第五百七十二話 そして。
本日2本目の投稿です。これの前に10時投稿分があります。
夢みたいな日々だった。
夢みたいに、楽しくて、暖かくて、素晴らしい日々だった。
あっちに行ってからしばらくの間は、必死に帰る日のことばかりを考えていたのに、気づけばこっちの世界のことなんて忘れちゃってた。そんくらいリプラシルは楽しい世界だった。
向こうのことは今でも夢に見るし、なんならあちらの癖でアイツのことを呼んじゃうことだってある。なんだか、ほんとびっくりするほど俺の中で大きな存在になってたんだなあ。
あれから、俺とカズがあっちから戻って来てもう2年が経ってしまった。
戻ってきた日の翌日は日曜だったので、長々とリプラシルに居てボケきった頭でいきなり出勤するはめにならなかったのはまあ、助かりましたけれども。実質2年もあちらでサボった感じになっていたわけだから、上手く仕事に復帰できるか少々不安でしたね。長めの正月休み開けに仕事のカンが消え失せるくらいですよ? 2年つったらもう大変ですよ。
ただまあ、幸いなことに冬季は比較的暇な業界で働かせてもらってますからね。リハビリと称して書類整理やら普段はやらない雑務やらをやっていたら、なんとかなっちまった。
あっちで色々やってたおかげか、ルーチンワーク的な単純な仕事の面倒くささが屁でもなくなってたんだよな。これはちょっと嬉しい誤算でしたね。
さて、今日は2019年11月25日。あれからちょうど2年だって思ったら、なんだか胸がいっぱいになっちまってさ、風邪を引いた気がしたので仕事サボっちまったよ。
……昨年も同様の理由でさぼったけどね。
朝っぱらから届いたメッセからするに、カズも同じ口みたいで……そうそう、カズはあの後間もなくニートを脱出したんだ。従姉妹が働いているクレープ屋さんに口をきいてもらったとかで、バイトだけれどもしっかりと仕事を始め、見事にニートを脱したよ。
カズんとこのおばさん、びっくりして俺に電話かけてくるんだもん。
『ユウくん? カズがね、仕事したいって言ってね? アキちゃんとこにお世話になることになったんだけど、ユウくんからカズになにか言ってくれたの?』
とかなんとか。そんな事言われてもさあ『ああ、ナギサちゃんのところで揉まれたので、一皮むけたんでしょうな』とか言えないじゃん。だから適当に『成長期なんですよ』とかいってごまかしたけどね。
ノリで攫ってしまって申し訳ないなって思ってるし、要らない別れの悲しさを与えちまったのも悪いなって思ってるけど、ああしてニートを脱却するきっかけを作れたのだけはほんと良かったと思う。
カズはやれば出来るやつなのにやらないというか、ひたすら自信がない奴だったからなあ。遠い空の下で今日もクレープを焼いているだろうゴリラ…… い、いやナギサちゃんに手を合わせておこう。
……!?
ふう……なんだろな、習慣というか習性というか、調教されてるっていうのかな? もう影響が無いって解ってるはずなのに今めっちゃ寒けした。 いやマジで風邪引いちゃったのかもしれんな。
ああ、ちなみにね? ブーちゃんからもらった謎の箱あるじゃん。寂しいなって思ったら開けろとか言われてたやつ。
うん、こっち戻ってきたその日の夜にさ、部屋で一人になった瞬間……開けちゃったんだよな。即開けてんじゃねえよって? うるせえ! だってめっちゃ寂しかったんだもん! しょうがねえじゃん!
そしたらさあ……小箱を開けたらさあ、わざとらしいほど神々しい光がわっと箱から溢れ出してさあ、一体どんなすげえ神具が入っているのだろうと思ったじゃん。 もしかしたらあっちとお話出来る素敵アイテムなのでは? なんて期待したじゃん?
ところが!
出てきたのは布だよ。 はあ? 布? なあに? ハンカチ? 普通のプレゼントじゃん? って脱力しながら一応は箱から出したら驚いたね。 いや、別に神具とか魔導具とか、そういうもんじゃあなかったんだ。
パンツだよ。パンツ。
パンのパンツだよ……洒落じゃなくてマジで。マジでっつうか、マジでなにしてくれてるんですかブーちゃん! 『寂しい』のニュアンス、別の方向じゃないっすか!
ベッドの上に座ってさ、おぱんつを広げて呆然としちゃったんだけど、なんだかこう、馬鹿らしくなって、妙に笑えてきて……寂しいのがわっとすっとんじゃってさ。なんだか複雑な気分だったけど、一応はブーちゃんにお礼を言ったわ……。
あ? パンツ? 小箱に戻して厳重にしまったよ! あんなの家族に見られたらなんて言われるか! 実家だぞ、実家! 女っ気が無いはずの俺の部屋に女性物の下着なんてあったら一体なんて言われることやら。
つーわけで、おぱんつ様の脱力によってなんとか立ち直れたんだけども、あの日から2年だって節目になるとやっぱ思い出して寂しいのぶり返しちゃうわけじゃん。
で、会社サボって気づけば例の竹やぶに来ちゃってたってわけさ。
俺はここから旅立ち、様々な人と出会い、そして別れて戻ってきた。その際に相棒であるクロベエとの別れもあって……家族から『クロベエ逃げたまま帰ってこないじゃん! ちゃんと探したの?』なんて少し責められて辛かったりもしたけど、いいんだ。俺があいつの幸せを、あいつが幸せに暮らしているのを知っているんだから。
ちょうど今くらいの時間だったな。クロベエと神託ごっこをしていたら……。
『人間よ……聞こえますか……人間よ……』
そうそう! そんな感じでさあ……ってええ……? 待てよ誰だよ!?
