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幼き世界に調律を  作者: 未白ひつじ
最終章
573/577

第五百七十話 ユウ、残された時間を過ごす

 方々を駆け巡り、お世話になった……もとい、お世話をしてやった連中に挨拶をってな感じで今月は忙しく動き回っていたわけですが、それも昨日で終わりです。今朝はゆっくりと庭でコーヒーを飲むところからスタートです。


 そう、わたくしユウは本日から始まるフェスが終りを迎える11月25日、カズと共に日本に帰ります。フェスがあるからってのもあるけれど、もうゆっくりしてられる時間は今くらいのものですからね。


 しかし庭から見える景色もだいぶ様変わりしました。


 来た当初は何も無い野原だったのに、今では交易場を始めとして宿屋と言う名のホテルや商人ギルド等立派な建物が立ち並び、レンガが敷き詰められた道沿いには商人たちが店を出すテントがずらりと並べられています。


 今の時間はまだ人もまばらですが、あと1時間もすればガヤガヤとにぎやかになることでしょう。この世界はここを中心に今後もどんどん発展を遂げていくことと思います。次に俺がここに来られるのはいつになるかはわかりませんが、どうなっているか少し楽しみですね。


 ……子供たちや長命種の連中は別として、多分普通の寿命だろうキンタ達とはもう会えないだろうと思うとちょっぴりさみしく思うんだよな。

 

 でも、カズを返した時点であちらの時間は再始動するわけで。そうすりゃ地球での俺はたちまち行方不明になっちまって、家族や職場等関係各所にどえらい迷惑がかかっちまうわけで。


 それを考えると『帰らない』とは言えないからな……まあしゃーない!


 おっと。どうやら子供たちが目覚めたようですね。 今日はフェス初日だから皆早起きだ。俺は子供たちからフェスの手伝いを禁じられているため、気軽なもん……なんだけど、手持ち無沙汰で逆に困るんだよな。


『ユウはもうお仕事終わったんだからゆっくりしてて!』


 なんてルーちゃんに言われた時は複雑な気分だったぜ。そこまでワーカーホリックってわけじゃあないんだけど、なんかこう、寂しい感じがしちゃったんだよな。


 はあ、しゃーない。フェスは完全にお客様として楽しませてもらうとしますかね。


 ◆◇◆


 ふう……! アイドル回を少し前にやったばかりだったから新鮮味がないかと思ったけれど、今回は今回で中々に良かったぜ……新たなアイドルユニットが参戦した事で前回以上の盛り上がりがあったと言えよう……うん? ああ、そうだよ。カットだよ! カット!


 どうせ明日明後日もフェスは続くんだから1日目はカット! カットして夕方に飛ばしたんです!


 てなわけで雑に夕方です。フェスにゃ出演者にも客にも未成年が混じっていますからね。そこは健全に17時にはおしまいです。


 フェス会場であるダンジョン最奥に設けられた臨時キャンプ場でテントを借りて一夜を明かすか、ウサ族の里まで降りて泊まるか、はたまた家まで帰るか。


 フェスのお客さんには好きなようにしてもらうことにしたらしいんですが、大体の人が現地での宿泊を選んだみたいです。めったに入れる場所じゃあありませんからね。ダンジョン最奥部ですよ。 しかも天国の様に美しい場所ときたらまあ、帰りませんわな。


 スタッフであるうちの子達は家に帰るとのことだったので、俺もそれに合わせて帰宅……しようとしたんですが、なんと亀に捕まってしまいました。 しかもめんどくせえことにアルコール注入済みですわ。見た目少女なのにこれは不健全ですね。


「なんじゃー! ユウ! お前は帰るというのかー!」

「うっわ、ウザ絡みやめてくれませんか?」

「うう……ユウが心の壁を展開してるのじゃ……侵食してやるのじゃー!バリバリー」

「やめてー! って、いやほんとマジで帰るところなんだけど……」

「まあの。お前は帰れるからの。帰れないわしの事はもう忘れてしまうんじゃろうな」

「……何いってんだ?」


 なんだか亀の様子がおかしいですね。これはもしかしてバレてしまったのでは。

 ……亀には日本に帰るんだと言いにくくて、言えなかったままなんですよね……。


「ナベゾコにゃ転移門(ゲート)がないんじゃもん。お前みたいに気軽に帰れないんじゃい!」

「ああ、そういう……まあさ、逆に考えようぜ。ここってめったに来れないところらしいしさ。今日はたっぷり楽しんで?」

「ふん! 言われなくともそうするわい! ユウなんかさっさと家族の元に帰ってしまえばいいんじゃ! ばーーーか!」

 

 こっちだって言われなくともそうさせてもらうわい! 可愛い子供たちが待つあったかいおうちに帰っちゃる!


