第五百六十四話 雑にヒゲミミ
はい。ユウですけれども。なんだか怪盗団になって世直しをする夢をここの所みていた感じで、何をしているところだったかすっかり忘れかけていましたが、どうやら帰る前の思い出探訪ツアーを、某怪盗団ゲームにおけるお世話になった人達に挨拶をして回るアレをしているんだったなと思い出した次第です。
というわけで、亀の住む地を後にしたわたくしユウはヒゲミミ温泉にやって参りました。
ここで俺を待つのはシズクとバーグ、その奥さんのヒルダ。そしてマルリさんなんだけれども、マルリさんはウチに部屋を持ってるし、ヒゲミミよりウチに居る日の方が多いしで、いまいちヒゲミミ温泉に逢いに行くという感覚が薄いのがアレですな。
それでも最近は前より温泉に居着くようになったんですよ。というのも、改築して和風の城のような外観になったヒゲミミ温泉の天守閣に『女将の間』なる部屋を作りましてね。暇なときはここにやってきて上からヒゲミミを見渡してはキャッキャと楽しんでいるとのこと。
結果としてマルリさんがヒゲミミに居ることが増えたため、これ幸いと承認のサインをするだけになっている書類をシズクが喜々として運んでくるそうな。
シズクとバーグ夫妻が実質運営しているヒゲミミ温泉郷ですが、一応はマルリさんが代表。重要な案件は形だけとはいえ、マルリさんのサインをする必要があるとのことで、居着いてくれるのは大助かりみたいですな。
「とんとーん 俺が来ましたよー」
「む、その声はユウじゃな!? 入ってこい、入ってこーい!」
女将の間のフスマ越しに声をかけると、直ぐにマルリさんの嬉しそうな声が聞こえてきます。遠慮無くすすすっと中に入りますと、座椅子にだらりともたれかかり、ニコニコと笑顔を浮かべたマルリさんの姿が目に入ります。
「なんだか久しぶりな気がするから不思議だね」
「気のせいではないのじゃ! わしが家に帰るといーっつもユウおらんのじゃもん!」
「そうかな……そうかも……なんだろうな、タイミングって奴かな?」
俺もマルリさんもちょいちょいキチンと家に帰っているはずなんだけれども、互いに家に居る時間が合わないって感じなのかなあ。ああ、夫婦ってこうやってすれ違っていく……って夫婦じゃなかったわ。
ちゃぶ台を挟んでマルリさんの対面に座り、大きな窓から外を眺めます。
「ああ、噂には聞いていたがすげえ眺めだなあ」
「じゃろう? じゃろう! ユウめ、見に来いと言ってもこないんじゃもんなー!」
「ごめんごめん。なんやかんや忙しかったんだよな」
洞窟の中の集落、初めて訪れたときはなんて幻想的な場所だろうと感動したものですが、その感動は今でも変わりません。
集落から村に、村から街になり、今では冬の大地を束ねる王都的な場所になっているわけです。
勿論、景観的なものも若干変化がありまして、温泉客相手に商売をしようと、様々なお店が元々の住人や各地からやってきた住人達によって新たに建てられ、その店舗達には雰囲気を壊さぬように提灯風の光る看板が街のあちこちに設置されていて、なんだか夢のような……神隠し的なアレみたいな雰囲気が半端ないですな。
ふん! 和則というのかい? 贅沢な名前だねぇ。今日からお前はカズだ! みたいな。怒られる!
