第六話 塩うまい
イノシシを引きずり拠点に戻った。いや、嘘をつきました。俺にはそんな力はありません。チートは全部スマホに行ってますからね!クロベエちゃんに引っ張って貰いましたとも。
折角やっつけたので、解体する前に写真を撮り図鑑に収めた。
魔獣:ヒッグホッグ 体長2m~5m
泥浴をして体中に泥をつける。その身についた泥は魔力により性質が変わり魔鉄鋼となる。大型の個体からはかなりの量が期待できる。身はブタの様な肉質で脂は甘くとても旨い。筆者はロースを炙りレモンと塩でいただくのが好みだ。
「筆者って誰だよ……」
『私ですが?』
即入るメール。こいつヒマなんだろうなあ……。
「レモンと塩って書いてるけどこっちにもあるの?」
『ありますよー レモンはルンという果実ですが大体似たような形です。塩は海塩もありますが、大体は岩塩ですね。あの辺りの岩場を掘ると出てくると思いますよ』
良いことを聞いた。こいつを解体したら取りに行こう……解体……?
釣りが趣味なので魚を捌いたことはある。鳥もヤマドリを貰った時、なんとかネットで調べながら頑張った。しかしイノシシはどうだ?狩り漫画で見たことはあれど流石に四つ足の解体はしたことが無いぞ……てか、俺に出来るのかしら。
『はい、今アプリで出来るようにしました』
「まじかよ!!」
もう少しこう、なんというか……異世界であえぎたかったというか、苦労して食った肉は旨い!みたいな……こう……ロマン的な……おなかの中身とか見てグエー!とかは嫌だけどさあ……もっとこう……ねえ?
『要らないなら戻します……(しょんぼり絵文字)』
「いや!助かるから!毎回血みどろでやるの嫌だし!ほんとにありがたいから!」
慌てて返事を書く。確かに少しがっかりはしたが、冷静に考えれば毎度解体はめんどくさい。そもそもまだ風呂にもは入れないんだ。血みどろになんてなってられるか。泥だらけで間に合ってるわ。
というわけで、早速アプリを見て見るとクラフトに「解体」というものが増えていた。ボタンを押すと画面がカメラに切り替わる。
なんとなくこうじゃないかと、それに収まるようにヒッグホッグを入れると「マニュアル解体」と「オート解体」のボタンが表示された。
「マニュアルは……なにかわからんが、まあいつか使うだろう。とりあえず楽そうな「オート」で
ボタンをタップするとヒッグホッグが光に包まれ中で何かが始まった。
ゴキッ ガキッ ベリリッ ぬちょぁっ!
「音!ここまですんなら音も消えるようにして!……はあ、中の様子は想像したくねえな……」
やがて光が消え、毛皮と少量の金属片、そして大量の肉が現れた。
「うおおおおおお肉だ!肉!」
「にく!にく!にく!」
『ロース!ロース!ロース!』
「おい、今の誰だ」
しかしいきなり大物を倒してしまったわけで。あの巨体から手に入った肉の量はかなりのものだ。大抵この手の話だと中の時間が止まってるアイテムボックス的なのがあってさ、保存には困らないようになっててるんだけど……今の俺は木の実の持ち運びにすら困る始末。腐らせないよう何らかの対策が必要だろう。
『そうだ!言おう言おうと思ってたけど、あんたアイテムボックス持ってるでしょ?鉈とかどっから出したか忘れたの?折角上げたのにもー!』
「あんのかよ!いやあったわ!」
すっかり忘れてた……。
『しかもちゃんと鮮度を維持してくれるのですよ?感謝してもいいですよね。神に』
「でもさ、スマホにこうお肉を当てるのはこう……ねえ?抵抗が……」
そうだよ、それで試すこともなく今まですっかり忘れてたんだよ。液晶にお肉のぬめっとした脂がつくんだぞ、嫌すぎる……。
『ふふっ 肉をスマホに? プスッ面白いこと言いますね?ああそうか、馬鹿なのか あはは』
「ちょっと女神様?」
『あっはっはっは……そう言えば入れ方の説明をしてなかったけど解体と同じなのよ。回収ボタンがあるでしょ?それを押せばカメラが立ち上がるからその枠内に入れて回収したいものをタップするだけ。簡単よ。すまっスマホに……肉をあて…あてなくていいからね…あはははははは』
「へー!なるほどなー!ありがとうございます!くそが!!!!でもこう、もっとこう、ねえ?気楽にぽいぽい入れたいときとかいちいちカメラ起動してーとか面倒じゃないっすか?他の方法があったりは……?」
『贅沢な子…… しょうが無いなあ、じゃあいかにも”ボックス”というようなものも出してあげる。』
ドスンという音とともにアイテムボックスだというものが落ちてきた。
見た目は大きめのクーラーボックスくらいの木箱だが、箱に近づけると大抵のものは収納するそうだ。取り出すときは欲しいものを想像しながら取り出すと良い感じに出てくるらしい。スマホのボックスと連動しており、どちらからも出し入れが可能、ただしこれは固定型で重たいから、別の場所に置きたくなったらアイテムボックスに入れなさいということだった。
「アイテムボックスにアイテムボックスを入れるのか……斬新だな」
深く考えると頭が痛くなりそうだったので気にしないことにしてさっそく肉や水を適当に投げ込み周辺を片付ける。毛皮は風が当たるところに干しておこう。何かに使えるだろうから。
「そう言えば岩塩がどうのこうのって言ってたな……」
「がんえん?」
「塩だよ、塩。おまえにはあんまり良くないんだけどな」
「どく?」
「食べ過ぎは毒だけど無いと俺が困る」
「じゃあとりにいこー」
魔獣化してるから塩も平気そうだが、一応気にかけておく。有るか知らんけど、タマネギやチョコとか猫の毒になる物は色々あるからなあ。その辺りは後でパンちゃんさんに聞いてみよう。
クロベエにまたがり15分ほど走って貰うと直ぐに岩場に到着した。こいつ本気で走るとはえーのね。車かよって速度出てちょっと出そうだったわ。
「親方ーどの辺掘ればいいっすかねー」
『おう、そこの角のあたり掘って見ろ!……って誰が親方よ!』
ノリが良いなあ……
とりあえず掘ってみよう。と、言ってもツルハシなどは配布されていない。女神なパンちゃんが何も言わないという事は、今ある手持ちでなんとかできると言う事なのだろう。ふむ……ならばどうするかといえば……!
