第六十四話 宴の後
「おうー ユウううううう ありがとおなあああ」
良い具合に酔っ払ったキンタに顔をしかめる。いやこう言う日だからこそ酔うほど楽しんでくれているのは嬉しいが、これじゃあ相談もなにもできないじゃないか。
自分の責任である、というのは棚に上げまくってため息をつく。
「おうおう、キンタ大丈夫か?ほら、これを飲みな……」
と、ポーションの凄いヤツを飲ませる。これは状態異常回復効果がある恐ろしい薬品だ。パンのやつが酷い二日酔いの朝に飲んでいるのを強奪してから作れるようになった。
どんだけ飲んでも翌日ケロっとしてるから不思議に思ってたけど、こんなの飲んでりゃな……。
渋々と俺がクラフト出来るように素材の調整をしてくれたおかげで俺にも作れるようになったため、許すことにしたが、石化や猛毒、麻痺等様々な状態異常を回復する凄いポーションを酔い覚ましに使ってるのはなんだかバチが当たりそうな気がする。
……率先してそういう使い方をしているのは女神だから別に良いか。
「うう…ああ、なんだか頭が冴えてきたな。そうだ、ユウ、何か用があるんだろ」
酔いから冷めたキンタにお茶を勧めながらちょっとした計画を話す。
「この村をもっと発展させるためにさ、見学会を開こうと思うんだよ」
「見学会?どっかに何か見に行くのか?」
「メンバーはキンタ一家と狩人から5,6人、これは腕が立つ連中がいいな。それにザックだ」
「狩人はまあわかるがウチのもん達とザック?狩り場に行くんじゃ無いんだな?」
見学会と聞いて真っ先に狩り場を思い浮かべる辺りがキンタらしい。狩りもさせてやるから楽しみにしていろ。
「場所はな、俺が住んでいるところだ」
「ユウの家に行くって言うのか?ユウの家ってここから結構あるだろ?」
「ああ、明日の昼に出たら森の出口で一泊、その後家を目指して歩き夕方には着くという感じかな?」
「いやよう、10人くらいになるわけだろ?それにユウ達が3人…いや4人?クロベエをどう扱ったら良いかわかんねえが、まあ大人数だ。そんな人数が泊まるほどお前の家はそんなにでけえのか?」
「いや、かわいいもんだぜ、俺の家は。まあ心配するな寝るところはちゃんと用意してあるから」
「それならいいんだが、で、なにを見せてくれるんだ?」
困惑した顔のキンタ。家を見せると言われてもなんで?ってなるよな。
「俺の家には面白いしかけが色々あってね。マーサやリット、それにザックにはそれを見て貰いたいんだ」
「なるほどな。で、俺達狩人には…?」
「それは内緒だ」
「なんだよ!内緒って!」
「まあ、一つ言えることはきちんと武装してきてくれって事だけだな。道中の護衛役もあるし、念入りにな」
納得したようなしないような、そんな顔で了承するキンタに二日酔いの薬を渡し、明日の用意のためテントに戻った。
キンタにはまだ飲んでいる狩人達に明日朝ポーションを飲ませたたき起こす役割も与えたのだ。
なんだかワクワクした顔で「ほんとに効くのかこれ!」と言っていたが、お前もそれを飲んだんだぞ……。
テントに戻りパンに明日の相談をしようと思ったら尻を丸出しにしていびきをかいていた。
いびきが無ければ良かったのだが、それに加えてだらしない顔をしているのもまた良くない。
尻とだらしなさが拮抗してどう捉えたらいいのか頭がクラクラしてきたため、毛布をかけてやり忘れることにした。
ええい、いろんな意味で身体に悪い!
◇
翌朝、早々と起きてきたキンタが狩人共の口にポーションを突っ込んで飲ませている。
今もがいてる連中が家に来る勇者達ってことだな。
キンタは俺が見ていることに気づくと、ニカっと笑って拳をあげてみせる。
良く分からんが、薬の効果に満足しているのだろう。
広場に転がっている人達を起し、スープを分けてやった。親切心でやったわけじゃあないぞ。ただ単に広場を片付けるのに邪魔だからさっさと起きて貰うためだ。
広場の片隅に常設されている休憩所に誘導し、スープを飲んで貰う。
誰も居なくなったところでスマホを使ったお掃除だ。
範囲選択でゴミを纏めてボックスに収納。あっという間に綺麗になった。
うーん、イベント後の清掃活動も考えないといけないよな。今後お祭り的なイベントをすることが何度かあるだろうし、実行委員会でも立ち上げさせて設営から撤去まで組織的にやらせよう。
適任者としてシゲミチがちょうどいいが、彼の負担もでかい。折を見てシゲミチの部下を探す必要があるな。
すっかり片付いた頃、パンが腹をかきながらテントから出てくる。
「ふぁあ~~あ、ねえ、あたしにもスープちょうだいよ…」
イラっときたので爆弾を落としてやる。
「おはようございます,女神様。ケツを丸出しでいびきをかいて寝ていた女神様!おはようございます!」
「ふぇ?ちょ、ちょ!な、なに、なにを!」
「私めの様な者には目の毒ですので、お召し物はどうかきちんとしてくださいませ」
「な、なな!ま、またそ、そんな適当な!」
「ピンクにフリル、でございましたね、お顔に似合わずかわいらしいことで」
「~~~~~~!!!!」
顔を真っ赤にしてテントに戻っていった。やり過ぎたかな?と思ったが、
「ふんだ!どうせいい加減なことを…」
という声が漏れてきた後、
「ぎゃーーーー ピンクのフリルじゃないのーーー!!」
という、広場中に響く自己申告。寝ぼけ眼の狩人達が何がフリルなんだ?フリルってなんだ?とザワザワしている。
良かったな女神様。この世界にフリルという単語が無くてさ。あったら今頃察しが良いヤツの頭の中にはお前の下着が浮かんでたことだろうよ。