第七十三話 次の一歩へ
ダンジョンから戻り、パンと情報共有を行った。
疲れと興奮で夕食後早々にベッドに突入していく村の人々を見送ると今後の相談を始めた。
「というわけでさ、思ったけどやっぱり弓だけじゃきついわ。近接武器の開発と技術至難が必要だ」
「魔道具には興味津々だったから遅かれ村で普及するわよー。後は始まりの村をモデルとして他の集落にも技術や知識を広めなきゃないわよねー」
「ルーちゃんねー、もっとお友達増やしたいなって思ったのー!」
「ユウーヒカリがなーヒカリがなー!帰らないんだー!」
「良いだろう!少しくらいならダンジョンは荒れぬ!」
魔獣達は置いといて、みんなの意見を統合すると今後の活動方針が見えてくる。
「まずさ、ウサ族の連中にゲストハウスを宿屋として管理してもらう」
「えー!あたしのしんで…い、いえ、なんでもないです。続けて」
「うん、ダンジョンに今後狩人たちを自由に通わせることにしたんだ。で、日帰りは無理だろ?何日か滞在できるよう、宿屋として使ってもらう。当然お金は取るけどね」
「ああ、そういやダンジョンも入場料をとるっていってたわね」
「うむ、ゾンビアタックされるのはなんかアレだからね。入場料は1回5リパン。宿代は1泊2食付きで10リパンだな。
3泊して5回くらいダンジョンに行くとして55リパンだろ、今日試した感じだと1日でも黒字になるくらい素材が取れたから心が折れてこなくなるようなことは早々ないはずだ」
「肉や鉱物素材は買い取る人が居るだろうけど、魔石はまだそんなに居ないと思うわよ」
「ああ、それはザックに買い取らせるよ。ザックには当分の間魔石買い取り用の金を渡す予定だ。
軌道に乗るまでは俺が代わりに買い取る形にして、売上金から魔石代を払ってもらうようにする」
「悪くない考えね」
「で、今後の予定としては明後日辺りに一度みんなを村まで送っていってダンジョンの説明と魔道具の宣伝をする。その後はちょっと相談なんだが……」
と、旅にでたいと打ち明ける。勿論、みんな一緒にだ。
「前に言ってただろ、酒を作り近接武器を振るう種族が居ると。今こそそこにアプローチを掛けるときだと思うんだ」
「あー、奴らか。なるほどね。それなりに遠いけどそこまで長期の旅にはならないから良いともうわ」
「俺は鍛冶屋と戦士の勧誘、ルーちゃんは周辺の魔物の勧誘。パンはどうせついてくるとして、クロベエはどうする?」
「ちょっと!どうせって!まあいくけどさあ!」
「俺はユウがいくとこならいくぞ」
「ヒカリは連れていけないぞ?流石にフロアマスターは連れていけないからな」
「ヒ、ヒカリはいいよ!帰ってきたらまた遊べるし!」
「そっかそっか」
「そうか、考えてなかったけどダンジョンコア…、ルーちゃんが離れるとまずいかな?」
「うーん、消滅するようなことがあればまずいけど、私が居てそんな目に遭う訳がないし、ダンジョンでなんかあったら私が一緒に転移するから問題ないわよ」
「相変わらず俺以外がチートな世界で腹が立つよ」
とは言え、これで懸念はなくなった。新たな一歩を踏み出すことが出来るな。
◇
二日目の今日はキンタ達には付き添わず、家でのんびりしていた。
マーサとリット、ルーちゃんが台所でおやつを作っているようでいい香りが漂う。
これが家庭というものか、と浸っていると地下からザックとパン、モル助の声が聞こえてきて現実に戻される。
一体何の騒ぎだと地下に降りるとなんてことはない、モル助とパンによるモルモルの調教とそれを応援するザックの声だった。
「お主ら不定形生物どもが我の訓練に生き残れたら各モルモルが設備となる!
掃除に祈りを捧げる清浄の魔獣だ!その日まではタルットだ!湿原で最低の生命体だ!
お主らは魔獣ではない、沼の沈殿物をかき集めた値打ちしかない!」
おいおい、どこの軍曹だよ……。言われてるモルモル達はなんだか良くわからないのか嬉しそうにはねているし……。これはきっとそこで笑い転げてる女神の入れ知恵だろうな。みろ、ザックはよくわからない顔で引きながらも応援してるじゃないか……。
何も見なかったことにして上に戻ることにした。
村に浄水設備を導入するらしいから派遣するモルモルを育成してるんだろうな。
旅に出るまでに仕上げてあっちで召喚する必要があるか……。
となれば旅行前に改めてルーちゃん連れて村に行く必要があるか……。
そうだな、その時ついでに暫く留守にする旨を伝えて挨拶することにすればちょうどいいか。
ルーちゃんにモルモルの召喚をしてもらってザックに任せると。ザックには予め工事が済むまでモルモルがいる場所を作ってもらって置く必要があるな。
住民への説明は…俺がしないといけないか……。
やれやれ、なんだかんだで直ぐ直ぐ旅に出られないじゃないか。
ま、焦っても良いことはないし、じっくり旅の用意をすればいいか。新たな集落へ持っていく交易品も考えないと行けないしな。
「ユウさん、パンさんがくれた本を見てこういうの作ってみたんだけど食べてみてくれる?」
ウンウン唸りながら考え事をしているとマーサさんとリットがニコニコとホットケーキを持ってきてくれた。本とはどうやらパン自作の料理本で、レシピサイトのネタを翻訳したものらしい。変なとこマメなやつだな。
「うん、めちゃくちゃ美味しいですよ!これなら村でも作れますね」
「うーん、ただねー村だと卵がなかなか手に入らないから、ちょっと違うものになっちゃうわね。あと、お砂糖という塩のような調味料も無いし、難しいかもしれないわ」
「あー、卵ですか。卵は無理ですが砂糖ならあげますよ。畑で作れるようになったので今度村でも作れるよう種を売りに行きますね」
「まあ!嬉しい!果物以外でこんな甘みを取れるなんて知らなかったの。ユウさんたちのお陰で色々生活が楽しくなって嬉しいわ」
「うん!ユウさんありがとう!」
違うぜ、これは汗だ。目から流れる汗さ……。おっさんどもに「すげえや!」って言われるのとは違う嬉しさがあるなこれは……。
美母子からの嬉しい言葉で俄然やる気が出てきたぞ。