第七十四話 村へ送って
体験会も終わり、キンタたちを村へ送り届けた。
その際、予定通り村人たちにダンジョンが出来たこと、そのダンジョンは入場料としてお金を取るが、安全に訓練や素材の回収が出来ることを説明した。
ダンジョンに反応を示していたのは狩人たちだけだったが、その次に始めた魔道具の説明は熱かった。
薪が要らず家の中でも安全に使用できる魔導コンロ、暮らしを快適に、衛生的に保つ上下水道とお風呂。まずはこの3つから始めることになった。
そのうち上下水道の工事とお風呂は村の財源から出資して工事をすることになっていて、村人が払うのは家に水道を引いた際に取り付ける蛇口とシンクの料金と、トイレ水洗化に関わる便器の交換料金。
これらはさっさと普及させたかったため、村人の自立云々は後回しにして俺が作ったのを倉庫においてある。その為、工事を手伝ってくれる人夫たちの手間賃のみという格安の値段でどの家庭でも導入することが出来る。
本当は無償でも構わなかったのだが、「お金で対価を支払う」という事をいろいろな形で経験してほしかったので、これはお金を取ることに決めた。
お風呂もそうだ。流石に各家庭に設置と言うのはまだ難しい。
なので大衆浴場、つまり銭湯を作り、入るときは入浴料1リパンを支払ってもらうことにした。
この料金は薪の代わりとなる魔石の購入費に充てられる他、次に何か作る際の資金にしてもらおうと考えている。
これらの作業はザック一人ではとても無理なので、その場でザックの手伝いを募集したところ、結構な人数が手を上げてくれた。彼らはどれも若者たちで、狩人を手伝ったり農家を手伝ったりしていた者達のようだった。
ちょうどいいのでザックには「ザック魔道具店」を名乗ってもらい、生活魔道具の製作と設置工事を請け負ってもらうことに決めてしまった。
代表だということと、自分の名前が付いた店を持たされたことに恐縮していたが、嬉しそうな顔は隠しきれておらず、ハニカミ顔が少年らしくて微笑ましかった。
ちなみにコンロのような複雑な仕組みの魔道具を作るには魔法術式が刻まれたパネルが必要だ。以前、魔道具がどういう仕組か気になって分解したことがあるのだが、開いてみれば中に見慣れぬパーツが有ったのだ。
パンに尋ねるとそれは「魔法術式回路」だとさも普通に言われ思わず両手で頬をつねってしまった。だってそうだろう?「魔法使いってジャンルは発展しなかったのよねー」とか言いつつ、科学より魔術寄りの世界観に寄せて世界を作ってしまっているのだ。
つまり、この世界には魔法術式回路を書ける人が存在しない、というわけだ。
今現在作ることが出来るのはパンとスマホの製作キットだけ。それじゃあ普及なんてさせようがない。しょうがないので今回はお仕置きとしてパンに大量の魔法術式回路を作らせ、必要な部品であると魔道具ごとに分けてザックに渡してあるが、長い目で見れば魔法術式の知識をどうにかして広める必要があるだろう。
無論、その際には大いに働いてもらうぞ、女神様!
そして最後に魔石の話をした。魔石はいわば魔道具の電池に該当する肝心な部分だ。コンロの場合は魔石一つで数ヶ月持つが、ロップやクッカの魔石じゃあチロリとも火が出ない。その辺の説明をして置かないと後々トラブルにつながるし、ダンジョンの需要を増やす必要もあるからね。それはそれは気を遣って説明したよ。
「魔石は魔獣を倒すと手にはいりますが、どれでも良いわけではありません」
と、前置きをした上で、リブッカくらいのものが必要であるというと場が失意に溢れてしまった。ただしこれは予定通り。最初にある程度ハードルが高いと思わせておくことが肝心なのさ。
ザワザワとする村人たちを「しかし!」と大きめの声で静まらせ、次の説明をした。
「うちで管理している"けして死んだり大怪我をしたりしない"ダンジョンであれば安全に大型の魔石を狙うことが出来ます!いずれ腕に自信があるものならば誰でも入れるようにしますが、当分はお試し期間として狩人のみの入場となります。
しかし、心配は無用です。狩人たちが手に入れた魔石の一部は当分の間俺の手伝いをしている者が買い取って村に売りに来ることになっています。なので狩人以外の自力で魔石を採れない方もお金があれば安全に手に入れることができますよ。
…ちなみに、ダンジョンでは魔石以外にも鉱石や肉も手に入ることがありますので、肉の供給が減ることもありませんし、鍛冶屋さんなんかは楽しみが増えていいですね」
と、下げてから上げる事で無事盛況の中説明会を終えることが出来た。肉の所で「ダンジョン産の肉だって!どんな肉だろ!」と、今までになく盛り上がったのは誤算だったが、まあこの村なら仕方あるまい。
帰る前に忘れずに村役場(キンタの家)に行き、キンタ村長としての仕事を頼んだ。
村で使う追加のお金を渡し、工事の支払いや新規住人への初回ボーナスに充てるよう頼んだ。最初は試しだったのであまり発行していなかったし、魔道具のように高価な商品が売られる用意なると貯金を始める人も増えることだろう。するとお試しのままの発行数ではいずれ回らなくなる。
キンタは早々に眉をしかめ、シゲミチを呼ぶと、俺からの説明を引き継がせた。確かにシゲミチのが適任だけどさ……。
シゲミチはなかなかにやる男なので、多めにお金を渡して管理させることにした。配りすぎず、ケチり過ぎず。ちょうどいいバランスでお金を村に入れ、貨幣の価値が落ちないように気をつけるように念入りな説明をした。
シゲミチが来たならと、ついでに今後の公共事業についての説明と言伝を頼んだ。
ザックが作る「水道」と「下水道」そして「風呂」にはモルモルを使う必要がある、俺の元から派遣されるモルモル達はクロベエのように賢く人を襲わない、ザックは工事が終わるまでの間モルモルたちを住まわせる場所をこれから作る、終わったら狩人経由で俺に連絡をしてほしい。
以上のことを伝えると、スラスラとメモを取っていた。モルモルと聞いた時一瞬眉をしかめたが、きちんと俺が村人に説明をすると聞いてホッとした顔をしていた。
モルモルが嫌なのではなくて、村人たちにどう説明したら良いのか困ったようだ。
さて、用事も済んだのでそろそろ家に帰ろう。ザック達の用意が出来るまで最低でも恐らく2週間から一月はかかると思う。
ダンジョンや周辺施設の調整や改良をしてればあっという間だ、旅の用意も忘れずしておかなくっちゃな。




