第八十二話 コアの間
暑さから解放され、部屋の様子を見る余裕が出来た。
天井はかなり高く、よく目をこらすと奥に光が見える。どうやらその光の正体は空、つまり天井に穴が開いているようだ。
つまりこの部屋は火口の地下。かつて大きな噴火があった場所がダンジョン化したとでも言うのだろうか。
その他に目立った箇所は無く、多少広いなあくらいで変わったところと言えばやはりダンジョンコアだという赤い鉱石がにょっきり生えているくらいだ。
鉱石は結構大きく、60cmくらい。六角柱状の形を成したそれは溶岩のように発光していて、如何にも触ったら熱そうな印象を受ける。実際熱くなかったのがとても不思議なくらいに。
「さて、ルーちゃんや、説明してくれるかい?」
「私たちが起きなかったのも悪いけど勝手にこんな所まで来た理由、教えてね?」
「うん、あのね!」
元気よく始まったルーちゃんの説明にどんな反応をしたら良いのか困る羽目になる。
朝になり、お腹が空いたルーちゃんは俺達を起こそうとしたそうだ。しかし、目を覚ます様子が無く早々にそれを諦め昨夜の戦場跡地に食料を求めて移動。
同じく空腹で目覚めていたクロベエ達も同行し、広場で適当な残り物を食べてお腹を満たしたという。
そこで赤く輝く発光体と出会う。
「ついてきてほしい」
そう、心に語りかける発光体。ルーちゃんは本能からそれに従い跡をついていく。其れにもまたクロベエ達が同行し、途中からクロベエに騎乗して先を進んだらしい。
しかし向かった先はダンジョン。間もなく暑さに顔をしかめることになるのだが、発光体が身体に触れた瞬間その熱は去り、発光体の案内で先へ先へ進んでいった。
「この子に触るとね、ここの熱を感じなくなるの」
道中、様々な魔獣と出会ったらしいが、話は通じず交渉は出来なかった。パンによれば、既にこのダンジョンに住んでいるので弾かれたのでは無いかという話だったが、そこはこの世界を創った神として推測では無くはっきりと答えて欲しかった。
さて、間もなくダンジョン最奥、ダンジョンコアの間に到着し、ここのコアから一つのお願い事をされたという。
それは……
「でね、この子にお願いされたの。私のお姉ちゃんになってって」
お姉……ちゃんだと……?
「えっとちょっとまってね、パンさんや、意思を持つダンジョンコアというのはルーちゃんくらいだったのではなかったかね?」
「そうじゃの、ユウさんや。ルーちゃんは私やあんたの変な干渉で特別な力を得た特別な子じゃの、しかしここのコアはどうしてこうなったのかの?」
「質問に質問で返すな!状況を整理しよう。ダンジョンの発生条件は?」
「洞窟なんかの魔素溜まりが出来やすい場所に溜まった魔素が結晶化して魔石になり、その場所自体が大きな魔物、つまりダンジョンとなる……、つまりダンジョンコアとは言ってしまえば魔石。ルーちゃんはコアを内包した特別な存在、そんな感じかしら?」
相変わらず疑わしいフワフワした回答しかできない奴だな……。
じゃあ、この火山内に出来た空洞に上手いこと魔素が溜まりこんでダンジョン化したってことか……?何か引っかかるな……。
ここの上層部には集落がある。火山の麓ってレベルじゃ無くて火山自体に集落があるわけだ、今までここが噴火しなかったのは何故だ?コアがそれを押さえていた?いや……もしかして……。
「パンさんや、どうしてここは噴火しないのじゃろう?」
「まだそれやるの?馬鹿ねあんた簡単な話よ。こんな地域で暖かい場所は貴重でしょ?折角出来た大空洞なんだから居住区に流用するのは当たり前の話よ。噴火しないよう結界張ってるにきまってるじゃない」
「犯人確保ー!」
パンに思いっきりチョップを食らわせる。何をするのよと頭を押さえ涙を浮べる女神に易しく説明してやった。
「いいかい?ルーちゃんは魔素溜まりと化した塩の洞窟にお前の加護や俺の落とし物とおもっくそ影響して生まれたコアだろ?」
「文字数稼ぎのおさらいやめて」
うるさい、とダブルチョップを食らわせ話を続ける。
「ここはお前が"噴火避け"の加護をかけた火口だ。その火口を中心として存在する大空洞に魔素が溜まったらどうだ?」
「そんなの加護の影響受けたコアが……あ!」
正解、と頭を撫で話を促す。
「そうか、私の加護の力がわずかに影響を与えてちょっとした知性をもたらしたのね……」
「でもなんで、後から産まれたルーちゃんがお姉ちゃんなんだ?」
なんででしょうね?と暫く考えていたパンだったが、やがて何か閃いたような顔をしてとんでもないことを言う。
「ちょっと推測でしか無いのがアレだけど、これは実際に試さないとわからないわ。そこでユウに頼みがあるんだけど」
「却下で」
「もう!楽しくなるから!絶対楽しくなるからやりましょう!ね!ね!」
「そんな悪い遊びに誘うみたいなのやめろ!」
「もう一人娘が欲しくないの!?」
「ちょ!やめろ!まだ明るい!って馬鹿野郎!いつそんな関係になった!」
と、要らんことを言ってしまったが為に顔を真っ赤にしたパンにしこたま叩かれる。威力は無いが地味にいてえ……呪いとかかかってないよね?女神の呪いとか酷そうだ……。
「もう!ルーちゃんの再現をして見ようって言ってるのよ。この子もきっとそれを望んでるし、それは必要なことなんだから」
「うん、この子ね、身体が欲しいって言ってる。そうすればルーちゃんだけじゃ無くてみんなとお話しできるからって」
そう言えば知性があるという割にはルーちゃん以外と話が出来ないようだな。発声器官がないからなのか、念話のチャンネルがルーちゃん以外と合わないからなのか、それもと別の理由が……
というわけで、ルーちゃんの妹を創るべくパンと励むことになった。
「その言い方やめなさいよ!!!」