー銭湯方式でよろしく!」
そう言われて直ぐに理解する辺り日本に来すぎだ馬鹿者め。
ニコニコとルーちゃん達の手を引いて中に入っていく。こいつ風呂でそこそこ酷い目に遭ったばかりだというのに平気なんだな……。豪胆というか何というか……。
まあ、馬鹿なんだろう。