 ……って、流石にわかるわい。亀め、俺が言えなかったこと、日本に帰っちまうことに完全に気づいてやがるな。家族ってのはルーちゃん達じゃあなくて地球に居る両親たちの事だろ。


 異世界転移と言う名の拐かしを受けた俺やカズは別に死んじまったわけじゃあないので、約束通り地球に帰ることが出来るけど、地球でもう生を終わらせた亀は帰ることが叶わないからな……。

 

 例え、何かの奇跡が起きて日本に()()()としても、向こうに行くのは亀五郎ではなく、蓮華ちゃんだ。亀五郎の家族はまだ存命だろうが、向こうに蓮華ちゃんの家族など居ない。蓮華ちゃんとなった亀に帰る場所はない……。


 だからなんかこう、何か罪悪感のようなものを感じてギリギリまで内緒にしておくつもりだったけど、それってやっぱり水臭いよな……ゴメンな、亀。


「わりい、亀。俺さ、フェスの最終日に地球に帰るんだ」


「気づいておったわい。ユウの何百倍長生きしてると思っとるんじゃ、ばかたれ」


「……だよな。いやほんと、なんか言い出せなくてよ。マブダチの亀に言わねえってのはやっぱクソだったよな……」


「はん。未練が無いと言ったら嘘じゃないがの、今じゃそれなりに割り切って蓮華ちゃんとして面白おかしく生きさせて貰っとるんじゃ。ユウみたいなヒヨッコに心配されるほどヤワじゃないわい」


「そうか……そうだよな。わりい、亀。俺、勝手に気を遣ってやっちゃいけないことするとこだったわ」


「わかったならいいわい。どうせまたあっちで死んだら戻ってくるんじゃろう?」


「ああ、そういう事になっている。亀は長生きだから再会できるだろ? そん時までこっちのゲーム業界の事は任せたからな」


「任せてお……いや……またあの日々のように缶詰にされるのは……いやじゃ……」


「……もうそんな事には……ならんはずだから……」


 そして亀ともう少しだけ話し込み、握手を交わす。だよな、俺と亀はこういう関係なんだ。変に遠慮したり、水臭い真似をするようなケチな間柄じゃない。腹を割って話せる良い友、それが亀なんだ。


「のう、一つだけマブダチとしてわしの願いを聞いてくれんかの」


「なんだ? エッチなのはだめですよ!」


「誰がお前にそんな真似するか! 気色悪い!」


「えへへ」


「日本に帰ったらわしの墓参りをして欲しいんじゃ」


「……なんだか変な気分になりそうだが、いいぜそんくらい」


「すまんの。いやあ、蓮華ちゃんとしてバトバス(エロゲ)を遊ぶことが出来てあちらで作った未練が消え去ったが、あちらに眠る亀五郎の体はバトバスと出会えぬままじゃろうからの?」


「うん?」


「じゃから、わしの墓前にバトバスを備えて欲しいんじゃ。亀五郎にもバトバスを持たしてやりたいんじゃよ」


「……えぇ……それ人に見られたらめっちゃ悪戯だと思われるやつじゃないか……やだよ……」


「この流れは快諾する感じじゃろうに!」


「うるせえ! わざわざ他県にまでいってエロゲを墓に供えるってアホか!」


「アホとはなんじゃ! 仏さんが生前好きだったものを供えて何が悪い!」


 結局また言い合いになってしまった。でもこのじゃれ合い、この空気も俺は好きだ。

 ひとしきり亀とじゃれあい、渋々ながらもバトバスを供えることを承諾させられてしまった。首を縦に振った俺を見た亀は、もう満足したのか飽きたのか『じゃあの! バカタレ! ライブに来た女子と女子会するんじゃ!』と、ぴょんぴょんはねながら去っていってしまった。

