第五十五話 森のダンジョンの奇跡
さて、今日は塩のダンジョン第2層、森の階層に来ています。
二度目なのでつつがなく召喚の儀も終わり、注意事項などを説明しまして、それと合わせてフロアマスター、ヒカリの紹介をいたしました。
ヒカリは主役ということで、女神出汁につけて綺麗に洗ったのですが、それが効いたのか、予めフロアマスターに任命したのが効いたのかわかりませんが、かなり知能が上昇しました。
「父様、クロベエ、今後とも俺…いや、私をよろしく頼むぞ!」と、挨拶されたときには未婚なのに息子に嫁が出来たかのような錯覚が起きましたが、まあそれはある程度想定内でした。
問題は……
「ユウ様、集落の完成予定ですが、明後日にはなんとか形にできるかと思います…!」
「あ、はい。よろしく」
こいつら、ウッサ・ロップ達である。
まず、こいつらは集落を作る習性があり、魔族寄り、というよりも亜人に近い修正を持つ種族だということで、特別扱いするわけではないけれども、ダンジョンのはずれに集落を作る許可を出したんだ。
簡単に整地をしてやって、基盤を作ってやり、一応族長決めようかって当初からクロベエや俺と話をしていた個体に「ジャック」という名前をやったところ、名前を持ったのが効いたのか、族長になったのが効いたのか、やや知識が向上してしまいました。これは私が原因と言っても過言でなないでしょう。
ただ、決定的だったのはパン、女神だ!俺じゃない。
「あ、この辺魔獣来なくて良さげだと思ったけど泉が無いわねー。ルーちゃん作っていい?」
と、軽い気持ちで女神権限を発動させ、ダンジョンコアの権限ではなく女神権限で泉を作ったアホがいまして、まあその、泉の水を飲んだ個体が著しく知恵をつけまして。
知恵がついただけなら良かったのですが、元々女神の加護が強いこのダンジョンでさらに加護がかかった泉、さらに言えば人のような営みをしていたウッサ・ロップ達という、変な偶然…条件が重なってしまいまして。
目の前にいるウッサ・ロップ達は俺が知っている癒し系ウザ動物ではなくなってしまったのです。
「おい!パン!どういうことだよ!なんですかこのお姉さんがたは!」
「……あ、もしもし?そう、あたしー、リパンニェルー。うん?え?ああ、大丈夫ーそれでねー」
「こらこら、電話してるふりすんな。どうせお前ら念話で事足りるだろうがよ!説明しなさい!」
「……クリスマスが生んだ奇跡?」
「もう終わったわー!」
といった感じで、我々が愛したウッサ・ロップは死に絶え、けもの度高めの亜人たちが誕生してしまったのでした。
もともと肉食魔獣に襲われ数を減らしていたため、全個体80体がこの森にやってきたそうで、沢山のウッサ・ロップ族達が集落を建てるべく働いています。
顔は今のところ似たり寄ったりだが、現状でも声や体つきから雄雌…男女と言った方がいいか。男女の区別はつく。
けもの寄りということで、体は毛で覆われているが、何となく目のやり場に困るので、後で服の作り方でも教えてやらないといけないな。
全く要らん仕事を増やしやがって。どうせそのうちさらなる進化を遂げてもっと人っぽくなって俺を悩ませるんだろ!いいぞもっとやれ!
「ユウ様、畑を作りたいのですがよろしいでしょうか?」
「あ、そういう許可は俺じゃなくてルーちゃんに聞いてくれ」
「ヒカリ様、良かったら私たちにも防衛の仕方を教えてくださいませんか?」
「あ?ああ、おれ…私が暇な時ならいいよ」
「ルー様、もし今後階層を広げる際には集落の拡張の相談をしてよろしいですか?」
「うん、いいよー。お友達増えたら広げてあげるね」
といった感じで、下手すりゃ集落の人たちより知的かもしれない。
そんで、ウサ族が何をしているのかというと、御覧のとおり集落を作っているわけです。
ウサ族は家を作る習性があるということで、元々住んでいた竪穴式住居の様なものを建造しようとしていたんだけど、軽い気持ちで、ほんと軽い気持ちで(本当の家ってやつを見せてやりますよ)と、俺の家の写真をスマホで見せてやったら大絶賛され…
「これは素晴らしい!あなたが神か」と煽てられ崇められ、「私たちにも作れるのでしょうか!」と目をキラキラさせながら口々に聞いてくるため、気のゆるみから
「おう、俺に任せろ!ついてこい!」
なんて言いつつ人数分の道具を作ってやり、簡単にログハウスの作り方を教えてしまいまして……(それは流石にググりました)
はじめは俺の適当な説明をフムフムと聞いていたウサギたちだったが、あっという間に建造法を覚えてしまい、俺が飽きて昼寝をしている間に数の暴力で小さな小屋を一軒くみ上げてしまっていた。今後はこれを参考に応用し、何軒か建てるということだ。
もしかしたら俺より賢くなってしまったのかもしれないな……。
「なあ…こうなったらこいつらウサ族も亜人として人間種同様の扱いをした方が良くないか?」
「そうね…ルーちゃんの契約と言ってもダンジョンで暮らすための登録みたいなものだし、将来的に外で集落を作りたいって言ったらそれはもちろん許可するし、何ならダンジョンに住む種族ってのでもアリね」
「こいつらの言葉ってもうルーちゃん抜きでも通じるんだろ?」
「うん、普通に人間族の言葉を話しているわね。その点からすれば魔族もそうなんだけど、やや毛深い点を除けば人間族にかなり近いから人間族の新種という扱いでいいわね」
まさに神のいたずらで生まれた生命といった感じでとても罪深い一族となってしまった。
よし、これも神の思し召し、っていうか女神のやらかしだが、最初の一歩としての駒がそろった。
「なあ、パンよ。このダンジョンの仕様をちょっと変えてほしいんだけど相談に乗ってくれるかな…」
一応パンの耳に顔を寄せ、ヒソヒソと説明をする。ウサ族の連中には聞こえてそうな気がするが、まあ聞かれたところで困る話でも無い。
「なになに…ええ?出来るけど……。ああ、なるほどね…ルーちゃん、ちょっときて」
「うん、うん、ええー?面白そう!ユウ!やろうよ!きっとみんな喜ぶよ!」
ダンジョンがダンジョンとして活躍する準備が整った。
しかしその前にやることは盛りだくさんだ。ルーちゃんにダンジョン内放送をしてもらい住人達へ通達をして貰ったので俺たちが居ない間に用意は済んでいることだろう。
「よし、じゃあそろそろ集落の仕事にケリつけにいくかー」
一つの大きな山場に向けて停滞していた世界がようやく動き出そうとしていた。