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幼き世界に調律を  作者: 未白ひつじ
最終章
574/577

第五百七十一話 ユウ、帰る。

 さて、本日は11月25日。2年間という長いようで短い任期を終え、俺があちらの世界に、元いた地球に帰る日です。


 面倒だったり怠かったりすることもありましたが、今となってはどれもが良い思い出です。


 今俺が居るのは昨日までと同様に塩のダンジョン最奥部、魔王国は魔王城の敷地内に設けられたフェス特別会場。本日は最終日と言うことで、1日目、2日目に出演したアイドル達が全員登場するとあって、それぞれのファン達が朝から凄い勢いでテンションを上げていました。


 ……いやあ、芸能という物が存在しない世界にいきなりアイドル文化を持ち込んだのはマジで軽率だったのかもしれない。もっとこう、ライトな物からゆっくりと持ち込むべきだったか……なんてこの世界の発展についてあれやこれや頭を悩ませるのはもうおしまいだったな。


 後は野となれ山となれ……なんて無責任な事を言うつもりはもちろんないけどさ、間もなく帰っちまう俺にはもう考える資格なんてものはないわけじゃん。アイドルに限らず、何かとちょっとやっちまった感あるけれど、どうかこの世界のみんなで後は上手いことやってくれ。それが出来るように根回しはしたつもりだしね。


 既にフェスの演目は始まっているため、会場は多くの来客者でごったがえしているわけで。


 なんというか、今ひとつそこに飛び込むテンションになれなかったので、会場と入れ替わりに人がまばらになった屋台スペースでのんびりと飲み食いをしているのが今のわたくし、ユウでございます。


 わーっと盛り上がった気分のまま帰ろうと思ったけど、やっぱ無理でしたわ。


 適当に屋台で買った串焼きとエール。異世界といえばコレだろセットで一人寂しくちびりちびりと、遠く聞こえるアイドルたちの歌を聞きながらやっていますと……小さな人影が。


「む、こんな所におったのか。ユウ、さがしたぞ」


 このちっこくて罪のない可愛らしい声は……マルリさんだ。


「おや、マルリさんじゃ無いか。というかマルリさんも来てたんだな」

「うむ。というかじゃな、わしにアイドルになれとうるさい連中がおっての……断り続けていたんじゃが、せめてフェスに行こうと連れてこられたんじゃ」


 アイドルは若女将……なるほど、言葉として据わりが良いな。若いかどうかはまあ、見た目が若いからいいじゃないかってことで。


「一昨日はすまなかったの。どうしても抜けられない仕事があってのう。せっかく呼んでくれたのに」

「ああ、俺のお別れ会ですか。しょうが無いさ。また次の機会にでも――」

「……そう、じゃな。また次の機会は必ず有るんじゃ。ふふ、ならばわしはうんと頑張って長生きせんといかんの」

「マルリさん……気づいてたんですか」

「そりゃあの。ここ最近のお主は何か急ぐようにあちらこちらを巡っていたみたいじゃしの」


 なるほど……マルリさん、こう見えて勘が良いところがあるからな。それに彼女も俺の秘密を知る数少ない存在だ。それとなくもうすぐ俺が帰ると気づいて、このイベント最終日がその日だと察したんだろうな。


「そうじゃ。これを渡したかったんじゃ」


 ワンピースのぽっけに手を入れて、何やらゴソゴソやっていたマルリさんが何か小さな袋を手渡してくれた。


「これは?」

「いつも美味いものを食わせて貰ってるお礼じゃよ。こんな物しか作れんが、どうかわしの代わりと思って大事にしとくれ」


 マルリさんから手渡された綺麗な装飾がされた布袋を開いてみると、中に入っていたのは若干の熱を発する熱魔石だった。袋ごと首から下げて使うこれはいわゆるカイロで、袋はラッピングではなくて熱から肌を護るカバーらしい。マルリさんが言う所によると、ヒゲミミの住民達が外に狩りに行く際に使ってる道具なんだって。


