第五十四話 森でスカウト
「ほ、ほんとうに われらの あんじゅうのちが あるのですか」
驚きながらウサギどもがぴょんぴょこぴょんぴょこ跳ねている。
「ほ、ほんとうに クロベエとすめるのか?」
ヒカリの奴もウサギどもと混じってぴょんぴょこ跳ねている。どうやら護っているうちに結構仲良くなったらしい。
「ああそうだ。まあ、ダンジョンに越せば寿命以外で死ぬことはないと断言しよう」
と、言ったのを聞いて興奮気味にああだこうだ騒いでいるが、間違ったことは言ってないからね。リスポーンするから実質死なないわけで、死ぬ思いをしないとはいっていない。
ウサギどもの契約は元々決まっていたようなものだからスムーズだった。
問題は他の魔獣たちだ。この森には結構世話になっている。そう、世話になっているのだ。
以前は俺やクロベエを餌と認識した連中が立ち向かってきていたが、今では気配を感じると逃げる始末。
そろそろ狩場を変えないといけないなあと思っていたところだった。
「ルーちゃん、頼む」
ルーちゃんにお願いして自動翻訳の範囲を広げてもらう。これでかなり広い範囲に俺たちの声が届くようになったはずだ。
「毎度お世話になっています、森のはずれのユウ、ユウでございます!本日は狩りに来たのではありません!より良い環境のご相談に参りました!」
森のあちらこちらからザワザワと声が聞こえてくる。
「お、おい!くろきしにがみがきたぞ!」
「かりとりしもの も いっしょにいる!」
「おれたちにかたりかけてるぞ! おしまいだ!おしまいだ!」
……そんな恥ずかしい名前で呼ばれていたのか……ユウです、ユウでございます。
「おい!聞こえてるぞ!今日の俺たちは死神でもねえし、刈り取りもしねえよ!つうか出てこないならこっちから行くぞ!」
「ひ、ひい!こどもだけは おたすけを」
すっかりおびえ切った魔獣どもが現れた。つうか、今まで幼獣には手を出してなかったろうがよ…
ヒッグホッグにムックルといったおなじみの"食材"に、フォルン、それとレッグ・コッカ等を筆頭にジワジワと見知らぬ顔も何匹か出てきてくれた。ということは今まで"お世話になった"連中もそれなりに知能があったってことか。ちょっと罪悪感……。
まあ、牛さんや豚さんもこういう仕組みがあれば喋れるのかもしれないし、深く考えるのはやめよう。肉が一切食えなくなる。
「まあなんだ、弱肉強食だからな。おまえらも俺を喰おうとしてただろ?それはお互い様ってことで今更文句は言わねえし、謝らないからな」
そんなことを言うとビクっとする。だから今日は食わねえって言ってるのに……。
俺じゃ怯えさせることしか出来なさそうだからルーちゃんに出てきてもらおう。
「初めまして、塩のダンジョンのダンジョンコア、ルトです」
これはこれでざわざわし始める。
「おい、ダンジョンコアだって…」「コアってにんげんなの?」「ばか あれは ひとならざるもの」
「この度ルーちゃんは森の階層を作りました。お友達になってお引越ししてくれませんか?」
ここですかさず俺が補足する。
「えー、既に1階層として湿原を作り、そこには湿原の連中を呼んであります。
この間住民アンケートを取ったので読み上げていきますね」
「不死になったので安心して生活ができます タルット12歳」
「元の湿地より魚が旨くてうれしい シャクシャーク 3歳」
「ここの水お肌にいいのよ、潤うわあ アラモーナ 年齢未記入」
「ここはいいな!強くなれるし新たな力も得られた! モルモル 49歳」
ちらっとしか読んでなかったから気づいてなかったが、モル丸さん年上だったんだ…知らなかったそんなの……。
アンケートを聞いてざわざわするので説明で追撃する。
「はい、まずルーちゃんのダンジョンでは寿命以外で死ぬことはありません。
例えば何らかの理由で怪我を負ったり、毒にやられたり、病気になったりして死に直面してもダンジョンの仕組みで蘇生され、健康体にまで回復されます。
この森で死神やカリトリシモノに襲われる心配もなくなるわけですねえ」
自虐と皮肉を込めて煽っていく。
「次に、ダンジョン内に生息するものは良質な魔素かなんかの影響で力が付きます。
その関係か、食べた場合味が良くなっているようです。
ちなみに"住人"として登録されたものは狩られることがなくなり、餌となりませんが、肉食の方々向けに会話する知能が無き種は契約が出来ない都合上、その枠から外れるためご飯の心配はありません」
「つよくなるって」
「さりげなくエグいな さすがカリトリシモノだ」
「でもごはんうまいって」
「しなないのいいよね…」
「イイ……」
そんな感じでサクサクと契約が進みそうだったので、この場はルーちゃんに任せてクロベエと狩りに向かう。
といっても、殺すわけではなくて生け捕りだ。水生生物と事情が違うため、どうするのか困っていたら女神様が裏技を使ってくれた。
「邪道だけど女神式重力罠を貸してあげるわ」
なんて言って渡してよこしたこの謎の箱、あかんですわ。
ポイントに置いて少し離れてスマホからスイッチを入れると間もなく起動し、本能に訴えかける旨そうな香りがあたりに広がる。
まもなく間抜けな動物…もとい、小型魔獣がやってきたのが見えたと思ったらもういない。箱に吸い込まれたのだ。箱の中は特殊なアイテムボックスになってるとのことで、言ってしまえば女神権限で何でも入るようになってるとのこと。
これ…永続的に貸してくれねえかな……。どうせまた使う機会あるんだろうしさあ……。
一応知能が低い魔獣くらいにしか効果が無いってことだが、さっきからクロベエがソワソワしているからちょっと怪しい。クロベエがあほなのか、パンの装置がガバガバなのか2重の意味で疑わしい。
そんなわけなので、一応離れたところから監視しているわけだが、入るわ入るわ。俺の気配を察知してるだろうにそんなの関係なく小魔獣や鳥、虫等がホイホイホイホイ入っていく。
森のすべてを狩りつくすのでは、なんて思っていたが一定数量に達したとスマホに表示され吸引が終わった。
箱を回収し、ウサギの集落に戻ると話は終わったようでまた明日召喚ね、という運びになっていた。
2度目となればほんとスムーズなものだな