第九話 建造キットその2
さて、どんな家を建てよう?そう考えたとき、人の温かみに飢えていると思い至ったため、温かみに溢れた木造家屋を作ることにした。
……いやそうじゃねえって、そういう温かみじゃねえだろって自分でもわかってんだけどさ。人が無理ならせめて木の温かみをね……。
この周辺には雑魚しかいないとパンちゃんも言っていたし、敷地の周辺に堀でも掘っとけば安心だろう。なーに、いざって時はクロベエをけしかけるし、スマホぶち当てたらバーンだぜ。
10畳前後のワンルームなので、ちゃっちゃか設計図という名の絵をかいてしまう。簡単な窓が2か所とドア、屋根は三角でいいだろう。
「よし!こんなもんか!」
アプリを立ち上げ「建造」を押す。「設計図取り込み」をタップするとカメラが起動した。まあそれしかねえだろうなって思うけど、やっぱカメラなんだな。
「これで設計図を読み込んでっと」
「そうそう、その後は「クラフト」をタップね」
そう言えば生体取扱説明書としてパンちゃんを呼び出したんだった。横からああでもないこうでもないと説明がうるさい。やはり教えたがり属性持ちだったようだ。
「うんうん、場所をロックしたら「建造開始」を押してね」
「はいはい…あれ?資材不足って出たぞ」
「うぷぷー はい!その通り!材料が足らないんですね!材料はアイテムボックスから自動供給されるけど、あらかじめそれを用意する必要があるのよ。無から作り出せると思った?ざんねーん!あ!私ならできるわよ?女神様ですし!」
「うぜーーーーー 知ってるなら初めから言ってくださいよー」
「失敗しないと覚えないでしょ?」
ぐぬぬ……確かにその通りなのだが、これくらいなら最初に言ってくれればそれで済むだろうに……つか、それぜってー言いたかっただけだよね。痛くなければ――ノリでさあ。
不足分と表示されているのは木材。その他の材料としてキープされたのは、ガラスの素材として石と岩塩だった。
なんでガラスに岩塩なのか気になってググってみたが、なるほどガラスの素材を作る素材に岩塩を元に生成される成分が用いられるようだ。
それに関わる化学的なあれこれはツールがやってくれるんだろうな。化学者でも錬金術師でも無い俺にはその手の作業は無理ゲーだ。何度でも言うが、ほんとツール様々だね。
「ねえ、木材っていうけど建材は色々あるじゃん。そういうのも何とかしてくれるの?」
「んなわけないじゃないの。杉の家が欲しいなら杉を手に入れないとだめよ」
「さすがにそこまで親切じゃないか… 杉ってこの世界にもあるの?」
「そのものは無いけど、似たようなのはあるわよ。防虫効果に優れているし家の素材として適してるわね」
せっかく居るのだし協力してもらおう。
じゃあ、それが生えてるとこまで案内してくれと頼んだら、なにかブチブチうるさいが、ああだこうだ言い伏せてそのまま押し切り案内させることに成功した
こいつ土下座したら何でもしてくれそう……。
だらだらと森をしばらく歩き、少し飽きてきた頃にパンちゃんが立ち止まり指をさす。
「ほら、この木よ。切りなさい。この大きさなら2本もあればいいけど、今後のために10本くらい用意しておきなさい。またこうして道案内させられたらたまったもんじゃ無いし」
「へいへいーっとくらあ」
とはいっても開拓ツールがあるから楽なのだ。俺が斧で切る必要は無い。ああ、頼りになるわねスマホサン!……と、スマホを取り出し……て!
