第七十七話 ケモ耳は好きですか?はい、好きです
はじまりませんでした。
「いやあ、たすかったぞ!若いの!うまいのう!このスープは!」
もこもことかわいらしいこの生き物は、バーグとかいうおっさんで、この先にある洞窟で暮らしているそうです。
そこの人達はみんなバーグさんのようにせがちっこくて、ひげもじゃだそうです。
「ってドワーフじゃねえかちくしょう!!!!」
「いきなり何怒ってんのよ?まさか背格好から行き倒れのお嬢さんとでも思ったの?」
「む?わしを見て勘違いしたのか?これでもわし、結構デカいほうなんじゃが…」
もう、何もかもどうでも良くなった俺は適当に話を聞いていた。
彼の名はバーグ、洞窟にある集落で暮らしているらしい。あ、これもう言ったか。んで、集落の中は暖かく暮らしやすいが、食べ物ばかりは外に出ないと量を得られないため定期的に何人かで狩りに来るが、中々成果を上げられないとのこと。
んでもって、おっさんは一人深追いをしてしまって仲間とはぐれ、ようやく見慣れたところに出たところで空腹により倒れてしまった、ということだった。
「あんたらが来なかったらウーフンどもの餌になってたとこだわ」
ウーフンというのは狼のような魔獣…かとおもったが、もこもこのかわいらしい風貌の魔獣で、その見た目に反して獰猛な肉食獣で、年に何人かは犠牲になっているらしい。
「あいつのう、人は喰わぬのじゃが酒を奪っていくんじゃよ…ワシも襲われてしまって…うう…」
……。
この世界に来てシリアスな展開になったためしがない。これはきっと何かの補正がかかっているのだろう…。一応俺には不死スキルがあるはずなんだが、今の今までその恩恵を受けるような目に遭っていないしな…ってフラグじゃ無いぞ!やめろ!!!
「しかし、おっさんよう、何もそんな危険()な魔獣がいる所まで狩りに来なくてもいいんじゃないの?他にまともな魔獣が居るんじゃ…?」
「それがのう、ウーフはお得なんじゃよ。肉は旨いし、毛は服になるしの。洞窟の奥にも魔獣はいるんじゃが、あいつら硬くて剣が刃こぼれしちゃうのよ…」
なんとなく横目で女神を見るとバっと目をそらされた。恐らく洞窟内のモンスターでネタが尽き、外に配置したのはウーフだけとかそんな感じなんだろう。
この女神だ、気を利かせてウーフを置いたのでは無く、ただ単に一匹に纏めれば楽だ、っていういい加減な考えで配置したんだろうな。
「な、なにを考えているのか?分からないけどお?ちがうわよ!って言っておくわねえ?」
「今ので分かった、このめんどくさがりの駄女神が!!!!!」
「ユウとママ喋らなくても通じて凄いねー」
ルーちゃんに罪はないが、その以心伝心みたいなのはよしてくれ……。
「そうだ、おっさん。俺達は別の集落……、始まりの村という所から来たんだが、良かったらおっさんの集落に案内してくれないか?」
「わしらの集落に……じゃと……?」
スープを食べる手を止め、ギラりとした顔でこちらを値踏みするような目で見つめる。ああ……短い付き合いだが、このおっさんが何を考えているか俺にははっきり分かる。これは……
「すまん、喉に肉が……ふう……わしらの集落か?別に良いよ」
うむ、何も考えていない顔だった。
元気になったおっさん――バーグの案内で俺達はいよいよ集落に足を踏み入れた。
結構大きな入り口で、猫車も余裕ではいることができた。村に続く道を歩いているとチラホラちっこいおっさんやちっこいおっさんやちっこいおっさんの姿が見えるが、特にクロベエたちに驚くことは無く、ただただ興味深そうにこちらを見ていた。
「っておっさんしかいねえのかよ!」
「何をいっとるんじゃ?あっちの小僧はワシの半分もいきとらん子供じゃし、こっちの男はワシより大分生きとる。強いて言えばわしとあっちの男はおっさんじゃが、そこのとあれは子供じゃ」
正直見分けがつかない。何しろ年齢の概念が無いのだ、聞いてもわからないわけだ。
あ、そうだ。
「ねえねえ女神様あ」
「なによ?あんたがそう呼ぶ時って何かいやらしいお願いするときでしょ?いやよ」
「誰が!いやそうじゃなくてさあ、おっさんばっかでややこしいからさあ、スマホかざしたらARで年齢とか分かるようにしてくれよお」
「はあ?なんでそんな!できるわけないじゃないの!」
「出来ますよう、だって女神様はとても賢いですもの、俺今まで何度助けられたことか」
「え?そう?そうね、賢い物ね、よーし三十秒で終わらせるわよ」
ちょれえ
そして25秒くらいでスマホに新たなアプリがインストールされ、特に撮影しなくても年齢込みのパラメータがみられるようになった!やったね!
図鑑登録をするには撮影しなくてはいけないらしいので、そこはまた後で適当に煽てて統合シテ貰うことにします。
って、バーグさんこれで六十二歳かよ…あっちのヒゲは八歳ってマジかよ…
「なあ、おっさん。まさか女の人までヒゲが生えてたりしないよね?」
俺が知るドワーフには色々なパターンがある。男女ともにもっそりヒゲが生えているドワーフ、女はさらっとヒゲが生えているドワーフ、ヒゲは無いが肝っ玉かーちゃんみたいなドワーフ。色々だ。
「何言ってるんじゃ、女どもにヒゲなんて生え取るわけがなかろう?これは男の象徴じゃ。ワシからすればヒゲが無いお前は女見たいじゃのう」
「ほっとけ!生やしてもそんな立派にならないんだよ!」
「冗談じゃよ。しかしお前達は面白いのう、男の特徴も女の特徴もないではないか」
女の特徴?ヒゲが無かったら女なんじゃないのか?何を言ってんだこのおっさんは。
「あんた~~~!!帰ったのかい?無事で良かったよお!!」
「おお!ヒルダ!心配をかけたのう!ユウ、これがわしの妻、ヒルダじゃよ」
「あらあら、変わった人達ですとこと!」
「ヒルダ、失礼なことを言うな、この方達はな、行き倒れのわしを助けてくれたんじゃ」
「まあ!恩人になんてことを!皆様、うちのバーグがお世話になりまして…ねえ、あんた、この人達言葉が通じてるのかい?」
「何をいっとるんじゃ、さっきまで話してたんだぞい、ん?どうした?何故黙ってるんじゃ?」
「け……」
「け?どうしたユウ、それだけじゃわからんぞ?」
「けも……けも……ケモロリだ~~~~!!!!!」
ヒルダなるバーグ(六十二歳)の妻という女性はふさふさの猫耳を生やしたロリだった。