第五十八話 建国への第一歩
こほんと咳払いをし、本題に入る。通貨の普及も大切だが、ほんとはその前に済ませておかなければいけなかった問題をここで纏めて片付けてしまう。
「さて、今周りを見渡すと沢山の人たちで溢れています。
元々ここの集落は人数が多めだったと聞きますが、今では他の集落からも人が集まりとても活気に溢れていますね」
互いに顔を見合わせてそうだな、そうだなと頷き合う人々。こんだけ人が居たらもうそれは集落というくくりで管理することは不可能なんだよな。
「で、これだけ人が居ると何か問題があったときに困ります。
今までは長老的な人が集落を纏めていたでしょうが、多数の集落がまとまった今、それは難しい。
そこで新たな代表者を決めたらどうだろうと思うのです。何かあったときに人を集め話し合い、様々な意見を聞いてそれを纏める役、そういう人を決める時が来たのです」
否定の声が上がると思ったが、そこは満場一致で賛成のようで、特に不満の声が出ることは無かった。だが……
「いいぞー!俺はいいとおもうー!」「ユウさんが言うことならたしかだー!」
「ユウさん!これからも頼むぜー!」「ユウさんが纏めてくれるなら間違いねえな!」
「そうだそうだ!」
どうも、勘違いしているな。
俺がやることで決まっているかのようだが、こればっかりは俺がやっちゃダメな仕事なんだ。すまない。
「悪い皆!先に言って置くが、その代表は俺じゃあダメなんだ。
確かに俺はここの皆の暮らしを良くしたいし、これからも助けになって共にここの発展を見守っていきたいと思う。
でも、ここのことはここに住む住人が決めた方がもっと良くなると思うんだよ。
たまにくる俺なんかより、普段からここに居て、細やかに住人の事を見て理解してくれる人がさ」
「なるほどなー、そういう事なら…」
「でも、一体誰がその役目をしたらいいんだい?」
等など、様々な声が上がるが俺はもう誰にするか決めている。
キンタ、こっちにきてくれ」
「へぁ?」
急に呼ばれて変な声を上げてしまうキンタ。戸惑いながら俺の横にやってきた。
「俺はこのキンタなら信頼して代表に出来ると思う」
「はあ?ユウ?何言ってんだお前?俺が代表?おいおい!勘弁してくれよ!」
周りから不満が出ると思ったが、そんな声はなく、唯一不満そうな声を出してるのは本人だった。しかしそうはいかない。
「なぜキンタかというと、狩りに詳しい俺から見てもこのキンタに敵うものはこの集落には居ない。
今は無理だが、キンタの能力があれば狩人を率いてリブッカすら狩れるようになると思っている。
また、ラウベーラが現れたとき狩人を率いて森に入り最後まで戦ったという話も聞いた。
彼ほど勇敢で腕が良く、責任感がある男は他にいないと思う」
「そ、そんなことを言われてもな…照れるが、そうじゃねえ、俺にだって苦手なものはあるんだ、確かに狩りは自信があるし、男共をまとめるのもできなくはねえ、だが、それだけじゃな…」
「心配するな、こう言う役職にはな、秘書がつくんだよ。シゲミチ、きたまえ」
「ふぁ?」
彼もまた、突然呼ばれて変な声を上げている。キンタ以上に挙動不審になりながら俺の隣にやってきた。
「彼はシゲミチ。狩りもしないし畑も触らないって事でナマケモノ呼ばわりされていたが、実は集落の将来に繋がる大切な作業を一人コツコツ、誰からも褒められないのにずっとやっていた影の功労者だ。
けがに効く薬のことを誰に聞いた?害がある虫の話を誰から聞いた?そう、シゲミチだ。
彼は調べ物をするのが得意で、今はここの名簿も作ってくれている」
「いや、でもそれは俺のしゅみ…あうっ」
要らんことを言いそうなシゲミチの足を踏んで黙らせる。
「ここ全体のお金の管理や新たに増えた人の対応、その他キンタには対応しきれないものはこのシゲミチが請け負う。
二人手を合わせてこの場所を良い物にして欲しい。
彼ら二人と皆が力を合わせればこの場所はより良い場所に生まれ変わっていくことだろう。」
盛大な拍手で承認される二人。後で覚えてろよと言うような視線が痛いが、逆にじっくり説明してやるから覚悟しろ。
「さて、代表が産まれ、通貨というものも出来た。
今後この集落はより大きく発展していくと思う。
で、これだけ人が集まった場所を俺が住んでいた"場所"では「村」と呼ぶんだ」
「むら?」
「そう、村だ。そして村をまとめるのが村長、今日からキンタは村長だ。」
「キンタ村長ー!」「いいぞ村長ー!」「そ・ん・ちょ・おおおおおお!!!」
意味わからん盛り上がりを見せているが,まあ良いことにしよう。
「そして村には名前をつけなければいけない。
今後他の場所にも村が出来たとき、「村」だけだと区別がつかないだろう?
森の近くの村、とか海の近くの村、とかだとどこの森の近くの村だ?って混乱しちまう。
だからここにしかない、ここだけの名前をつける」
「村のなまえ?」
そうだ。このせか…いや、この辺りにはまだ「村」という物が無い。ここが一番はじめの村だ。
だから、俺はここを「始まりの村」という名前にしたいと思うんだが、どうだ?」
「ここが最初の村、ここから新しい何かが始まっていく、だから始まりの村か…」
「うむ、ここから、この始まりの村から世界は変わっていくんだ」
「いいな!始まりの村!」
「まんまじゃねえかって思ったけど口に出すと案外良いな!」
「俺達の村!始まりの村!」
「始まりの村!」「始まりの村!」
口々に村名コールをしている。いつかここに新しく誰か訪れた際、村人は言うのだ。
「ようこそ!よくきたな!ここは始まりの村だ!」と。
なんだかベタなRPGに有りそうな感じでとても良いじゃ無いか。
ここにこの世界で最初の村「始まりの村」が産まれ、建国への最初の1歩が踏み出されたのだった。
なんだか雰囲気的に終わりそうですが、まだまだ続きます。
村でやることも沢山有るしね…!国を作るまで女神は帰してくれないのです……。