第五百四十九話 ユウぐずる
シガラキ広場――俺が勝手に名付けたんじゃないぞ、正式名称なんだぞ――でヌケサクと別れた俺たちは、とりあえず適当にブラついて謎の王様とやらの情報を集めることにした。
というわけでユウなんですけれども。それなりにファンタジーっぽい石造りの街並みで、それに合わせて作られた円状の広場。そこには数々の屋台が並び、きれいな花が咲く植え込みやベンチなどもあって恋人たちや家族の憩いの場となっているんですけれども、その中央にあるのがいただけない。何がいただけないって、ファンタジーでこじゃれた空間にデンと鎮座ます狸! たぬき! タヌキィイイイイ!
それでもまだ、アメリカンなヒーロー達と肩を並べるようなゴミパンダの像であったならば、それなりに溶け込んだかもしれませんよ。でもね、目の間にいるのは信楽焼……っ!
しかもこれがまた、生意気そうに歯をむいてる悪い顔をした狸でさあ、無駄にでかいもんだから存在感が半端ない。その一帯だけ日本の渋い居酒屋周辺みたいなオーラが漂っていてとってもいやですよ。
まったく誰がこんなもんこの世界に持ち込んだのやら……。
「ん? どうしたの? 私の顔じっと見つめちゃって……あ、ユウも食べたいの? なんかね、名物のチーズまんじゅうなんだって」
「……食べる」
チーズまんじゅうはお饅頭っていうか、あれだ。肉まんの皮の中にとろっとろのチーズが入ってるアレですわ。コンビニでたまに売ってる感じの、甘くないアレ。めっちゃ旨いけど、ワイン飲みたくなってくるな。そこらからワインの香りが漂ってるしさあ。
しかし、見れば見るほど妙な国だ。今まで見たことがない種族である狸系獣人がいるわ、男女でケモ度に差があるわ、ひょうたん下げてるわ、中にはワインが入ってるわ……。
建築技術は割と今風だし、建物もとってもきれいでまるで最近建てられたかのよう……
あれ、もしかしてこれ本当に最近できたばかりなのでは?
そう言えば、街を取り囲んでいる壁って1週間で王様が作ったとか言ってたっけ……もしかしてこれはキャラかぶりなのでは。謎の存在αから生産チートを貰った異世界人が俺が知らぬところでやらかしているのでは?
なんかこう、あれですね。知らない女がウチの台所で好き勝手振る舞ってるような、そういう地味ないらつきを感じますね……。
なんだろうな、なんだかんだで僕が手塩にかけた大切な世界って感じで愛着わいてるんだろうな。悪いようにされてる訳じゃないから文句を言うつもりはないけれど、一体どんな奴がどんな目的でやってるのかはっきりさせるくらいはしておきたい。
となれば……城か。城に突入するしかないのか。
ただ、ほんとに突入しちゃうと穏やかな感じにはならないよな。だったらちゃんとアポを取ってって感じになるんだろうけど、普通に考えて王様とアポを取るってどうすればいいのかわからねえ。
縁もゆかりもない奴が大会社の会長に会わせろって電話をかけたところで、どうにもならないと思うんですが、俺が見ず知らずの王様に会おうってのはそれ以上にハードルが高いと思うんですよ。
てっいうか、この国の仕組みと言いますか、ルールなんて全くわからないから、そもそもどういうルートで謁見の流れに持って行けばいいのかすら浮かばない。
そうするとやはり侵入しかないのか……?
「ねね、ユウ。もうすぐ王様がお散歩に来るんだって」
「おさんぽ」
「うん。お妃様とお姫様を連れて日課の見回りなんだって」
「おきさきさまと……おひめさ……子持ちかよこの野郎!」
「わ! びっくりした! 急に大きな声出さないでよ!」
そう言えばお妃様がワイン好きで作らせたとか言ってたな。なんか心が自動でスルーしてたけれど、子持ちかよ! あれか? たまにある一家そろって転移って奴か? ワイン? おしゃれだな!?
「どうしようパン、ここの王様達上級国民様かもしれない」
「なにいきなりオロオロしてんのよ!」
「だってよう、どう考えても迷い込んでるのは日本人だろ? しかも奥さんのためにワインを指南するとかさあ」
「ちょっと、そんくらいでオロオロしないでよ……何だか私が悲しくなってくるわよ……」
だって上級国民様だぞ。彼らが優遇されているとかそう言うことを言うつもりはないけれど、きっと考え方からして違うんだぞ。俺がラーメン食べたいなって思ったら近所のラーメン屋にふらっと行くけど、上級国民様なら「今日は博多にしようか」って軽いノリで飛行機使っちゃうんだ。
「だからやめなさいよ! そう言うしょっぱい思考されるとほんとつらくなってくるから!」
まあ、それはそれとして。
でもほんと、ノリが完全に合わない人だったらやりにくいだろうから困るんだよ。基本この世界の連中はアホだけど気のいい連中ばかりでさ、なんというか庶民的な世界なんだぜ? そこにこう、高級志向の御方が現れてそう言う国を作っていたとしたら……なんだかちょっと恥ずかしくなってくるじゃないか!
「だからネガティブにならないの。あんたはあんたで立派にやってるんだからさ、先輩として……多分、先輩だと思うけど、先輩として胸を張って起きなさいな」
「うん……っていうか、本当に何もわからないんだね……管理者なのに」
「うるさいわね! ざっと調べた感じではそれほど古い街ではなさそうだから、この国ができたのはここ数年……下手をすれば数ヶ月ってところだと思うわ」
「でたらめな話だ」
「あんたはそれを成し遂げてるんだからね? 考えたくないけれど、何者かから加護を受けているっていうのであれば、あんたと同等くらいの力を持ってる可能性もあるし、無い話ではないわ」
やだなー キャラかぶりやだなー 増して上位互換とか出てきたらほんとやだなー 最終章だよー? そんなもやもやした展開やだよー!
なんて、今ひとつ気分が晴れないまま、そのときがやってきてしまいました。
「あー! 王様だー!」
「おお、今日も立派なお姿だ……」
「お姫様が手を振ってるぞー!」
「うおおお!」
くっ! なんて乱暴な展開だ! 言ってるそばからご登場とはな! 遠目に見て話が通じそうだったらお話くらいしてあげてもいいんだからね!
パン「ほんと小さな男になってしまって……」
ユウ「金持ちけんかせずっていうだろ」
パン「それは金持ちが言う台詞であって、金持ちと喧嘩しないという意味ではないわよ……」
ユウ「知ってるけど敢えての誤用だよ! だって金持ちと関わると面倒くさい事にしからなんぞ」
パン「知ってる! このポッキンアイス二人用なんだとか言って分けてくれない意地悪とかするのよね」
ユウ「それ元から二人分にしかならねえし、金持ちならもっといいアイス食えよ!」
パン「ふふ、元気出てきたじゃないの」
ユウ「ったく……まあ、俺らしく無かったかな」
パン「そうね。あんたは胸張って馬鹿なことを言ってればそれでいいのよ」
ユウ「俺をなんだと……でもそうだな。俺は俺らしく、引っかき回していきますかね」
パン「無駄な争いだけはやめてね!」