「マルリさん……ありがとう。あっちは寒いからね、助かるよ。大切に使わせてもらうね」

「そうかそうか。役に立つようでうれしいわい」


 嬉しげに微笑むマルリさん。ついつい手が勝手に動いて頭をなでてしまったが、マルリさんは嫌がらずニコニコと笑みを浮かべているので許してほしい。


 しばしの間二人でお酒を飲みながらちょっとした思い出話に花を咲かせた。マルリさんは大切な友達であると同時に、変な話だが娘のような感じでもある。それはまあ、完全にその見た目のせいなんだけど……嬉しそうに俺が作ったご飯を食べるマルリさんは、おばあちゃんってより普通の少女にしか見えんからな。


「わしはの、ユウが作るカレーが一番の好物なんじゃ。もう二度と食べられないとは言わせんぞ」


「ああ、もちろんだ。少し間が開いちゃうけれど、次戻ったらもうずっと食べさせてあげるからね」


「ふふ、嬉しいはなしじゃのう」


 ……と、ルフィファーの挨拶が始まってしまった。どうやらそろそろ俺の出番が近いようだ。


「ごめん、マルリさん。どうやら時間のようだ」

「そうか。もうか……うむ、どうか身体に気をつけてな。また元気な顔で帰ってくるのをまっとるよ」

「ああ、マルリさんも……元気でね!」


 一足先にマルリさんに別れを告げ、急ぎバックステージに。各地のアイドル達の出番が一通り終わり、現在トリのルフィファーが熱演をしているところです。


 しかしルーちゃんも大分変わったというか、なんというか。塩のダンジョンコア……いや、光のダンジョンコアであり、全てのダンジョンを統べる存在であるルーちゃん。


 この世界で最後に生まれた無垢なダンジョンコア……ああいや、フィーちゃんが居たか……っと、油断するとグダるな!


 フィーちゃんは置いといて。


 この世界で初めて会った無垢なダンジョンコアはとっても可愛らしい俺とパンの娘だ。勿論、ほかの娘達も同様に、比べられないほどに等しくかわいく思っているけれど、それでもやっぱり誕生から間もない姿から育てたルーちゃんは別格なんだ。


 ……フィーちゃんは置いといて。


 どんな子に育つのだろうと思っていたけれど、魔物とお友達になれる能力を最大限に生かし、こんなにも立派なダンジョンを作り上げてくれた。


 そしてフィーちゃんと共にこんなにも素敵な場を用意して、俺に最後の大仕事をさせてくれるんだからほんと最高の娘だよ。


『ユウ? そろそろ呼ぶけど準備は良い?』

『ユーちん、会場あっためといたよ!』


『ああ、バッチリだ!』


 ルーちゃん達から念話が届く。いよいよその時が来てしまった。


 ステージからルーちゃん達の声が聞こえてくる。


「はーい、みんな今日はほんとうにありがとー!」

「ありがとーだよー!」


「「「「ワアアアアア」」」」」


「来年もまたフェスをやるけどねー、今回は特別ゲストがきているんだー」

「ねー! じゃあ、呼ぶよー せーの」


「「ユーウちーん!」」


 二人からユウちんと呼ばれ、なんだか照れながらステージに出て行くと『なんだユウさんじゃねえか』『ああ、あれが噂の』『ユウだ』『うけるユウさんがなんで特別ゲストなんだよ』などの言葉が耳に届きます。


「ああ、そうだよ! ユウさんだ! 悪いか!」


「「「「どっ」」」」


 何でここで笑うんだよ……まあいいや。


「知っている人はこんにちは、はじめましての人にゃはじめましてだ。俺はユウ。あちらこちらで色々やらかして歩いた男だ!」


「知ってるぞー!」

「温泉を作ったって聞いたぞ」

「ダンジョンもなー!」

「アイドルの名誉プロデューサーらしいぞ」

「つうか、ルフィファーのお父さんだってさ」

「まじか! おとうさーん!」

「「「「おとうさーん!」」」」


「おめえらにゃお義父さんって呼ばせねえ!」


「「「「どっ」」」」


 ああもう、まったく。いっこも話が進まねえ。でも、笑顔に包まれているこの会場、いいじゃないか。舞台の袖を見るとパンや娘達、何故かブーちゃんまで揃って俺の様子を見ている。


