第五百五十一話 誰が悪い ユウが悪い
「ようこそ! 俺たちの国シガラキへ!」
嬉しそうな顔で尻尾をぶんぶんと振るクロベエ。おい、知っているかいクロベエ。そのシガラキってのは信楽焼の狸から来てるんだぜ? アレをきちんとそれと理解していたのだから、その名をそのままつけたのはお前なのだろうけど、いいのかい? 狸の国って自分で言ってるようなものなんだよ?
はい! というわけでユウなんですけれども! 今日はあの! シガラキ国の国王様のお宅にお邪魔しています。すごいですねえ、どこからどう見ても異世界ファンタジーにありがちなテンプレな感じの素敵なお城です。
俺が知っている「これから国家の代表が住む家」はどれもが普通の住宅なので、なんつうか申し訳なくなってきますね。
城=代表が仕事をする場所と置き換えて考えてみたとしても、始まりの街のアレは5階建てのまんまどっかの地方都市にありがちな市役所ですし、ヒゲミミ温泉はいつの間にか温泉宿自体に役所機能を合併させちゃったみたいですし……。
メリルは気づいたら学校にその機能がまとめられていましたし、マリーノの至っては2階建てくらいのなんか適当な建物だったような……何かやった記憶すら無いような……下手をすればあいつらの自宅がそのままのような……まあ、マリーノのことは忘れるとしまして、とにかく俺が何時かやろうと思ったままやれなかった築城をクロベエの奴はやり遂げちまったって訳です!
「すげえぞクロベエ! 俺が面倒で後回しにしてたことをやり遂げやがった!」
「ユウはそういうとこあるから俺ががんばってたんだぞー えっへん!」
ドヤっと胸をはり、顔をすり寄せてくるクロベエ。やめてください。かわいいけれどその体格でやられると腰に来ます。
大きな猫ベッドにモフりと丸くなるクロベエ達。なるほどそれが君らの玉座ですか。
「ユウ達も適当にくつろぎなよ」
「くつろげって言われても、猫ベッドしかないわよ?」
「あー、そうだった。この城にお客さんを呼ぶのまだ先だと思ってたからなんもないんだよね」
「しゃあねえ。ここは猫になったつもりで猫ベッドに座るとしましょうや、ぱんさんや」
とはいえ、なかなか猫ベッドというものも馬鹿に出来ないものなのであった。クロベエ達、巨大な猫たちに合わせて作られた猫ベッドですよ。これあれだわ。俺が前にネットで見て欲しいけど金額じゃなくてスペース的な問題で買えないよお! と、涙を流して悔しがった真に人をダメにするクッションみたいなかんじなんですよ。
なんて言ったらいいかな、六畳くらいある大きな厚切りの食パンの内側をそっくりくりぬいてその中に座るような……どこにどう座ってもふわふこがそこにあって、何時までもだらだらと出来るようなアレ。
この猫ベッドはまさにそれに近い大きさで、中に入ると全身余すところなくふこふわで……
「ふわぁ……」
パンさんなんか入った瞬間、変な声を上げてそのまま丸くなってしまいました。即落ち女神か。
「ああやべえ……これいいなあ。俺も後でウサ族につくらせよ……」
「いいだろう! 俺たちのお気に入りなんだ。ねー、コハル」
「うん! 父ちゃんも母ちゃんもコハルもこれ大好きなんだ!」
「そうかそうか。気持ちが良いものなあ……うふふ」
うふふ……なんていい……天国のような空間なんでしょう……。ふこもふに包まれ、もふもふ達と触れ合い……ああ、だんだんと瞼が……
「って違うだろ!」
「わ、びっくりした! ユウは直ぐそうやっていきなり変な声出すよね。あっちに居た頃から気になってた」
「やめろ! 猫だと思って油断してたんだろうけど実は色々見てましたぜみたいな顔するのやめろ!」
「……説明おつぅ……くふう……」
「パンさんは煽るか堕ちるかどっちかにして!」
「そうじゃなくて、俺が来たのはこの国のことだよ」
「この国? いい国だろーシガラキ-」
「うんーいい国だー……じゃなくって、なんでお前がこんなところで国王なんかやってるんだ?って話だよ」
「……それと、ヒカリが昼間っからダンジョンじゃなくてここに居る理由も聞いといて……スヤァ」
「パンさんは寝るな! ……という訳なんだけど、一体何時からなんでこんなことになってるんだ?」