「何変な顔してるんじゃ?」
「あ、ああ、ううん。なんでもない。っと、なんだか腹が減ったな。ああ、もうお昼かあ」
「む! 飯か? のう、ユウ! はんばーぐかれーが食べたいのじゃ!」
「カレーかあ、いいね。じゃあ下に降りて……」
「違うのじゃ! わしはユウが作ったのがたべたいんじゃ!」
「俺の……?」
「わしはのう、ユウが作るカレーに惚れてついて行く事にしたんじゃ。結果として今まででは考えられない程に楽しい日々が送れて幸せでのう。何時かお礼を言おうと思っとったんじゃが……」
「やめてくれよ、照れる」
「じゃがのう。いつからか、わしが居ない間にユウ達は何処かへフラリと出かけるようになっての、たまに帰ってきても飯を作るのは子供達だったりするじゃろう? それはそれでうまいんじゃが、ユウのカレー、久々にアレを食べたいんじゃ!」
やめてくれマルリさん……その台詞は俺に効く。
クロベエもそうだったけど、マルリさんもフラリフラリと何処かへ行っちゃう系の人だからさあ……旅に出るときにタイミングが合わないこともあってさあ……なんて言うのは俺の良いわけだな。
マルリさんに寂しい思いさせちゃってたんだな……ごめんよマルリさん。
「しょうが無いなあ、マルリちゃんは。作り置きで悪いが、ちゃんとした俺のカレーだぞ! それでいいか?」
ストレージから鍋を取り出し蓋を開けてみせると……
「これじゃ! この香りじゃよ! たまらんわい! ユウ! はやくカレーをよそっとくれ!」
「はいはい。ちょっとまってな」
全くかわいいばあさんですね! かわいい方のロリばばあがマルリさんで、ウザいほうが亀。ここテストに出ますよ。
ストレージから取り出したご飯を盛り、ハンバーグをのせる。カレーをぐるーりとかけたら……上からとろけるチーズをファッサァ……っ!
「おほおおお! そ、それはチーズじゃな!?」
「ふふ……チーズハンバーグカレー……お上がりよ!」
「むっふううう! 鼻から抜ける辛さと香り! それを柔らかにチーズのお布団が包み込んでハンバーグの肉汁に溺れそうになるのじゃあああああ!」
「食レポ乙!」
マルリさんはなんと3杯もおかわりをし、すっかりぽんぽこりんになったお腹を擦りながらコロコロと転がってしまいました。
その様子がなんだかおかしくって、そのまましばらくああだこうだと話しているウチに良い時間。ああ、結局マルリさんと遊んでいるウチにヒゲミミ回が終わってしまうじゃねえか。
……いいよね、バーグと語らっても面白くないし……シズクと会えばきっとヒゲミミの運営話回になってしまうしさ……マルリさんかわいい! もうそれでいいじゃねえか。
パン「いやほんと雑ね!? マルリちゃんと遊んでただけじゃ無いの」
ユウ「だからそういってんじゃねえかよ。いやあ、ほんとかわいいばあさんだよね」
パン「正直、あの種族の生態ってよくわからないのよね」
ユウ「うん!?」
パン「ドワーフもだけどさ、寿命がね? 結構長くってね……」
ユウ「あれあれ、待って? マルリさん最年長みたいな感じじゃ無かった?」
パン「……」
ユウ「パンさん?」
パン「これ今言っていいのかな」
ユウ「……なんだよ……気になるから言えよ」
パン「うん……ある程度年を取るとね、地下に地下に潜って新たな集落を作る性質が……」
ユウ「なんて?」
パン「雑に言うと、地下にはユウが知らないヒゲミミ領がもっとたくさん存在している」
ユウ「もうすぐ終わる作品で言うことか!?」
パン「だから言ったじゃ無いの!」
ユウ「なるほど……だからマルリさんより年上の世代がいねえのか……で、なんで潜るの?」
パン「うん、年を取ると上の寒さがこたえるとかなんとか……地下は地熱で暖かいからね」
ユウ「……なるほど知りたくなかった。じゃあきっとマルリさんはそのままだな」
パン「温泉ができたし、立て直した家は暖かいからね……住人達もきっとそのままよ」
ユウ「なんだかとんでもないことをしちゃった気がするが、もう終わるからいいな!」
パン「なんて無責任な奴!」