「俺はあっちこっちを回って、もっと便利に楽しく暮らせるようにしてきたつもりだが、どうだ? 過ごしやすくなっただろー?」


「そうだな!」

「もう昔の事なんて思い出せねえや」

「はじめっからこんな感じだった気すらするよな」

「今の生活、最高だぜー!」


 ああ、なんかこのやりとり、妙に懐かしいな。肉の人って呼ばれていたのを思い出したじゃないか。


「これからもこの世界はもっと便利に面白くなっていくと思うけど、俺はもうそれを手伝うことはできない」


「「「「なんでー?」」」」


「俺はアイドルじゃねえからそういうのいらねえ!」


「「「「どっ」」」」


 妙にノリが良い連中だよほんと。


「実を言うと、俺はここ、リプラシルの外から来たんだ」


「知ってたわ」

「何を今更」

「な。どや顔で言うことじゃないって」


 ええ……? 思ってた流れと違う。ここはもっとこう、ええー!? とか、じゃあどこから? とか、外ってなんだ? とかさあ、そういう感じじゃないの?


「えっ……そうなの? あれ? みんな俺が外から来た奴だって気づいてたの?」


「そりゃそうよ。誰も思いつかないことやっちゃうしさ」

「広いリプラシルを探せばそういう街があるかもって思ってたけどさあ……」

「ゲートであちこち回ると、どの街でもユウさんの名前が聞こえてくるんだよ」

「そしたらわかるよね。全部ユウさんから始まったことなんだって」

「そんな凄い事出来るなら、きっと余所から来たんだろうって今の俺らならわかるんだよ」


 今の……か。前も言ったけれど、この世界の連中はやたらと基礎ステータスが高い。ゲームで言えば、LV50相当のステータスを持っているのにプレイヤーに知識が無く、上手くキャラクターを扱えない上にスキルポイントも一切振らずに放置している、そんな状態だったわけだ。


 そこに俺が現れてあれやこれや引っかき回した結果、ぐんぐんと知識や技術を吸収し、一気に賢くなったというか、知恵がついちまったわけで。


 これまで「そとのせかい? ああ、森とかかなあ?」ってレベルだった連中が「なるほど、このリプラシルは四方を海に隔たれた大陸だと聞きます。つまりは海の向こうのまだ見ぬ別大陸!」くらいには考えられるようになっているわけです。


「はは。そうだな。お前らはもう自分たちで何でも出来ちまう可能性を手に入れたんだ。だからもう、俺のお手伝いはおしまいだ」


「ええー!」

「なんだよ、もう面白いのつくってくれねーのか?」


「ああ。俺の出番はもう終わりだ。何も意地悪でいってるんじゃねえぞ。俺の仕事は楽しく過ごせる下準備までだ。もうお前らだけで新しい物を作れるようになった、俺と一緒にやってきた準備期間は終わりだってことさ」


「自分たちで……か」

「言われてみれば、ユウさん抜きで新しい魔導具なんかを開発してる連中いるもんな」

「アイドルだってあちこっちで生まれてるし」

「そうだよな! 俺たちだって色々生み出せるんだ!」


 そうさ。お前らは、この世界の住民たちはもう停滞した流れから脱したんだ。これからは流れる水の中を自らの力で泳ぎ、新たな場所を目指して進むことが出来るんだ。


 だから……


「というわけで、俺、今日でもう帰るわ。リプラシルの外にあるおうちに帰る!」


「「「「えええええ???」」」」


「帰る、つってもずっとじゃねえ。またいつか、必ず戻ってくる。だからさ、俺が次に来る時まで、このリプラシルをもっともっとおもしれえもんにしといてくれよな!」


「まったくいきなりなんだよな! ユウさんはよ!」

「そういやこの人いっつもいきなりなんかするんだよな」

「確かに。まあ、それがユウさんか」

「寂しくなるけど、みんなでユウさんをびっくりさせるよう頑張るか」

「そうだな!」


 袖をちらりと見て、パンと目を合わせ小さく頷く。昨夜のうちに全て打ち合わせを済ませておいた。別れももう済んでいる。心の準備はちょっぴり済んでいないかな? って感じだけど、この流れだ。もう止められないさ。


