第五十九話 おみせやさん
昨夜予告したとおり、今日は朝から開店の用意をしている。
俺とクロベエの八百屋とパンとルーちゃんの肉屋だ。
雰囲気的に逆の方が良いかな?とも思ったんだけど、八百屋は種も売るから俺が説明した方が確実だ。
肉屋は値札の通り売ってくれたらいいので難しいことも無い。
店舗は仮設とは言え、屋根が無いくらいで立派な屋台だ。
やがてこの村にもこんな感じの店が増えて市場が出来ればふらっと買い食いなんかも出来るようになるかもしれない、そう考え、八百屋の逆隣に肉の串焼き屋の屋台も置いている。
3人と1匹では流石にどうしようも無いため、マーサ、キンタの奥さんとリットにお手伝いを頼んでおいた。っと噂をすればなんとやらだ。
「ユウさーん、遅れてすいません」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
相変わらず美人だ。元気になって本当に良かった。リットはなんだかとっても張り切っている。今日はルーちゃんと二人頑張って貰おう。
「ええと、マーサさんにはこれを使って肉を焼いて貰います。
肉は俺があらかじめ串に刺しておいたものを用意しておいたので、火が通るまで焼き、その後このタレ…味がついた液にザブンとつけてもう一度軽く暖めるように焼いて下さいね」
BBQでもしようと魔鉄鋼で作っておいたグリルを興味深そうに見ていた。
こう言う移動式のグリルなど無さそうだったしな。まして炭を使っている様子も無かったので、これも見るのははじめてだろう。
「なるほどなるほど、はい、わかりました。じゃあ焼くのはわたしがやりますね。じゃあリット、貴方はお客さんからお金?を貰う係ね」
「はーい、がんばるね!」
「串焼きは一律1リパンなので銅で出来た銅貨を貰ってね」
「はーい」
「じゃあ、リットちょっと練習して見ようか。串焼き3本下さいっていわれたらどう答えたら良い?」
「ええと、1リパンを3個下さい!」
「惜しいけど違うんだな、1リパンを3枚で3リパン。だから3リパンです、だ」
「わかった!4枚だと4リパン、5枚だと5リパンだね!」
「その通り!じゃあ、3リパンとて、俺は10リパンを渡します。どうする?」
「うんと、10リパンだと貰いすぎなんだよね、残りを…うん、そっか7リパン取って渡せば良いのね!」
「リット……やるじゃないか!正解だよ!もう少し大きくなったらお仕事で活躍出来るぞ!」
「本当?やったあ!」
正直会計までは無理だろうと思ったので、俺が補助するため八百屋の隣に串焼き屋台を配置したが、この分だと俺の助けは要らなそうだ。
マーサもびっくりしてリットを撫でてるし、これは思わぬ収穫だったな。
と、準備が一通り出来たところで開店だ。既にぽつりぽつりとお客さんが現れ始めていた。遠巻きに開店を待っているようだったので合図として声をかける。
「へいらっしゃい!らっしゃい!ここのとはちょーっと違う変わった野菜だよお!」
いきなり大きな声を出したので何人かびっくりしていたが、開店に気づいたので良いことにする。
「おや、このジャモはここのとちょっとちがうね?」
「そうでしょう?味も保証しますよ」
「おい!このデカい肉、10リパンでいいのか?10リパンっていうとええと…野菜なら結構買えるのか…でも自分じゃ狩れないからな…」
「こっちで焼いたお肉を1リパンで売ってるよ!まずは味見をしてみたらどうかな!」
リットはやはり商売の才能があるな。大人になってからと言ったが、もう少し早い段階で何かやらせてみようかな……。この世界最初の豪商になる予感がする。
「うおお、なんじゃこりゃ!めちゃくちゃうめえ!おい!さっきの肉買うよ!」
「ありがとうございます!10リパンです」
お客さんが結構増えてきた。野菜だけじゃ無くて種の売り上げも上々だ。買うのは農家の人だから普通の種と同じように扱ってくれ、と説明すれば済むので楽ちんだ。
思ったより結構な額が使われている。農家の人には野菜購入で還元するとして、狩人には先行投資と言うことで給料を払って実験に付き合って貰おう。その他人の所にも行ってある程度お金を回しておかないとな。
「ユウさーん、お肉無くなりそうですー!」
「はーい!今足しまーす!」
「ユウー!肉が尽きるー!」
「そっちもかよ!ほら!ヒッグ・ホッグ!値段はそのままで良いから大きさごとに並べてくれな!」
忙しい忙しい。でもこれでお店というものがどういうものか、買い物というものがどういうものか分かってくれたんじゃ無いかなって思う。
後で相談会を開いて八百屋と肉屋をやる人を決めて貰って、その人達のおうちに少し手を入れてお店と倉庫を作ってあげよう。その後大工を呼んで見せればその後の参考になるだろう。
本当は建築してるとこ見せるのが一番良いんだろうけど、俺の場合アレだからな……。
◇◇
ようやく人がはけ、広場に静寂が戻ってきた。リットとマーサ達にもお礼をかねて昼食を御馳走し、今日の給料を支払う。
「はい、これ今日のお礼ね」
そう言って二人分として10リパン渡すとびっくりされた。
人二人を3時間拘束して日本円にすれば1000円なのだから安すぎるくらいなのだが、お金の概念が無いし物価も安い(1リパン=ジャモ1籠、キウンバ5本、肉300gくらい)ので10リパンは多く感じたのだろう。
それに、こういう労働の対価としてお金を貰うのにまだ慣れていないだろうからな。
貰っていいのかというマーサに笑顔で頷き手渡す。
「前も言いましたが、こう言う手伝いにも報酬という形で対価は必要なのですよ。
狩りが出来ない間、畑を手伝ったお礼に野菜を分けて貰っていたでしょう?形は少し違いますがそれと同じ事なんですよ」
そう言うと納得してくれた。今後この村全体にこういう基礎的なルールが根付いていくと良いな。