第六十八話 いざダンジョンへ
翌朝、マーサ達に見送られ我々"冒険者一同"はダンジョンに向かった。
塩のダンジョンはパンとルーちゃんにより入り口からして様変わりしていて、その見た目は遊園地にありそうなアドベンチャーゾーンの受付って感じだ。
ダンジョン入り口前に設けられた受付にはウサ族の娘、リリィが座っていて、準備万端ですよ!って顔でこちらを見ている。
キョロキョロと落ち着かない狩人達を受付前に集め、リリィに説明をさせた。
「みなさん、おはようございます。私は塩のダンジョン受付担当のリリィと申します」
「「「おはようございます!!!」」」
相変わらずのノリを見せる狩人達にリリィがひいっとやや引いていたが、直ぐに咳払いをして気を取り直すと説明を再開した。
「このダンジョン内には階層ごとに様々な魔物、つまり魔獣や魔族が生息しています」
魔族、という声を聞いて狩人達が焦り始めた。そうだろうそうだろう、今まで遭遇したことすら無いだろうからな。クックック……。
「ユウ?なんだか悪い顔で笑ってるよ?」
ルーちゃんが呆れたように言うが、これから起こる事を考えたら笑わずには居られないじゃないか。
別に狩人達が痛い目に遭うのを楽しみにしているわけじゃ無いぞ?このダンジョンを足掛かりとして狩人達のスキルアップ、手に入る素材によってもたらされる恩恵、これらは全てあの村のため、ひいてはこの世界全体の発展に繋がるんだ。
この大きな一歩、笑わずには居られないよ。
まあ、キンタ達がここに転送されて戻ってきたときの驚き顔が楽しみだというのもあるが。
っと、リリィの説明が佳境を迎えているな。
「さて、皆さんには入る前に冒険者登録をしていただきます。
こちらの石版に手を置いていただくことにより、冒険者として登録され、以後ダンジョン内で死亡することは無くなります。つまり、痛い目には遭うけれど安心して腕試しや素材集めにいそしむことが出来ると言うわけです」
石版はパンとルーちゃんの協力によるものだ。そこに手を置くことにより、ルーちゃんの眷属として使役登録がされる、という凄まじいものだが、あくまでも冒険者登録、ダンジョン内で死なないようにするための抜け道だ。
なので別にルーちゃんに従う義務が生じること等は無く、ただただ恩恵しか無い素晴らしいシステムなのだ。
死ぬことが無い,と言うのを聞いて狩人達に安心感が広がっているのが良く分かる。
しかし、油断されても困るので俺が爆弾を落とす。
「あー、しかしだな。死なないとは言ったが怪我をしないとは言ってないからな。
死ぬ目に遭うとここに戻されるってのはさっきリリィから聞いたと思うが、ここで力尽きても困るだろう?だから一応ある程度の回復はされる仕組みにはなっているが、あくまでも最低限だからな。
骨折など、重傷の傷は回復されるが、治るのはそこまで。それ以上は薬をつかって貰うか、休んで癒やすかして貰う」
「ええー!」
と、不満の声が上がるが聞こえなーい。リスポーンできるだけヌルゲーだと思え!
「とは言え、まだ施設はそこまで完成していない。だから今回は特別にリリィが無料で回復してくれる手はずになっている。安心して死んできてくれ!」
「死んでこいって…いやまあ死なないらしいから比喩なんだろうが、あんまりだぜユウ!」
頭をボリボリかきながらキンタが言うと、狩人達もそうだそうだ!と声をそろえて騒ぐ。
「まあまあ、少なくとも攻撃が通らない!って敵ばかりじゃ無いからさ、狩りの腕を上げるチャンスと思って頑張ってくれよ!出てきた素材は持って帰って良いからさ!」
期待半分、不安半分と言った面々を転送室に連れて行く。
「よし、俺は外で待ってるからな。俺が部屋から出たらそこの石版に手を置いてくれ。ダンジョンの仲に転送される。帰りたくなったらまた同じようにやればいいから!」
「お、おいさっきも転送とかいってたが、それはいったい?あと同じようにって…」
キンタが何か言っているようだが、待ちきれなくなった若者が石版に手を置いたようで転送門が起動した。
「あ!おめえ!何を勝手に!!おおい!ユウ!!いったいどうすりゃ……」
「グッドラック」
光に包まれ消えていく狩人達に俺は親指を立てた。
◇◆◇
30分ほど経ったころだろうか。リスポン部屋から「うわああ」と声が聞こえてきた。
間もなくフラフラと現れたのは若い狩人だ。自分の身に何が起きたのか分からない様子でキョロキョロしている。
見れば背中に軽く傷を負っているようだったので、回復をしてやりお茶を出してあげた。
「ユユユユ、ユウさん…なななな、ななな」
「よし、深呼吸だ!吸ってーーー…吐いてーーー…吸ってー……吸ってー…吸ってー…」
「ブハッ!吐かせろよ!ハアハア…いやいや…落ち着きましたよ…なんすかアレ…あそこは…」
落ち着いた若者が興奮と恐れを全開にして湿原について矢次に尋ねてくる。
「すげえだろ、あれがダンジョンってやつよ」
「冗談キツいっすよー…特にあの緑のバケもん…キウリもっとるけ?とか言うんで、人かな?って思ったらいきなり背中からですよ?ろくに活躍する間もなくなんてそんな…」
あー…オッサンにやられたか……。
あまりにも気の毒だったので装備品を修繕してあげ、再度湿原に行かせてあげた。
嫌がるかと思っていたが、悔しさが勝ったようで自ら転送門を起動して意気揚々と乗り込んでいった。
こうして待ってるのもなんだか手持ち無沙汰だなあ。パンに頼んで監視ルームでも作って貰おうかな?
ダンジョンの各階層をチェックできるような感じでさ、治安維持にも使えるから便利そうだよね。
同じく特にすることが無いルーちゃんも飽きて眠ってしまっている。
家からでもできるダンジョンコアのお仕事としてアリだな。