第七十話 ダンジョンのデバッグ
最初の若者が帰還してから40分くらいたった頃だろうか?複数の転送音が聞こえ、キンタ一同がセットで戻ってきたことを察する。
さぞや凹んでいることだろう、ロップや、ここは悲壮感が出ないよう明るくインタビュー形式で迎えようでは無いか、インタビューというのはこれこれこういう感じでね、そうそう上手い上手い。
なんてやってるとフラフラと小部屋から現れた。
最初に戻った若者達とは違い、服に損傷は見られず、見た目は無傷に見えるが果たして……。
「ゲラゲラゲラゲラゲラ プーーーークスクスクスクス」
「あはははははははキンタさんあはははははははは」
笑い転げる俺とルーちゃんにキンタがめっちゃキレてるが、しょうが無いじゃん。
「ヒーヒー・・・はあはあ…そ、それでどうだった?初めてのダンジョンは」
と、軌道修正を試みるのだが、リリィが真顔で「今後の参考のため記録しますね、死因:屁」なんて真面目な声で言うもんだからだめだった。
「死因、屁って!屁ーーーー!!!!ゲラゲラゲラゲラゲラ」
「ユウーーーー!!!!」
漸く落ち着いた頃にはすっかりへそを曲げられてしまった。すまんすまん。
俺もまさかカッパのおっさんがそんな隠し球を持ってるとは思わなかったんだよ。思えば敵対したこと無いしな。そうかあ、おっさん猛毒のブレス攻撃持ってるのかあ…ただし尻から…ククッ
やばいやばい。
「はあはあ…でもこれで分かっただろ?今のままじゃダメだって。女神の森にだってリブッカ以上の獲物は居るんだ。其れに対処出来るようになれば生活がまた変わってくるだろ?」
「うむ、少し調子に乗っていたなと思わされたよ。ついこの間までロップやクッカしか狩れなかったのにな。思えばリブッカを狩れたのもユウがくれたクロスボウのおかげだしな……」
とはいえ開幕タルットはちょっときっついな。あのおっさんのことだ、調子に乗ってリスキルマンになってそうだし、ちょっと文句言ってくるか。
「リリィ、キンタ達に飲み物出してやってくれ。俺はちょっとダンジョン行ってくるから」
ルーちゃんを連れ、下に向かう。俺だけ行くとまたクソ長い茶番に付き合わされてしまう。ルーちゃんにビシッと叱って貰ってさっさと退散だ。
転送が終わり外に出ると緑の尻が視界に入った。
「こら!!!!!」
「あっ!?やばっ」
やられる前にやれ!偉人の言葉に従って尻を蹴り上げる。尻を突き上げ両手を広げた体勢で顔から水路に突っ込んでいった。
「やっぱ居たなあ。ルーちゃん、がっつり叱ってくれよ…ルーちゃん?」
横を見るとルーちゃんがうずくまってピクピクしている。まさかダンジョンの住人が冒険者から受けたダメージがルーちゃんに返ってくるとか?いやいや、おれは冒険者登録を…してたな…これは…
「あはっはっははっはははお尻!お尻ーー!!!」
ただ単にツボにハマって居ただけか…びっくりした。
水路から生える尻を棒で叩いてとどめを刺しつつ、他のタルットを呼んで引き抜いてもらった。
各妖怪の代表を集め、ミーティングタイムである。
「はい、皆さん。ご存じの通り今日から試験的に少数の冒険者がここを訪れていますが、開幕45分程度で全滅しました。何故だと思いますか?」
「はい!弱すぎるからです!」
「そうですね、タニシのお姉ちゃんポイント1。彼らは弱い,弱いですがそれだけじゃありません」
「うーん……?水がかかると死ぬ種族だった……?」
「残念、そうでは無いんですよ、鮫の人。お次は…はい、ルーちゃんどうぞ」
「わかった!お腹が空いてお尻を食べちゃったから!あははは!」
「違いますよーってルーちゃんは知ってるでしょ!」
「わかった!オーラ的な力が……」
このままでは大喜利になってしまうので、早々に打ち切って説明を始める。
「というわけで、そこで正座をしているおっさんがソコソコ強いくせに弱い物いじめしたのが原因ですねー」
「せやかてユウ!カモが雁首そろえてあるいとったらそら狙うやろ」
うんうん、と同調する妖怪達数名。まあ、わかる。
「だからといって、入り口前に尻を向けて即死狙いは悪質だと思いますよ」
そんなことしてたのか?そりゃ正座だわーとか、エグいなあ、とかアホやーとか非難が集まるが、町内会の会合のようで緊張感が無い……。
面倒になったので会議ごっこはやめて何時もの口調で話す。
「例えばさあ、無防備な獲物が通る道があるとするじゃん?で、そこのオッサンなんかもう喜んで狩るよね?」
「そうねえ、わざわざいかんでも狩れるなら楽ちんだわ」
「で、次の日もまたそこを獲物が通ったら…」
「狩るわねえ」
「で、その次の日、おっさんはどう行動する?」
「そらもう、朝からそこで待ち構えよ」
「でも獲物は来なかったんだよなあ……」
「えー?なんでや!通り道ちゃうんけ!」
ここで立ち位置を逆にして改めて説明をする。
「じゃあさ、お前が暢気に歩いてたらいきなり俺に顔を吹き飛ばされたとするだろ」
「物騒なんですけど…それ復活できるん…?」
「で、復活したお前は次の日また同じ道で俺に尻を吹き飛ばされたとするじゃん?」
「顔の次は尻ィ~?」
「はい、その次の日お前はこの道通るか?」
「通るかぃ!アホが!そう何度も何度も尻や頭やプリティフェイスをぶち抜かれたらかなわんで!」
「最初に話した獲物と今の話を合わせて考えると、入り口で尻を向けて待機していたことの愚かさがようくわかるよね?」
「なるほどなあ、噂が広がったら3度目はもう誰もこなくなってまうわけか」
「折角作ったダンジョンにお客さんこないのいやだなー」
ルーちゃんも援護射撃をしてくれている。まあこれは素で言ってるんだろうけどさ。
「そこで、ある程度強い奴らは2階層入り口周辺で冒険者と遊ぶようにしてさ、そうじゃない奴らは前に出て冒険者と戦うようにすれば丁度良いと思うんだ」
「なるほど、それなら徐々に鍛えられて手応えでるようになるわな」
「あーあと、今度女神に頼んで戦力に差が有りすぎる敵を倒しても良いものが落ちないようにしてもらうからな。
そうじゃないとお前らだけじゃなく、人間たちだって今後強くなった後オッサンと同じことしかねないし、何より互いのためにならんだろ?
力が強い者同士が戦えば互いに成長するし、勝てばそのご褒美に良いものも手に入るってわけだ」
「はえー、意外とよう考えたもんやなあ」
会議は無事終わり、妖怪達はそれぞれ"再配置”されていった。自発的に。
プログラムミスか何かが原因で、最初の村に隣接する森に次のマップに出るはずの高レベルモンスターが出るというゲームがかつてあった。
今回の事件は隣接する森どころかゲームを開始して1歩進んだらLV30のモンスターとエンカウントしたようなものだ。
後でまたフロアマスターやパンを交えて会議しないとな