『あなたの心に直接語りかけています……』
いや、そんなの解ってるし。どうせ神様かなんかでしょ? あいにく俺は経験済みなんでね! 知ってる女神の声と違うから別の女神様なんだろう? またどっかいけって言われても無理だぞ! 俺はもう予約済みなんだ! 残念でしたね!
『はあ、こうなる気はしたけれども、やはりやりにくいの。わんこめ、夫のしつけがなっとらんわ』
「わんこ? 夫? ええと、一応聞きますけれど貴方はだあれ……?」
と、目の前にぼんやりとした女性が――さらりとした黒髪にセルの黒縁メガネ、乙女ゲーのプリントがされたジャージを着た……雰囲気だけ見ればフィーちゃんの様な残念な感じの女性が現れた。
「我が名は通称アマテラさん。お主の事はわんこからようく聞いているし、ブーケのやつからも宜しくと言われておる」
あっ この方が噂のアマテラさん!?
「うむ、そうじゃ。我こそが噂のアマテラさんであり、お主らの神であるぞ。敬うが良い」
「読心術使えるの知ってますけど、やりにくいんで敢えて口に出していきますね?」
「うむ、好きにするといい。それで、我が来たのはな……」
「ええとぶった切ってごめんなさい。でも気になるので……」
「む、なんじゃ。アマテラさんは寛大だ。なんでも問うが良い」
「ははあ……っと、確認なんですけれども、そのお姿は俺に合わせて敢えてなのでしょうか? それともデフォなのでしょうか? もしかしてその、うっかりとかそういう……」
「む? 一体何を……あっ! ちょ、まじか!」
何やら動揺していますね。やはりその服装はやらかし……どうやらアマテラさん、パン達とつるんでる辺り、若干同類の気が……。
「ぐわーーー! 目が!」
突如としてまばゆい光が、異世界召喚のそれ以上の光量を持つ光が殺意を持って目に飛び込んできた。ぐおおおお!! やべえめっちゃ痛え! 溶接やさんの事故ってこんな感じかしらってレベルのヤバさ!
「おっとすまんの。女神たるもの、着替えの際には謎の光が必要じゃから」
「くっ……女神の肌を見ると目が潰れるというのはこういうことか……あ、回復どうも」
「まあ私怨があって光量をあげたところはあるがの。回復してやったのだから許せ」
「こらー!」
あ……こういうやり取り懐かしいな。ちょっと元気出てきた。
「ふふ、それは何よりじゃ……じゃなくての!」
「はい!」
「今日わざわざ我がここに来たのはお主と遊ぶためでも、新刊を強請るためでも、ファンネル依頼でも無い。クレームじゃ! お主にクレームを入れに来たんじゃ」
「色々と言ってることがひどいんですが、クレームとな? アマテラさんに怒られるようなことってパンくらいしかしないと思うんですけど」
「ああ、ある意味わんこも関わっとるんじゃが……今やお主も他人事ではないんじゃぞ? まあ、見たほうがはやいの。お主の部屋に行くぞ!」
「え、ちょ、今うち母親が居ますし、その、女の子とか連れて帰ったらなんて言われるか……」
着替えたアマテラさんは暖色系の冬服で揃えた清楚系美人といった姿になっていて、年の頃は俺より少し若いくらいに見えるだろうか。そんなアマテラさんを連れて帰ったら母親がどんな顔で冷やかしてくるかわかったもんじゃない。
「安心せい。我は神じゃ。お主以外に姿が見えぬようにする事など容易いわ」
「そうでした。じゃあ、案内しますね」
「いや、お主の部屋は知っとる。ここ2年、たまにみてたしの。うむ、このまま転移するぞ」
「え、ちょ! 今すげえひどいことを聞いた……って俺の部屋だ……ああ、ああ! ちょっと! 靴はいたままじゃないっすか!」
「あ、ごめん……それは普通にごめん」
……ちょいちょい言葉がブレるな。無理してませんか?
「そんなことはない。ああ、グダグダして無駄に文字数増えるのもアレじゃから淡々と行くぞ?」
「メタい事まで言い出したな!?」
なんだか久々の空気感にとっても楽しいんですけれども、女神様ってどいつもこいつもこんな感じなんですかね? 疲れるんだけどこう、実家のような安心感がありますよね。
「ええとの……この辺りだと……思うのだが……」
アマテラさんが何か俺の部屋を漁りだす。ヘイヘーイ! 勘弁してくれよなー! 男の子の部屋には夢がいっぱい詰まってるんだぜー!? 迂闊なところを漁られたら……まあ、今やデジタルの時代ですからね。本棚の薄い本以外はあらかたPCの中に……って、アマテラさん?