半ば猫ベッドに溶けながらクロベエに尋ねると、少しだけ何か思い出すような顔をして、間もなく「ああ」と何か納得した声を出して語り始めました。
「そもそも、発端はユウなんだよね」
「俺ェ!?」
パンさんがニヤニヤとしてこちらを見ています。あの顔は『今回はやはり自分のせいじゃない! 良かった! 無罪!』という気持ちと『さあてどうやってユウを弄ってやりましょうか』という感情が入り乱れた女神らしからぬ駄目な顔です。
ていうか、俺が発端ってどういうこったい。
「最初はさあ、大きくなった愛猫と異世界を旅するお話みたいな感じでさあ、俺とユウの二人が異世界のごたごたを解決していくような雰囲気があっただろう?」
「クロベエまでそんなメタい事を……。はっきりとそうとは言い切れんが、確かにクロベエと二人でやっていこうという気持ちはあったな」
「それがさあ、パンが来てさ、ルーちゃんが生まれてさ、だんだんと仲間や家族が増えていっただろう?」
「そうだな。今では名前を覚えていない人の方が多いくらいだよ」
「あんたそれはどうなのよ……ああ、クロベエちゃんは続けてね」
「仲間が増えたのは良いことなんだよ。俺もユウも寂しくないしね。でもさ、気づいたら俺の出番が無くなってたんだよね……」
「うっ」
「かわいい女の子がたくさん増えたじゃん? モフモフもさぞ活躍するだろうと思ったら、そうでもなかったじゃん?」
「あの、クロベエ君。そういうメタい事はそれくらいで……」
「俺に対するテコ入れかな? コハルが生まれたのは嬉しかったけれど、それでもやっぱり出番が減ってさ、とどめはやっぱりカズだよね。カズが来てからさらに出番が減ったんだよ」
「そう、そう! カズ! カズが悪い!」
「カズを呼んだのはユウじゃ無いかー。ああ、責めてるわけじゃ無いよ。それでね、ユウは忙しそうだしさ、暇で暇で仕方が無かった俺はコハルと一緒にヒカリのお手伝いをしてたんだけどさ。
お正月にさ、ルーちゃんが『お年玉だよ』ってご褒美をくれたんだよね」
「ご褒美」
「うん、ポータブルゲートっていってた。ほらこれ」
「げっ! なによこれ。ペラいけどゲートの陣がそのまま書き込まれてるじゃ無い……スヤァ」
「パンさん……」
「これのもう片っぽは塩のダンジョンのヒカリルームに置いてあるんだ」
「ヒカリルーム……ああ、ボス部屋か」
「そう。誰か来てお仕事の時間になったら通知が来るから、そこからゆっくり転移すれば良いし、もうじっとあそこで待つ必要がなくなったんだ」
そう言われてみれば、フロアマスターとして配置しちゃったせいであんまり自由に行動できなくなってたんだよな……申し訳ないことをしてたもんだ。
「それでさ、これで念願の家族旅行ができるねーって事で、俺とヒカリとコハルでね、お正月明けくらいからゲートで行ったり来たりしながら、少しずつこの大陸を旅して回ってたんだ」
「……なにその、それだけで1本書けそうな……その……」
「というわけで、次話は俺の回想をお届けするぞ」
「メタいしめ方するのやめなさいってば!」
……まったく、飼い主に似るとよく言われているけれども、そう言うネタまで言わなくて良いのよ、クロベエ君……。
パン「この飼い主あってあの猫ありってところね。ひどい回だったわ」
ユウ「パンさんも大概だけどな」
パン「言われてみれば確かに、クロベエ君の居る意味が薄くなってたもんね……」
ユウ「だからそう言う事いうのやめろ! まあなんだ、クロベエはフェンリルにはなれなかったんだ」
パン「あんたもやめなさいよ!」
ユウ「ふふっ」
パン「なにわろてんねん……でもさ、肝心な所はまだわかってないわよね」
ユウ「ああ、信楽焼が何故この地にあるのか、誰が持ち込んだのか、誰が無意識のうちに持ち込んだのか、どこの女神様が意図せず持ち込んでしまったのか、どこのパンさんが……」
パン「やめなさいよ!! どこの誰がって最後名前出してるじゃ無いの!」
ユウ「ははは」
パン「もー! そうじゃなくて、なんでクロベエ君が国を作ったかってお話でしょ!」
ユウ「そんなのもうわかりきってるけど……まあ、次話から語ってくれるんだろ」
パン「え? なに? ユウはもうわかってんの? え? あれ?」
ユウ「ははは パンはばかだな」
パン「ちょ、まじで!? えー?」