 

 はあ、バトバスを供えるって何の罰ゲームだよ……畜生。


 ……まあいいさ。あちらに帰れる者として、それくらいは叶えてやるさ。


 ……だからさ、亀。お前ならきっと大丈夫だと信じているけど、俺が戻ってくるまで元気でいるんだぞ。 戻ってきた時、何年時が経っているのか。皆の寿命をきちんと知っているわけじゃないし、寿命の前に亡くなってしまう奴だっているんだろう。


 果たして俺が戻った時、何人の友と再会できるんだろうなあ……。


 急に一人になったせいか、いらん事を考えちゃってちょっぴり気が沈みかけた時、スマホから呼び出し音が。画面を見るとルーちゃんからでした。


「あ、ユウ? 何してるの? 皆もうお家に戻ってるよ! 早く帰ってきてよ!」

「ごめんごめん。亀に捕まっちまってさ! 今まだルーちゃん城の辺りにいるから……」

「もー! それじゃしばらくかかるでしょ!」

「うん……ごめんな」


「だから迎えに来たよ! さ、帰ろ!」


 スマホからではなく背後から聞こえるルーちゃんの声。 待ちきれなくなって直に迎えに来たようです。


「いやほんと、ルーちゃん達は転移使えるからいいよなあ」

「多分ユウも使えるようになってると思うよ?」

「そうかい? まあ、そりゃ次こっち来たときだな」

「うん……!」


 ルーちゃんと手をつなぎ、間もなく『じゃ、帰るよ』とルーちゃんが言った瞬間ふわりと足元が揺らぐ。軽いめまいの様な感覚に思わず目を閉じ、再び開けるとそこは見慣れた我が家の……中で……リビングで……テーブルの上にはたくさんの御馳走と、それを囲む子供たち……とクロベエ一家……とついでにパン。


「た、ただいま?」


「「「「おかえりー!」」」」


 子供たちから一斉にかけられるお帰りの言葉。一体この御馳走はなんなんだろう。フェス1日目のお疲れ会かな?


「違うよユウ」

「父上、これは私達からの贈り物です」

「おとうの為に皆でつくったんだよ」

「父さんが好きなものばかりだよ!」

「誰がどれを作ったかお父さんわかるかな?」

「ふふ、お父様を困らせないようにね?」

「エロゲーみたいだとか思ってるんでしょ? ユーちん!」


「フィーちゃんおばか! 明日は二日目でバタつくし、明後日はもうユウ帰っちゃうじゃん。だからユウのお疲れ会は今夜のうちにって皆で用意してたんだよ」

 

……ルーちゃん……みんな……。


「どうしたのよユウ。変な顔しちゃってさ」


「うるひゃい……ちょっと目から色々出ちゃってるだけだい! パンさんは空気読んで!」

「なっ!?」


 まったくやめてくれよな……こういうサプライズ……嬉しくないわけがないじゃんかあ……。もう、目からあれやこれやが止まらねえっつーんだい。


「びっくりだよね。俺も手伝ったんだぞ!ユウ!」

「コハルもお手伝いしたんだよ! ユウ!」

「私だって手伝ったんだからね! ユウ!」


「ああ、クロベエ達もありがとうな」

「ふふん。俺だってやる時はやるんだぞ。それにしばらくユウと会えなくなるからな!」


 ……そっか、クロベエはそう決めたんだな。


「やっぱりお前はこっちに残るんだな」

「うん。ユウとしばらく会えないのは寂しいけどさ、俺も長生きになったってパンから聞いたからね。ユウが来るまで家族と一緒にシガラキを立派にしてるぞ」


 国を作っちまった辺りから……いや、家族を作った辺りから覚悟はしていたんだ。ただまあ、やっぱこう、ちょっと寂しくなるよなあ。


 ……子供たちと暫く分かれる上にクロベエともか……全くほんと、帰るのが嫌になっちまう。


「へへ、全くお前らは俺に帰りたくないって言わせたくて仕方がないんだろ?」


「あったりまえじゃん! ユウと暫く会えないのは私だってやだよ!」

「そうですよ! 父上は何を言ってるんですか」


 娘たちから口々に叱られてしまった。見れば皆薄っすらと涙を浮かべて……くっ。


「ほらほら! だめよ! ユウは明後日脳天気な面でしれっと帰るんだから! 皆も笑顔で見送ってあげましょう?」


 パン……場を和ませようとしてるのか、俺を煽ろうとしてるのかわかんねえ……が、ここは便乗しておこう。


「そうだな。俺たち家族はちょっぴり特殊な体質だから、また皆元気な姿で再会出来るさ。ちょっぴり長い間……そうだな、いつものように旅に出るだけだと思ってさ、俺の帰りを待っててくれ」