アマテラさんが漁り始めたのは、どう考えても手が入りそうもない本棚の裏。そりゃまあ、何かかくしてありそうだけど、物理的に手が入りやしませんぜ。
なのに、神様だからですかね、色々と無視をしてずっぽり手を突っ込んだと思ったら、そのスペースに収まらないであろう大きさの、何やら大きな玉のような物を取り出しました。
「うむ、やはりここだったの」
「一体今どこから……っていうかその玉は……? 俺そんなの知らないんですけど」
「知らない……か。確かにそこにこれがあるとは思わんだろうが、お主はこれを見たことはあるはずだぞ」
見たことが……ある?
そう言われてアマテラさんの手の中で桃色に輝く玉を見ると……ううん? ……あれ、これってまさか、いやでも、ええーーー?
「まさかこれ、ダンジョン……コアですか……?」
「そうだ! ダンジョンコアだ! この世界にあってはならないダンジョンコアだ! どうだ! 我が趣味をほっぽりだしてすっ飛んできた理由がわかるだろうが!」
「確かに……ファンタジーが滅したこの地球にあってはいけない存在ですよね」
「滅したって……まだ地球だってそこまで……まあいい。あってはいけない存在、それはそうなんだが、ダンジョンコアが発生しただけであれば、ここまで慌てて飛んでくることはなかった」
「というと?」
アマテラさんはコアを俺に手渡し、非常にめんどくさそうな顔で驚くべきことを言った。
「そのコアは生まれたばかりだが、すでに自我が芽生えつつあり、すでにこの部屋をダンジョン化させはじめている」
「うわ、まじですか」
「それだけであれば、お主に迷惑がかかるだけなので、我は静観しておったのだが」
「さりげにひどいな!」
「そのダンジョンコアの所属がのう……わんこの世界、リプラシルと地球にまたがっているのが問題なんじゃ」
「えっ」
一体何を言っているのだろう。地球なのはわかる。リプラシル……だと? ええと、ダンジョンコアが発生する条件、それは神気に当てられた魔力がどうのこうのでって感じで……くっそうろ覚えだ。
リプラシル由来の神気?……まさかパンが来てるわけもあるまいし、そんなものこの部屋に……あっ
「うむ、わんこのパンツじゃな」
「ご存知でしたか……」
「ああ、別にお主を変態呼ばわりせぬぞ。ブーケのいたずらじゃろ? わかっておる」
「アマテラさあん!」
アマテラさん、マジ話がわかる。流石俺らの神様だ! 一生ついていこう!
「ふふ、よせ照れる」
しかし、神気の出どころは解ったが、魔力はどうしたんだ? ストレージ機能が使えない今、あっちの世界のものは一切取り出せないし、こっちでも体に残ってるかどうかは別として放出するようなまねをした覚えは……あっ
「マルリさんから貰ったカイロか……」
「……そうじゃな。お主が大切そうに首から下げている魔石じゃよ。それ一つくらいの魔力、どうということはなかろうと、なにやら大切そうな贈り物のようだしとで持ち込みを許しておったが……まさかわんこのパンツに作用をしてこんな悪さをするとはのう」
そして忘れかけていたが、亜神と化している俺からも神気とやらがにじみでてしまっているのだろう。
地球の亜神である俺とリプラシルの女神パンのパンツの神気、そして魔石から発せられた魔力があわさって最強に……じゃなくって、ダンジョンコアを作ってしまったわけか。
「ええと……きっとこのままだとこの部屋に魔物がわいちゃいますよね? どうしましょ」
「事の重大さに気づいたようだの。そこで、苦肉の策じゃが我にいい考えがある」
「爆発したりしませんよね?」
「お主は一体何を考えとるんじゃ!?」
そしてアマテラさんはふわりと笑い、俺に一つのオーダーを出すのだったが、それはとても驚くべきことだったのでありました。
ユウ「つうかアマテラさん、マジでアイツラとつるんでたんですね」
アマ「うん? ああ、わんことブーケか。うむ、趣味仲間じゃ」
ユウ「趣味って言うと……俺とある意味同類のアレですな」
アマ「うむ。文化を知るには良いものだからの」
ユウ「ある意味日本の神らしいと言えますな」
アマ「それでの、主に頼みがある」
ユウ「あれあれ、それって次回のネタバレになりませんか?」
アマ「平気じゃろ。 何、後でリクに答えた一冊を作ってもらうだけだ」
ユウ「うっわ、なにげにすげえ頼みが来たな」
アマ「神が個人の解決のために動いてるんだぞ? 安いくらいだろうに」
ユウ「そうでした! 全身全霊をかけてやらせていただきます!」
アマ「言うたな?」
ユウ「あ! 生物だけは勘弁して下さい! 地雷といいますか、書いてて辛いので!」
アマ「安心せい。我が頼みたいのはな……この乙女ゲーの攻略対象のこれと……」
ユウ(あっ これめっちゃ時間かかるやつ)
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14時にもう一本投稿されます。