「つーわけで、みんな! 元気でな! じゃあ、行ってくる!」


「おう! 行って来い!」

「ユウさん、次来たとき土産代わりにまたやらかしてくれや!」

「俺達のやらかしと交換だ!」

「じゃあなー!ユウさん!」


 様々な言葉が耳に届く。フェス会場の外れ、屋台エリアの片隅に大きな光が見える。あれはきっとカズの光だ。俺と共に送還術の光に包まれているカズの光。


「うおおお!? ユウさんが光ってるぞ!?」

「俺知ってるぞ、あれゲートの光じゃんよ」

「すげーな! ユウさんともなれば単体で転移できんのか」

「じゃあなー! ユウさん! 待ってるからなー!」


 会場からの声がやまない。その声の殆どが野太くて、黄色い声が少ないのは……まあ良いことにしよう。


 ……光がだんだんと強くなっていく。


 ああ、眩しくて白くてもう目を開けてられないや。


 ……会場の声がだんだんと遠のいていく。転送が始まったんだな……。


 「ユウー! またねー!」「父上ーーー!また会う暇でお元気でー!」

「おとうー!待ってるよー」 「父さーん!私頑張るから……」「お父さん体に気を……」「お父様どうか……」「ユウチンおみや……」


 「ユウのバーーーーーーカ……」


 ……

 …


 楽しかったなあ……


 ああ、ほんとうに……


 良い世界だった……


 ……


 また、いつか……


 …あの幼き世界に……


 …


 光が徐々に薄れ、まだしょぼしょぼする目をこすってなんとか視力を取り戻せば、ここは懐かしき竹林、ああ、戻ってきた、たしかに俺は戻ってきてしまったんだな……。


 ……ただし、俺の右手には空っぽになったリードが握られているだけで、愛らしくもちょっぴり臭い相棒の姿はそこにはない。そりゃそうだ。奴はリプラシルで家族とよろしくやってるはずだからな。


 ポケットからスマホを取り出してみれば『2017年11月25日午前10時37分』としっかり表示されている。ああ、ソシャゲもバッチリ動いてやがる……代わりにパンさんアプリは……姿も形もねえやって当たり前か。ここは魔術どころか魔力なんてもんが存在しない世界だからな。


 ここに降り立った時点で俺の契約はおしまい。仕事道具ともお別れってわけだ。


 と、なんだかぼんやりとスマホを見つめて立ち尽くしていると、すげえ勢いで着信音が鳴り響く。めちゃくちゃボーッとしてたもんだからびっくりして落としてしまったわ。


 一体何だよ……と、慌てて拾って画面を見れば『カズの家』と表示されている。


 そうか、そうだよな。あいつも……このタイミングでかけてくるならやっぱカズしかいねえわな。


「……あいよ。ユウさんだぞ」

「……ゆうでゃーん……おで、おでえ……かえっでぎじゃっだんでずねえ……!」

「……ああ。俺もお前も帰って……来ちゃったんだよなあ」

「覚悟を決めてかっごいいこといっでだけどお……やっぱざみしいっすねえ……」

「そうだな……そういや、最後お前が屋台の辺りで光ってるのが見えたけど、あの時お前何を」

「あのどぎい? そりゃあ、ナギサざんど…… あ、う、なんも、ナギサざんどはなんも、ああ、ぞうだ仕事にいかなきゃ! じゃ!」

「おい! お前こっちじゃまだニートだろ! おい! あ! 切りやがった!」


 どうやらカズも無事に戻ってこれたようだが……ナギサちゃんと一体何があったってんだよ。くっそ、くっそ! なんだか知らんがとにかく破裂しろ!


 カズとの通話でぼんやりとしていた頭が少しスッキリすると、途端に冬の寒さが牙をむく。くっ、一人でいるためか、冬の風がやたらと肌に刺さるわ……。

 

 さっそくマルリさんのくれたカイロ……役立つね。

 リプラシルと変わらず優しく暖かい魔石を握り、手と心を温めながら懐かしき地球の我が家に……


 久々の帰宅といきますかね……はあ。

ユウ「はあ、帰ってきちゃったんだなあ」

ユウ「なんだろうな、久々のソシャゲは楽しいし、SNSに書き込める嬉しさはあるけどなんだろうな」

ユウ「駄女神! ぽんこつ!」

ユウ「……」

ユウ「ゴリラ! ゴリラ!」

ユウ「……」

ユウ「……やっぱ寂しいや……」


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まだちょっと続きますよ。続きは本日13時に投稿されます。

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