第五百六十五話 さっくりと精霊樹
なんつうか、世界にはまだまだ不思議があふれてる感が凄いんですけれども、いちいちかまってられませんよ。 そんなの今後この世界に爆誕する探検隊とか学者さんとかが調べりゃ良いんですよ。俺はあくまで文化の伝道者。
『まだ見ぬ土地がある!? ええい! 剣をもてい! 新たな冒険に旅立ちじゃあ!』
なんて冒険系主人公じゃあありませんからね。結果としてそれに近いことをしていただけで、わざわざ好き好んで冒険をしていたわけじゃ……いやまあ、そう言う日々もありましたけど、ヒゲミミの地下とか手を出しちゃいけませんって!
てなわけで、何も聞かなかったことにしたいユウですけれども。
今日はそんなヒゲミミのもう一つの顔、精霊樹の里にやってきていまーす。ここはなにげに思い出が多い場所ですよね。なんたってあのカズ君をがっつり身も心も鍛え上げた由緒ある更生施設!
いやあ、カズのあれやこれやで色々と見直して再整備した冒険者育成コースなんだけど、結構役に立ってるみたいなんだよね。
ここって1階層を突破した連中が来れるようになるでしょう? 1階層だけとはいえ、ダンジョンマスターに認められた冒険者達は調子こくわけですわ。
今の俺はつよい! まわりが雑魚に見えるぜ! これなら噂の精霊樹で稼げるぜ!
そうやってやってきた冒険者共はボロカスにやられるわけですが、お行儀が悪い連中やアホな奴は我が身の未熟さに気づかず、周りのせいにして暴れたりしちゃうわけです。
そうやって暴れてる奴は里のガーディアンによって捕獲され、強制的に冒険者育成施設のデスレインコースにぶち込まれるわけです。うん、カズが入ったあれね。
そうやって二人の講師達によって育成された冒険者は、まるで生まれ変わったかのような姿で現れ、冒険者達の模範になるような素晴らしい人物になるそうですよ。
……こええ。
まあ、そう言うケースは稀なんですよ。殆どは普通に自ら志願して、ギルドから派遣された講師役の冒険者と共にダンジョンでの実戦訓練をしたり、ギルド2階の講習室で勉強をしたりと、さらなる高みを目指して自分磨きに励んでいるそうな。
「というわけで、最近どう?」
「フリが雑ですわよね、お父様」
困ったように笑うのはこの地を治める大精霊こと、フリーシア。雑だって笑ってるけど、質問のしようがないんだよなあ。
「いやほら、里がどう変化したとか、何があったとかそういうの」
「うーん。ここはナベゾコやクロベエちゃんの国と同様にあまり外観を変えられないので、見た目的な変化はありませんね……あっ」
「あ?」
「いえ、その……ここのガーディアン達の中でですね……その、アイドル活動が流行ってて……」
「うん?」
「あの、なんでもその、アイドリングバトルを見に行ったガーディアンが居たようで……『あの気高き姿! 大精霊様の様だった! あれこそ我らが目指す森の民!』と、大興奮で触れ回って……」
「ああ……奴らとここの連中、中身だけは丸かぶりだしな……そしてゾネスの見た目はフリーシアと似てるときたもんだ。ハマるわけだよ」
そしてまずいことに、見に来れなかった連中用に後から各街で数回ずつ、録画映像の上映会をしたみたいで……それは勿論この里でも行われて……。
「里からもアイドルを出そうと言う動きが活発……といいますか、月末のフェスに向けて色々と用意して居るみたいですわ」
「ああ、ルーちゃんのあれな。三日くらいやるって話だから人数多い方が助かるだろうし、それはいいけど……まさかこんな所でもアイドルブームが来てるなんてなあ」
「お父様がおっしゃるとおり、ゾネスの方々と気性がよく似てらっしゃいますからね。ステージに立って歌い、ライバルと競うというのが何か琴線に触れたのでしょうね」
なんともはや。軽いノリでやっちまったアイドルネタがここまで後を引くとは思わなかったな。
……
…
なんて話をしながら、フリーシアとぶらり街歩き。確かにこの子が言うように見た目的な変化はあまり感じられないけれども、街を歩く冒険者や観光客の数が以前より圧倒的に増えていますね。
おとぎ話のテンプレエルフさんち的な木の中や上に作られた建物からは、賑やかな声が漏れてきまして、中を覗けば昼間っから冒険者共がジョッキで何かを酌み交わしていたり、何らかの商談に励む商人達の姿が目に入ります。
冒険者が増えるように結構煽りましたけれども、商人もモッサモサと増えたのはちょっとびっくりというか、ゆくゆくはと思っていたのにあっという間に……それこそ、元からこの世界に存在していたかのようにシレっと商人の姿をたくさん見かけるようになったのが不思議ですな。
土地の開拓に商品開発、流通経路の整備にギルドの設置。色々と基盤は作りはしましたけれどもね、これほどはやく馴染むというか、商人らしい商人が現れたのがほんと不思議。
なんだろうな、だーれもスイッチを入れなかった時計に俺が手を触れちゃったような感じ?
だらだらと変化しないまま長い年を生きてきた住人達でも、それなりに地盤は出来上がってて、俺がちょーっと知識を流すとスイスイそれを吸収して――みたいな?
うーむ、さすがは異世界。なんてご都合主義だ。
「ほら、見てくださいな、お父様。ヴァルキリーのミニライブですわ」
フリーシアが指す先を見れば、なるほどガーディアン達がキャッキャうふふと歌ってらっしゃる。なるほど、これがここのご当地アイドルか……。
楽しげに歌って踊るヴァルキリー、それを応援する冒険者や町人達。目ざとく集まり商売を始める商人達に、それに群がる子供達。
ダンジョン帰りの冒険者達がまた、その輪に加わってさらにライブは盛り上がっていく。
うん。精霊樹の里ももう大丈夫だな。もう完璧にダンジョンの街として自立出来ているな。
フリーシアと二人、屋台で買ったジュースを飲みながらライブを堪能し、とっても良い時間を過ごしたのでありました。
ナー「ずるいです! 父上! どうして姉上だけ!」
ユウ「あれっ パンさんじゃ無い!? ナーちゃん?」
ナー「父上がフリーシア姉とデートをしたと聞き、馳せ参じました」
ユウ「ナーちゃんってそんなキャラだっけ……」
ナー「父上が悪いんですよ。我ら姉妹との交流が薄すぎます」
ユウ「そうか……」
ナー「父上が忙しいのは理解しています。しかし、姉上とデート! 前回私を呼んでも良かったのでは!?」
ユウ「ムッ……」
ナー「マルリ殿と遊んで私と遊ばぬとは……うう……」
ユウ「ごめんごめん! ほら、泣かないで? 次回一緒にスーちゃんとこいこ?」
ナー「本当でござるかあ……?」
ユウ「疑いすぎてござるになってる……本当だから! ね、ほら!」
ナー「ふふ、たまにはわがままを言ってみるものですね」
ユウ「そうだぞ。子供はもっと親にわがままをいっていいんだ」
パン(どうしよう……出るタイミングを失ったわ)




