第六十話 クロスボウ
撤収が終わったので鍛冶屋に足を運んだ。ザックとダンに頼んでおいたクロスボウの進捗を確認するためだ。
「いるかい」
ドアを開け中に入ると既にザックも来てダンと二人待っていたようだ。
「おう、ユウさん。来ると思ったぜ!まずはこれを見てくれよ!」
自信満々に置かれた3台のクロスボウ。見た目はかなりの出来だが性能はどうなのだろうか?ダンに尋ねると胸をどんと叩いて自信満々だ。
「キンタに頼んでな、たまに試射してもらってたんだ。どうせ狩人に使わせるんだろ?だったら狩人の意見をきかねえとな」
なるほど、違いない。頼まれたこと以上の仕事をしてくれていたようでなによりだ。
「それと、この金属製の矢だがな……」
そういやそんなものも頼んでいたな。
「いやあ、悪いと思ったんだが、見たこと無い金属だったんで1本頂戴して素材にしようとしたんだが……、どうもウチの炉じゃあ上手くいかねえ。
加工しようにもうまくいかねえんだ。ユウさん、これどうやったんだ?」
渡した矢は魔鉄鋼だ。これを参考に鉄で矢を作って貰おうと思ったが、やっぱ素材に興味が行っちゃったかあ…まあそうだよね……。
どうやった?って言われても困ってしまう。スマホでチョチョイのチョイです!なんて言えるわけが無い。なので……
「ああ、その金属は魔鉄鋼という特殊な金属で……。加工にはまた特殊な炉が必要なんですが、俺には上手く説明できないんで、加工については待って貰えませんか?」
待って貰ったところであても無いのだが、こうでも言わないとどうにもならないだろう。なるほどなあ、炉かあ、そうだよなあと勝手に納得してくれたので助かった。
ボウガンの完成にはザックの腕が大いに役立ったそうだ。
クロスボウを分解しては組み立て、何度も何度も繰り返してそれぞれの部品が持つ意味を理解するところから始めたらしい。
なので見よう見まねでは無く、構造を理解した上で図面を引き、それを元にダンがパーツを作る。
できあがったパーツをザックが組み立て、その過程で不満があればダンに指摘し、喧嘩しながらも1台完成したときは二人でささやかなお祝いをしたと笑っていた。
「流石だなザック!俺が見込んだとおりだ!これからも頼むぜ!」
ザックは頭をかき照れたように笑っていたが、その目はとてもやる気に満ちていた。
クロスボウの制作費として、500リパンを二人に手渡した。
二人もまた午前の市に来て何となくでも金銭価値と言うものを身で持って学んでいたため、「貰いすぎでは無いのか」と恐縮していたが、安いもんだ、っていうか実際安い。
本来であれば10,000リパン(100万円くらい)でも安いもんだ。開発というものは知恵と手間が見た目以上に使われているのだから当然の対価である。
また、二人は農家や狩人の様に安定収入が狙えるわけでも無いので、高額の仕事を時間をかけてやるという事も覚えた方が良いのだ。
「今回支払った金額はあくまでも開発費と工賃だ。
とは言え、クロスボウの実物を無償で提供し、それを元に作って貰ったので相場よりかなり安くなっているのは勘弁してくれ。
本来ならさらにクロスボウ3台分の金も払いたいところだけど、今回材料は俺持ちだ。なので悪いがそれは省かせてもらった」
「なにいってんだ、ユウがいねえと作れなかったんだ。俺が金を払いたいくらいだよ」
それを聞いて"特許"という単語が頭に浮かんだが忘れることにした。まだまだ幼いこの世界には速い。なので軽く聞き流し、今後の話に移る。
「ダン、ザック。この後狩人達を集めてこの村で産まれたクロスボウのお披露目会をする。
これは従来の弓より威力があり狩れる魔獣も増えるため、ほしがる人が増えると思うんだ。だから今後も作り続けて欲しい」
「確かに、これは革命だ。ただよお、これはどのくらいの価値があるものなんだ?」
「そうだなあ、本当はそれも含めて二人に決めて欲しかったんだが、慣れるまでは難しいよな。
材料は鉄と木材。木材は良いとして、鉄はどうやって手に入れてるんだ?
「元々そこまで使わなかったからな、たまに山に籠もって俺が採掘してたんだが、クロスボウを作ったり、矢も作ったりとなると素材が持たなくなるな」
「じゃあさ、ボウガンは当分1台200リパン、矢は1本10リパンで売ることにしよう。
鉄の入手に関しては俺も考えるが、安定供給されるまではあまり売れないよう高めの金額で売ることにしよう」
ボックスから鉄を取りだしドサドサっと置き、当分はこれでまかなってくれと言った。
「これだけあれば当分賄えるが、ただなあ、後から安くするとして先に買ったヤツから文句がでるんじゃねえのか?」
「ああ、それは大丈夫だ。まず最初の3台のうち1台は優れた狩人であり、村長であるキンタへ俺からの贈り物と言うことにする。
そして残り2台は狩人達の共有財産として、練習用に使って貰うんだ。クロスボウはかなり強い。交代で使っているうちに自分用が欲しくなるだろ…?」
「200リパンに矢の料金もかかるとなればそう易々とは手が出ねえな」
「うむ、だが買えたものはどうだ?しばらくの間優越感に浸ることが出来るだろう?
安く出来るのは相当後だ。その頃手に入れたヤツより圧倒的に使いこなせるようになっているはずさ」
「なるほど、先んじて専用武器として所持をして練度を高められるという価値があるわけか」
その通りだと頷くとザックと二人納得していた。
「それで明日の朝から森に入って試射会をする予定だが二人はどうする?」
「見に行きたいです!」
「ああ、俺も見に行くぞ」
そうこなくっちゃ。となれば明日は朝から狩り、午後からは実際に「売る」という経験をして貰うことにしよう。