「そのままスマホでドーーーン!」
「ちょっとおおおおおおおおお」
なんか面倒になったのでスマホでそのまま殴りつけてしまった。思惑通り木は景気よく倒れた。
「よっしゃーー!続いてもういっぽーーーーん!」
ズドドーーーン
「だからなんでツールを使わないのよ!!!」
「え…こっちのが手っ取り早いし……それに……なんだか……気持ちいい……」
「うっとりすんな!気持ち悪い!」
20本ほど切り倒してしまい、やり過ぎだと睨まれたがノルマは達成した。残ってる切り株は開拓ツールで除去し、アイテムボックスに突っ込んでおいた。まあ、これも何かに使う日が来ることだろう。
「初めからそれを使いなさいよ!」
「それはそれこれはこれ」
ついでに整地もしておく。……森の中にちょっとした広場が出来てしまったが、これは後々何かに使えそうだな。
作業も一段落したので、拠点に戻りお昼の用意を始めた。
肉を焼き始めるとパンちゃんが静かになったのでとても嬉しい。こいつ、喋ってないと気が済まないのか、あーだこーだしょうも無い話しを絶えずしていてうるせーんだよね。
ま、ただうるさいだけじゃ無くて、生活に役立ちそうなヒントもくれるので、それだけは助かるけれども。
「鉄板や鉄串、フライパンや鍋があればもっといろいろ作れるよねえ」
「それは制作スキルで実現出来るわね。明日作ったらいいじゃない。ちなみに私はシチューを食べたいわ」
「さり気なく催促するなよ……シチューに関しては俺も食いたいけどどう考えても食材が足らんだろ?スープ的なそれを指すなら出来なくは無いけど、パンちゃんが言うのは多分クリームシチューだよね。
……それに明日は魔石を集めないといけないし……無理無理」
「食材かー……」
「野菜もそうだし、牛乳とか無いじゃん。胡椒はパンちゃんが持ってきたけどさ……」
「うーん、牛乳は……無いけど野菜なら……。わりと近場にある集落の人達が畑をやってるからそこから野菜を分けてもらいましょうか」
「肉と物々交換するの?ってか、わりと近場にあるの???」
「うん、岩塩もいいわね。岩塩を掘るのも手間だからそれなりに喜ばれるわよ」
「野菜のことはまあ、わかった。けど牛乳はどうする?」
「それは……この辺りだと難しいから……。そうね、牛みたいで無害な魔物がいるからそのうち何匹か連れてきて牧場を作りましょう。あ!ちなみに野菜はね、製作ツールで種にすることもできるの!この余ってる土地に畑作れるわよ!畑! わあ!なんか楽しくなってきたね!牧場のゲームみたい!」
女神さまがノリノリである。そんだけやりてえなら自分でやればよろしい。うん、この調子なら俺の役目はもう終わりだ。帰ろう……地球へ……そして俺の身体が白い光に包まれ、次に目を開けたときには見慣れた竹林が……
「何馬鹿なこと考えてるの!シチュー作ってクリアーってわけじゃないわよ!そう簡単には帰してなるものですか!」
畜生、こいつ時々ノーモーションで心を読みに来るのがムカつくわ。つか、そう簡単に帰さねーって……何処の悪役だよ。
とは言え無計画なのもアレだし、取りあえずスマホを出して予定をまとめてみることにした。
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明日 魔石の確保 午後からは生活用具作成
明後日 魔石の確保 午後からは集落へ行く下準備
明々後日 集落へ行き肉や塩と野菜を交換
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野菜がどのくらい貰えるかわからないが、ある程度ストックできるだけもらえるとうれしいな。
優先するのは種にして増やすことだけど、やっぱ野菜は食いたいしね。
ううん、野菜が手に入ったら畑を作って牧場を作ってかー
自分の畑で作った野菜はきっと美味しいだろうな。ジャガイモ的なのを植えたとすれば、最低でも収穫まで3か月くらいか。時間はかかるが、それだけ楽しみが増えるってもんだ。
なんだかんだいってこういう生活は楽しいものだ。スマホがあるから文明が恋しくなることはあんまりないしね。ちょっとしたキャンプ気分だよほんと。パンちゃんじゃ無いけど盛り上がってきたぞ!
と、家を建てるんだった。
改めてアプリを立ち上げ建造をする。魔石をやや消費し、5分ほどでクラフトが終わって拍子抜けだ。
「案外……いや、かなり早いんだな」
「ちっこい家だしね。そんなもんよ」
若干釈然とせんが、早く出来る分には文句は無いさ。というわけで、早速お宅拝見だ。ガチャリとドア……いや、資材の関係で引き戸になっている戸を開けて中に入る……。
「わあ 木の香り漂う温かみあるおうちですねー」
「あらー 意外といい感じじゃないのー」
悪くなかった。狭いながらも我が家が出来た。じわりじわりと謎の達成感がこみ上げる。うん、俺殆どなんもしてねえけどね!
いいの!それなりにがんばったんだから!
さあ、さっそく今夜はここで料理をしてご飯を食べ寝ようじゃないか。
屋根の下で料理をして御飯を食べる、当たり前だと思って居た事だけれども、一度失った後では文化的でとても素晴らしい事に感じるなあ……。
ん?料理?
「あれ、そういえば竈作り忘れてる……」
図面に一番大切なものを書き忘れたようだ。