第七十五話 新たな旅へ
村から戻って一月と少し経ち、狩人からモルモルの受け入れ体勢が整ったと報告を受けた。
あれから狩人達はコツコツとダンジョンに通い、良きテストプレイヤーとして働いてくれた。
彼らのおかげでダンジョンのバランスはさらに調整され、早々に心が折れることは無くなった…と、思う。
徹底的にやったのは魔物の配置だ。入り口近くには低レベルで矢が有効な魔物を配置し、意外とやれるじゃんと自信を持たせる。そこから奥に行くに従ってだんだんと敵が強くなり、矢と相性が悪い魔物と遭遇することも増えてくる。
稀にフロアマスターであるモル丸の目を盗み、初心者狩りに出てくる悪いタルットも居るようだが、ルーちゃんに頼んで"本人"を捕らえ話を聞いたところ、「ダンジョンに謎の強敵って浪漫やん?悔しいか?悔しければ強くなってワイの所までこい!とか言うて去りゆく謎の敵…いいやん?」とか言っていたので程々にするよう伝え、見逃すことにした。
アイテム目当てでは無く、鍛錬目当ての狩人達には良いモチベーションになるはずだ。本来そういうのはモル丸の役割なのだが、未だ誰も到達出来ていない…というか暫くは無理だろうからね。
ダンジョン前の施設も少し増えた。ダンジョン前に簡単な店が置かれ、薬や食料、それと弓と矢が置かれている。これらは村から仕入れるようになっていて、ウサ族の娘が販売を代行している。
売上金は商品を持ってやってくる村人に補充品と交換に渡す。売上金の他に明細もつけて渡しているので、村に帰ってからシゲミチがチェックをした後、それぞれ入荷元に分配されるようにした。
補充係は村人達に交代でやって貰っている。
安全対策としてダンジョンに来る狩人に送り迎えを頼んでいるため道中危険な目に遭うことも無く、また補充係は宿代が免除されるため、ちょっとした小旅行が出来るとあって自分の番が来るのを楽しみにしているそうだ。
ダンジョンで働くウサ族も増え、リリィの他にラリー、ルル、レイ、ロムとリリィ含め5人で回して貰っている。それぞれ交代で受付、雑貨屋、ダンジョンのチェックなどを任せている。ややこしいので適当に名前をつけたが、宿屋のウサ族達からも名前をつけて欲しいと言われてしまって後悔している。
名前を考えるの面倒くさいから嫌だと言ったが、ストライキを起こされかけたので渋々つけてやった。
宿屋は「ナ行」で適当に纏めた。まとめ役のナナに厨房担当のニムとヌーラ、雑務にネネとノノ。
今のところは狩人が交代で来ているだけなのでこれで十分以上だが、人が増えてきたら宿屋も拡張してウサ族を増やさないといけないな。
村に連れて行くモルモルは取りあえず5体。これだけ居れば勝手に増えるらしい……。増えた個体には女神汁の効果は遺伝しないらしいが、上位モルモルの言うことは聞くらしいので心配は要らないだろう。
代表のモルモルには「モルル」と名付け、その補助に「モルモ」「モモル」と名付け、この三匹には翻訳用のリングを装備させている。村人達と意思の疎通が出来た方が何かと便利だろうしね。
似たような名前なので、後で絶対に忘れてしまいそうだが、ステータスを見れば名前が表示されるので問題なかろう。
残り二匹は修行中なので無名でリングも無しだ。旅から帰る頃には成長しているだろうからその時名前とリングをやろうと思う。
準備が出来たので皆を集める。ヒカリがギリギリまでごねていたが、クロベエと連絡が出来る首輪をつけてやることによりなんとか抑えつけた。
流石にフロアマスターを長期不在にするわけには行かないからね……。
◇
さて、村にやってくるとザックが出迎えてくれた。
「こっちです!こっちこっち!」
と案内された場所には結構大きめの池が作られていた。聞けば近くの川から水を引いたようで中々立派なため池だ。
取りあえずモルモル達にはここに住んで貰い、村人と交流して慣れて貰う間に上下水道の工事をするとのことだった。なるほど、予め慣らしておけば変に騒がれることもないものな。考えたなあ。
「ルーちゃん、モルモル達をお願いね」
「はーい、じゃあ喚ぶねー!でてこーい!」
ルーちゃんのかけ声と共にモルモル達が現れる。ザックは慣れているから平気な顔だが、挨拶にやってきたザックの仲間達はびっくりした顔をしている。
「ユウ殿、我らモルモル上下水道部、命に代えても普及に努めますぞ!」
名前の割に渋い声でモルルが胸?を張る。命に代えなくて良いけど頑張って欲しい。
モルモル達はモル助の厳しい研修を耐え抜き、その知識と技術を受け継いでいる。ザック達の力となり知恵となり、村の発展に貢献してくれるだろう。
「というわけで、彼らが俺に代わって皆を手伝ってくれるモルモルだ。ザックから説明されていると思うが、こいつらは人を襲うことが無いし言葉を交わすことが出来る。他の村人達にも説明して仲良くやってくれ」
「我ら、ユウ殿の名を汚さぬよう献身する故、どうかよろしく頼む!」
「「「「頼む!」」」」
モルモル達の挨拶に「お、おう」となっているが、まあ仲良くやってくれ。
キンタの家に行き、挨拶がてら連絡リングを渡す。キンタなので「へえ、便利な道具があるんだな」と、特に気にせず受け取ってくれた。脳筋はこう言うときとてもありがたい。
リットがシゲミチを呼んできてくれたので旅行のことを話し、何かあったらキンタに言って俺に連絡するよう伝えた。
マーサが泊まっていくよう行ってくれたが、なるべく早く旅立ちたかったためそれを断り、俺の旅を聞きつけた多くの村人達に見送られて村を後にした。
村から15分ほど歩き、改めて集落の方向についてパンに尋ねた。
「ところでその新たな集落とやらに行くにはどっちにいけばいいんだい?」
パンはちょっと考えるようにして、答える
「え?そ、そうね、ウチから村と逆側、湿原を抜けてずーっと言ったところ…ね…。ちょーっと、遠回りになっちゃった?かな?あはは」
「……」
「いひゃいいひゃい」
無言でパンの頬をつねると村に向かう。
「あ、あれ?ユウさん?」
「どうしたんですか?」
などなど、不思議そうに尋ねる村人達に苦笑いで返し足早に村を通り抜けた。