「そぉい!」
大きく振りかぶってスマホを岩肌に投げつけてやった!手持ちの道具で一番頑丈なのはどう考えてもこいつだ。他に便利な道具がない以上、こいつを投げるのが正解と考えるべき。
ガッ
いい音が鳴り響き岩肌が1m四方の範囲で砕け散った。うむ、予想通りの成果だ!つうか、ドン引きするレベルの破壊力だよこれは……。
『ちょ!あんた何してんのよ!ばっかじゃないの!?』
「え?採掘……みてみてースマホの加護のおかげで岩がどんどん掘れるよー」
『って また投げてるーーー!どんどん掘れるよじゃないわよ!』
ガッ
ゴッ
女神様からなんかメールが来てるようだが、見る暇はない。なんたってスマホは手から離れているからな!ヒョイひょいっと投げ、どんどんテンポ良く砕いていく。
ノリノリで暫く砕いていると、途中でかわいい岩塩が顔を出した。
「うふふ これこれ!」
砕けて落ちた岩塩を隅にまとめ、もう暫く掘っていく。当分困らないだけの量は手に入ったけれど、なんだか楽しくなっちゃったのでどんどんいくよ!なんたって、軽く投げているのに結構良い具合に崩れてくれるから楽しいったらもう!
ガッ ゴッ ビシ!
……これ、思いっきり投げつけたらどうなるんだろう? 今は結構軽めに投げているけど、一体どうなっちゃうんだろう? 他愛もない好奇心から全力で投げつけてみたくなった。
「ぬおっしゃああああるぁ!」
ズズンッ
ビシ ガッ ゴッガッゴガガゴゴゴッガゴゴゴッゴゴゴゴゴゴゴ……
あれー跳ね返ってこないぞー?
すげー勢いで岩にめり込んだと思ったら中で反射してどんどん奥に奥に入り込んでいるようだ。思いっきり投げたせいで妙な貫通力がついたのか、普通に投げたのとは違い、穴の入り口はスマホサイズの小さな穴だ。手すら入らない穴の向こう側で今も鈍い音を立てているスマホ……ああ、これはやってしまいましたなあ。
「まいったな……ロストだ……」
やっちまったと思って項垂れていたら、スッと手の中にスマホが現れる。
『……まさかこんな形で説明することになるとは思わなかったけれど、ロスト対策の加護もかけてあるのよ……』
もうすっかり丁寧な言葉を忘れたパンちゃんが説明をしてくれた。
・持ち主の手元からある程度離れると手の中に転移する
・近距離であっても拾えない場所に飛び込んだ瞬間戻ってくる
・なんなら念じれば手元に戻ってくる
・捨てようと思っても捨てられないと思え。何時もお前の後ろに居るからな
捨てないよ!呪いの人形か何かかよ!怖えな!……しかしなるほどね。中々便利に使えそうだ。
失う危険が無いとわかれば楽しくなってきた。ちょっと投げるだけで砂山を削るかのように簡単に岩が削れていくのだ。あっちに投げこっちに投げ、ちょいちょい出てくる岩塩を拾い、再びあっちへこっちへ投げまくる。
気づけば使い切るのが無理そうなほど積み上がった岩塩に嫌な汗が出たが、調子に乗って掘ったおかげか良い具合に洞穴になっていたのは結果オーライだろう。これだけ広けりゃきっと何かに使えるだろうしさ。
とは言え、細かい岩塩をボックスに入れるためタップしまくるのは嫌だったので、とりあえず必要な分だけタップして収納した。残りはこのまま洞穴に置いておいて後で回収すれば良いでしょう。誰かに取られるって事も無かろうし。
しかしかなり立派な洞穴を産みだしてしまったな。ううむ、これほんとどうしような? 取りあえず名前でも付けておこうかしら?
……うむ、そうだな。ここを岩塩の洞窟と名付け末永く言い伝えさせよう……。