第五十七話 集落の改革
ザワザワと集落の人たちが集まっている。軽く既視感を覚えるのはダンジョンの妖怪どものせいだろう。
妖怪と違って人間達だ、大きな騒動にならないと信じたい。
「えー、お集まりいただきありがとうございます。わたくし、ユウと申しまして、魔獣の森の近くに家を構えているものです」
「おい…魔獣の森って…」「誰だ?見たことねえヤツだな」「魔獣連れて歩いてるのを見たぞ」
不信感めっちゃ高まってる。
「あー、魔獣といってもコイツは普通の魔獣と違うんですよ。クロベエ、挨拶しな」
「はじめまして、俺はクロベエ。ユウの息子だ。よろしく頼む」
「喋ったあああああ」「でけえなおい……」「噛まないかな…」
「あー、心配には及びません。こいつは産まれたときから俺が手をかけているため人間と変わらぬ知性を持ち、人間に危害を与えないどころか魔獣を狩る良いヤツですので、ご安心を」
俺に指示で後ろに下がるクロベエにビビって道が出来るが、駆け寄ってきたルーちゃんとリットが平気そうにまたがったのを見て緊張がほぐれたようだ。
「あー、ユウはな、矢の改良をして俺達の狩りを向上させてくれただけでは無く、女神の森に現れたラウベーラを狩った素晴らしい狩人でもある。
コイツの凄さは俺が保証する。話を聞いてやって欲しい」
キンタがフォローをいれると俺の目を見る目が変わったようだ。ここの連中も妖怪どもも強者は疑わずか。うーむ本質は変わらない脳筋の世界だな……。
「ありがとう、キンタ。さて、この集落は以前と比べて人数が増え、意見の食い違いからちょっとした争いが出るとキンタから聞いている。
そこで、外の人間が何をと言うかもしれないが、皆が損をしないで安心してお腹いっぱいご飯を食える仕組みを考えてきたんで聞いて欲しい」
お腹いっぱいご飯を、という単語に反応して集まる視線がより強くなった。やはり食の力は偉大だ。
「俺がこの集落に来たとき、物々交換を発展させたやり方を教えたんだ。
ものだけでは無くて、仕事と交換で食料や道具を得ることが出来る仕組み。
でも、新しく増えた人達にはわかりにくかったよね。
なんたって交換する"物"が無いのに交換しろと言われてもどうしようも無いわけだ。」
ついてきてるかな…ついてきてるよね……出すぞ、出すぞ……
「そこで新たな仕組み、"通貨"を使ってみたらどうかと考えたんだ」
「つうかってなんだ?」
「そこの君、良い質問だね。実物を作ってきたので見て欲しい」
広場のテーブルにジャラジャラと貨幣を出す。
「これは"コイン"と言って何種類かある。まずこの銅色のが1リパン、銀色のが10リパン、そして金色のが100リパンだ。
1リパンを10枚とこの銀色の、銀貨と言うものは同じ価値があるので交換することが出来る。
同じく10リパン10枚と金貨も交換できる」
「それをどう使うんだい?」
「良い質問だね、よし実際にやってみせるよ。アシスタントのパンくん、こちらへ」
「……誰がアシスタントよ…」
打ち合わせ通りパンを呼び、用意しておいた肉を取り出した。肉にざわめきが起きたがもう慣れているのでリアクションはしてやらない。
「さて、俺は肉を持っている。パンは肉が欲しいがそこの君、肉が欲しいときはどうしている?」
「そら野菜を持って行って変えて貰うだろ」
「その通り!でも野菜って重たいだろ?これくらいの肉を貰おうと思ったらかなりの量になる。そこでだ」
パンに合図をし、シミュレーションをはじめて貰う。
「あらあ、良いお肉ね、レッグ・コッカかしら?おいくら?」
「奥さんいい目してるねえ!そうだなあ、この大きさなら10リパンかな?」
「うーん、もう一声!」
「奥さんにゃかなわねえや、奥さん可愛いからおまけしちゃう!8リパンだ!」
「あ、あら!うれしい!じゃあこれね」
と、パンから10リパン銀貨を1枚受け取り、おつりに1リパン銅貨を2枚返した。パンが妙に照れてるが、可愛いって言ったのが刺さったのか?演技だぞ!演技!
「とまあ、こんな感じでコインと交換で肉が手に入ったわけだ。そんでこれを手に入れた俺は…」
そこでルーちゃんを呼ぶ。
「ルーちゃん、この薬草の効果について調べてくれないか?」
「そうねえ、はじめて見る薬草だから少しお金かかるわよ、2リパンでどう?」
「助かるぜ、じゃあそれで頼む。何か分かったら教えてくれ」
「まいどありー!」
「…とまあ、こんな具合に使うことも出来るわけだ。
つまり、肉が欲しけりゃ野菜じゃ無くてコインを持って肉持ってるヤツのところに行けば良いし、野菜欲しけりゃコイン持って行けば良い。
そして何かして貰いたいことがあったときもコインと交換でやって貰うようにすれば良いのさ。
重たい思いをしないで済むし、食料や道具以外に関わる仕事をしているヤツも生活がしやすくなるだろ?」
思った以上に理解力が高いようで、賛同する声があちらこちらから上がっている。ここでもう一つ提案をしておく。
「で、これは提案なんだが、今まで肉は狩人が持ってきたときに直に交渉していたと思うんだが、それじゃあやりにくい。
そこで肉を何カ所かに纏めておいて,そこで交換するようにしたらどうかと思うんだ。
そうだな、鍛冶やってるやつんとこいって道具と交換してただろ?あんな感じだ」
興味津々に聞いてくれているな、よしよし。
「仕組みとしてはこうだ。肉を取り扱う場所を「肉屋」と呼ぶ。
狩人はそこに肉を持って行ってコインと変えて貰う。
これを「買い取って貰う」と言う。肉が欲しいヤツはそこに行けばいつでも肉があればコインと交換することが出来るわけだ。
これは「買う」といい、同じく店が肉と交換することを「売る」と呼ぶ。」
なるほどなるほど、とあちらこちらから聞こえてくる。思ったより話はスムーズに進みそうだな。
「そして、野菜も同じように店を用意すれば良い。
肉屋もそうだが、自分たちでやっても良いし、相談して代表が店を構えても良い。
店はいくつあっても問題は無いからそこは自由にやってくれ。
勿論、肉屋や"野菜屋"以外の店があっても良いんだぞ。
なんでもやる「なんでも屋」なんてのもあってもいい。好きなように店を作ってくれ」
「凄く良い案だと思う!それでその、コインとやらを俺達は持っていないんだが、どうすればいい?」
まあ、そうだよね。産まれたばかりのコインを持ってるのは俺だけだ。
「最初はこの話に賛同してくれたお礼として俺から皆に金を払うよ。
各家庭一律500リパンだ。1リパンを100枚、10リパンを40枚、100リパンを1枚配るから、大切に使ってくれ」
ここで一気に歓声が上がる。日本円にして1リパンは100円、100リパンは1万円だ。5万円をただでくれるって言ったら俺だって嬉しいし欲しいわ。
「で、急に店と言われてもお手本が無いと困るだろうから、明日俺がお試しの肉屋と八百屋を開くから買い物に来て欲しい。
俺はそこで手に入ったコインを持って皆の所に買い物に行くから損はしないはずさ」
そこまで話すと皆嬉しそうにしつつ、そわそわし始めた。ああそうね、早くお金を配って欲しいんだよね。わかるわかる。
でもお金を配ったらさっさと帰っちゃうだろ?残念ながら本題はまださ。ご褒美は本題の後だ。