「当たり前だよユーチン。お土産は新たな地球の物資でよろしく! かーちんがアマテラさん怒らせちゃったから、最近輸入がきびしーんだ」


 パン……今度はなにやったの……? あ、目を反らした。


「さーさ! みんなー? ユウくんの為に今日は盛り上がっていきましょー!」


「「げ、げえ! ブーちゃん!?」」


「うふふ♥ 夫婦揃ってハモるとか見せつけてくれちゃって♥」


「その呼称は我々に大ダメージだ! つうかブーちゃんいつの間に?」

「そ、そうよ! 最近見ないと思ってたのに!」


「うーん? 帰る日が近いから水入らずにしてあげよーって空気読んでたんだけどねー? ユウ君にご褒美を上げるの忘れてたなーって。はいこれ」


 ゴソゴソと胸元から……なんて場所から取り出してんだ!


「ほら、ぬくもりが残ってるうちに受け取って?」

「一体何やってんのよバカ!」


 ……若干生暖かい、ラッピングされた小さな箱を手渡されました。一体何なんだろう。


「あ、今ここで開けちゃ駄目よ? こういうのはアッチに帰ってから開けないとしらけちゃうじゃない?」


 ごもっとも。


「それに、ここで開けようとしても魔術的なロックが掛かってるから無理よ。あっちのお部屋で一人の時、寂しいなって思ったら開けなさいな。きっと貴方の役に立つことでしょうから……」


 そう俺に告げたブーちゃんの顔は……ブーちゃんではなく、女神ブーケニュール様と呼ぶにふさわしいような、慈愛溢れる神々しい表情でありました。


「そっかそっか。ありがとなブーちゃん。つうかさ、水臭いこと言うなよな。ブーちゃんだって俺は家族だと思ってんだぜ? 親戚のネーチャン枠だけどな!」


「もー! ユウ君はそうやってすぐ上げて落とすー! でもありがとね」


「ああ、よし! いい具合にグダグダになってきたな! やっぱり俺らはこうじゃなくっちゃ。明日も早いだろけど、俺のこの世界、最後のわがままだ! 今夜はギリギリまで楽しもうぜ!」


「「「「おー!」」」」


 しんみりしたり、笑ったり、ちょっとやっぱりしんみりしたり。少しだけ早めのお疲れ会で夜が更けていったのでありました……。

ユウ「はあ、こうして夜に湖面を見ながらコーヒーを飲めるのもあと僅かか」

パン「そうね……」

ユウ「ま、あっちが終わったらまた戻ってこれるんだけどな!」

パン「うん……私達の寿命を考えれば僅かな間の事だけどね……はあ……」

ユウ「どしたん。パンさんらしくもない」

パン「別にー? ただちょっとこう、今までより時間が経つのを遅く感じそうだなって」

ユウ「ふうん? ああ、これからはルーちゃん達もいるからな。ただ放置もできねーか」

パン「そういうことじゃ……ううん、そうなの。子供たちのためにも私は下に居ることが増えるしね」

ユウ「ま、今までサボった分がんばってくださいな」

パン「クッ……! まったくあんたって奴は! 次こっちきたら覚えてなさいよ!」

ユウ「爺さんになってるだろうからな! 痴呆で忘れてるかもしれん」

パン「ふふん! こっちに戻ってきたら今のあんたの年齢に戻るんだから!」

ユウ「クッ! いたせりつくせりかよ!」

パン「……だから、その日まできっちりあたしのこと、忘れないでよね!」

ユウ「パン……その、なにその……あっ、まだ最終話じゃないよ?」

パン「もー! そういうとこだぞ!」


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次話は11月25日更新で、時間差で4本に分けての更新となります。

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