第六十二話 年越しの日
お昼前に狩りを切り上げ村に帰った。
結果は上々でリブッカを5頭、クッカを12羽だ。残念ながら目新しい獲物と戦うことは無かったが、クロスボウデビューとしては上々だろう。
肉屋をしたいものを募集したところ、旦那が狩人だというシエラが名乗りを上げたので夫婦そろって解体をすれば効率的だろうと最初の肉屋を任せることにした。
シエラの家は隣が空き地になっていたのでシエラとその旦那、ヤスの許可と、一応キンタの許可を取り(なぜ俺に聞く?と首を傾げていたが)店舗スペースを増築した。今更隠すのもめんどくさかったのでその場にいてもらったが、建造キットで見る間に改築される様子に目を白黒させていた。
「失われた技術の魔法ってやつですよ」
と、適当なことを言ったら納得して感心していたので良しとしよう。
用意が出来たので肉屋にリブッカを買い取ってもらった。
相談の結果リブッカ1頭あたり100リパンくらいの買い取りに設定してもらい、とりあえず2頭売る。その2頭を俺が1頭あたり250リパンで買い取り500リパンを渡し、残りの3頭を300リパンで売るというお店屋さんごっこのようなことをした。
一度に5頭買えるほど軍資金が無いのだから仕方がないのだ。店舗特例として追加のお金を渡そうとも思ったが、まずは当初配布した分のお金で様子を見たかったのでこのような回りくどい方法を取ったわけだ。
「後は解体した肉をうまく儲かるように売ってくださいね。
1頭100リパンで買い取ったのだから、解体にかかった手間ともしも売れなかった場合損する分も多少計算に入れるのがコツです。
今俺と売買したように、買取金額の倍以上の金額で売るようにしてくださいね、売れ残ってどうしても腐りそうな時は値下げするのもありですが」
などなど、適当なアドバイスをした。俺はその辺全く知識が無いので本当に適当だ。ただ、買値より高く売れば儲かるといっただけである。
農家にも一人店を出したいという人が居たが、まだ用意が出来てないとのことだったので、家に行って直接買うことにした。
最初の野菜屋さんはルツというおばさんだ。旦那さんと二人自分の所の野菜と、他の農家から買い取った野菜を売るとのことだった。
なので買い取り金額に広場まで運ぶ手間や売れない場合の保険代をちょっと上乗せした価格で売るようアドバイスした。
仕入れ先の農家から何か言われたら、広場まで運んで来たら買値を上げると言えばよいと伝えておいた。
これで経済…とは言えないが、最初の一歩の種まきは大体終わったと思う。
気が付けば12月31日、年越しだ。今日はキンタに行って夜に人を集めてもらうことになっている。
幸い常春の村なので、夜でも寒いことは無い。料理や酒をふるまって年越しパーティーをするのだ、
暦の概念が無いなら与えればいいじゃないかということで、村民にとっては謎の「年越しパーティ」というものを催し、カウントダウンと共に迎えた年越し後、暦を発表。
明日から村の歴史が正式にスタートするというわけだ。
村の設立日を暦に合わせなかったのには理由がある。
簡単なことだ、俺のスマホと、つまり日本の暦と同期させたかったのだ。そうするとスマホを見ればいつでも今日の日付がわかる。この世界も俺の世界も同じ日付なのだから俺がすごく考えやすくなる。
それだけ、それだけのわがままではあるが、混乱しないよう必要だと思う。
季節感なんて存在しない、いい加減なこの世界だ。暦だけでもちゃんとしないとだめになっちまう。
飲み物を用意していて気付いたが、というか今更感が凄いがこの村には酒が存在しなかった。
パンに聞いたら水の代わりに酒を飲むような連中はいるけれど、それはその集落から外に広まることが無い、なんたってその集落から人が出てくることがまずないからだ。
という感じの説明をされたが、酒がない世界なんて健全すぎて面白くないじゃないか!ようし!この村からも新たな酒を発信してやる!と、新たな野望が芽生えたが……
まてよ、ここの人たちはじめてお酒飲むんだよなあ。
……ちょっと様子を見ながら少しずつ飲んでもらおう。
◇
よくわからない感じで集められ、よくわからない感じで始まったが、なんだか知らんが肉を喰える!ってことでみんな嬉しそうに参加してくれている。
取りあえず様子見ということで、アルコール度数低めの果実酒やビールを大人達にふるまってみたが、こいつら結構いける感じだった。
「飲むと気分が良くなる不思議な飲み物」
なんて言われたら普通は訝しんで手を出さないと思うのだが、ユウさんなら!という謎の信頼を得ているためすんなりと受け入れられてしまった。
ひどい酔い方をしている人も居ない。今日はどんどんふるまってしまおう!
なあに、悪酔いしても状態異常回復薬がある。これさえ飲めばアルコールが解毒されてばっちりってわけよ。
…地球に帰るときもってけないかな……。
そんなこんなで夜は更けていく。子供や眠い人は無理をせず帰っていいといったのだが、ほとんどの人が残っている。
年越しのカウントダウンが始まった。
最初は俺とパン、ルーちゃんとクロベエだけが数字をカウントダウンしていたのだが、なんだかわからんが面白そうだと途中から村人たちも声を合わせ始めた。
「5!」
「4!」
「3!」
「2!」
「1!」
さあ、新しい年のはじまりだ!
色々遊んでたら とうとうストックが切れてしまいました。
というわけで、今年最後の投稿となりました。
読んでくださった方々、ありがとうございました。