第八十八話 女神に迫る危機
結局朝になってもパンは帰ってこなかった。一体何があったのだろう?ああ見えても責任感が強い女神だ。まさか、昨日の夜転送先で何か事件に巻き込まれたのでは……?
なんてことは微塵も考えなかったが、ルーちゃん達やクロベエ達に朝ごはんを食べさせている時に漸く戻ってきた。
「……ったく、結局あっちで寝てきたのかよ?随分と遅かったな……って、疲れた顔をしてるな?何かあったのか…?」
風呂に浸かり、フカフカのベッドでゆっくり休んできたとは思えないほど疲れた顔をしている。二日酔いだろうかとも思ったが、何か様子がおかしい。
「……別に…大丈夫だから……、気にしないで……」
「そっか、ほらほら、ナーちゃんこぼしてるよ。ルーちゃんもここ、ついてるよー」
「いや、そこはもう少し食い下がって聞きなさいよ!……まあ、聞かれても話さないけど」
うん、そう思って突っ込んだ話は聞かなかったんだけどめんどくせえ奴だなあ。
食欲がなさそうな顔をしていたけど、一応スープを出してやったらご飯も欲しいと言い出した。
うん、こりゃほっとこう。
食事の後、モルモル達を召喚していよいよ施設の作成となった。パンがルーちゃんと手を繋いでいる。昨夜話をつけたモルモル達の情報を共有しているらしい。パンがロックオンしてルーちゃんが召喚するような感じか。便利な技だな。
今となっては見慣れた光が立ち上りモルモル達が召喚されてくる。予定ではこの後すぐに説明をして作業に入るはずだった。
しかし、現れたモルモル達の報告により其の予定は狂う。
昨夜の件だ。何故パンが、何故女神ともあろう存在が朝まで帰ってこられなかったのか。至高の存在でありながら何故あそこまでのダメージを喰らっているのか。其の謎が明らかにされた。
「む……ここは?おお、ここが新たな現場」
「そのようだな、同胞よ。おお!そこにおわすは女神様!昨夜は大変でしたな!」
モルモルBの発言に顔色を変え黙るようにジェスチャーをする女神。しかし、それはモルモル達には伝わらなかった。何故なら彼らには手足が無いのだから。
人差し指を立て顔の前に出されたからと言って其の意味がわからない。何故ならば普段から其のような行動を取ることがないからだ。
モルモルBに続くようにCが口を開く。
「驚きましたぞ、女神様が湯の底に沈んでいたのを見つけた時は……。寝ていたとの事ですが、本当に大丈夫なのですか?」
湯の底に……?いや、寝ていた……?
「おい、女神様よ」
「よ、ようし!じゃ、ルーちゃん、ナーちゃんいくわよー!今日は火のダンジョンと塩のダンジョンの接続をー」
「おら、まてよ女神様。湯の底で寝ていた?どういうことか人間にわかりやすく説明してくださいませんかね」
風呂――、それは命の洗濯とも言われる至高の場所。暖かな湯で身も心も解され、その湯に1日の疲れが溶け込むに従って襲い来る睡魔。其れに抗えなかった者は命を狩られることすらある……。
付き合い方を1つ間違えば天国から地獄へ変わる場所、それが風呂。
「べ、べつにい?よ、よくあることじゃない?お風呂で寝ちゃうとかさ」
良くある、良くあってはいけないが珍しい話ではない。広めの浴槽で眠ってしまったがために全身が湯に浸かり溺れてしまう、確かにそれほど珍しい話ではなく風呂での事故としてもあげられることは多い。
しかし……。
「我らの助けを要らぬとばかりに払いのける故、平気かとそのままにしましたが、まさか朝までそのまま寝てしまうとは……。本当にお体は大丈夫なのですか?」
モルモルAが凄まじいことを言っている。元気そうだから突っ込んだ話を聞く気も失せているが、なんとなく聞いておいたほうがいいだろうな。
「なあ、モルモルが凄いことを言ってるんだが、これって多分お前が怠そうなのと関係あるよな?」
「うう……。お風呂で寝ちゃうことあるでしょ?でね?そのままお湯にドボンしちゃうこともあるでしょう?」
「ああ、多くの場合それで目を覚ますか、最悪の場合そのまま……だ」
「うん、でさ、結構酔ってたじゃない?お湯が気持ちよくてね?まあ良いかこのままでも……って。ほ、ほら、私女神じゃない?余程のことがないと消滅しないから……」
「まあ溺れたくらいでは死なないだろうとは思うけど、なんでそんなに怠そうなんだ?」
「うーん、流石に8時間もお湯の中に居たら多少は苦しかったんでしょうね……。少しのぼせちゃったし……起こしに来てくれたみたいだけど、私ほら…寝相悪いらしいから……」
「お前……、女神でよかったね……」
「はい……」
一気にぐったりとしてしまい、作業開始がだいぶ遅くなってしまった。パンには罰として周辺に生えている固有種の捜索を命じ、ルーちゃんにはナーちゃんに家や村のお話をして聞かせるようお願いした。
まったく、酒飲んだら風呂禁止にするか、ルーちゃん達と一緒じゃないと入らせないようにしないとな。いくら大した影響がないとは言え聞いていて気分がいい話じゃないわ……。
しょうも無いネタで一話使っちゃった感あるのでいつもの時間にもう一話投降します。
モンハンは様子見ですが、面白そうだったらどうしよう……。