第五百四十六話 こっから風呂敷広げるのはやめような!
風に揺れる黄金の穂。世界が世界ならば、それはきっと稲穂であり、恐らく日本から拐かされたであろう主人公は「わあ! 米だあ! 念願のお米だあ!」とか喜ぶシーンだったりするんじゃないでしょうか。
そうじゃなくても、さわさわと揺れているのは麦だったりしてさ、なんと豊かな穀倉地帯なんだーなんてさ、こいつあさぞかし飯が美味い国に違いないーとかなると思うんだけど、まあ、違うよね。
「すげえなこれ……俺こんなにも群生しまくってるネコジャラシ見たのはじめてだよ……」
「これは別に植えてるってわけじゃなさそうね。ただ単に手入れがされていない原野で猛威を奮ってるだけみたい」
「猛威て。お前ネコジャラシに何か恨みでも有るのかよ」
そんでまた、このネコジャラシのサイズがエッグいんだ。穂がバナナくらいあるんだぞ。ナギサちゃんとか喜んで飛びついちゃうんじゃないかな? わあ!バナナの海だあ! なんて言って……
「ユウ? どうしたの? 急にブルブル震えちゃってさ」
「……わからん。今ものすごく寒気が……」
「ちょ、風邪? やめてよね。伝染るじゃないの」
「わー! あぶねえ! 走行中のバイクで暴れんな! つうか俺は病気にならねえ設定だったろ」
「そうでした」
……悪寒の理由はまあ、アレだよね。こんだけ離れててもカウンター飛んでくるとは思わなかったよ。
いかんいかん。今度はゴリラの話で1話使っちまう。さっさと前に進もうじゃないか。
ネコジャラシの海を切り裂くように街道らしきものがあり、それはどうやら例の壁に向かって伸びている。だったらその道を辿っていけばやがて第一国民発見となるのではと、とっとことっとこバイクを走らせていきますと、果たして間もなく大きな背負籠を担いで歩く住人の姿が見えました。
籠に隠れてよく見えませんが、ちらちら見える頭はフサフサと獣毛が生えていて、ぴょこんとケモミミが見えています。てこたあ、秋の大地特有のコボルトさんで間違いないですな。
ナベゾコ村やゾネスのような例外はありますけれど、基本的にその大地に根ざした種族が暮らしているはずですからね。また今回も妙なイレギュラーが! なんてちょっと期待半分、警戒半分てな気分ですたけれども、ベタが一番ですよ。
バイクの速度を緩め、第一国民さんの横に並び声をかけます。
「やあ、精が出るね」
「ん? おや、妙な兄ちゃんが妙な姉ちゃんと妙なもんに乗ってるな」
「ああ、俺達は少し遠くから来たもんでね。ちょっと変わったところも……変わった……」
『ヘイ!パンさん!』
『なによ音声アシスタントみたいに呼ばないで』
『うるせえ! そんな事よりこの人……コボルトであってる……んだよな?』
『犬族の事コボルトっていうのやめな……って、これは……』
『犬族っていうよりさ、これさあ……どうみても』
『タヌキだこれ』
タヌキである。タヌキのオヤジが大きな籠を背負ってえっちらおっちら歩いているのである。ウサ族がこの場にいたら本能のまま籠に火を放つだろうなって勢いでタヌキなのである。
「なんだあ? 俺の顔ジロジロ見て。そうか、あんたら他所からきたってんなら、俺の姿が珍しいのか」
「まあ、そういうこった……な。すまないな、悪気はないんだよ」
「ああ、いいってことよ。あんたら俺達の国に入るんだろ? そしたらあんたらだってジロジロ見られるだろうからな」
国……ね。 今はっきりと『俺達の国』といったな。
「そうだな。俺達はこの辺りに有るという国を見に来たんだが、あの石壁の中にあるのかい?」
「ああ、アレすげえよなあ。王様が一週間かからずあっという間に作ってしまったんだ」
おいおいまじかよ。石壁ってもあれだぞ、民家を囲うブロック塀ってレベルじゃないんだぞ。異世界系作品でよく見かける実在する何処かの城塞都市をモデルにしたアレみたいな規模で結構な範囲を覆ってるんだぞ。俺がスマホでちょいのちょいとやればまあ、1日もあれば終わるけど、アレを? 一人で?
ていうか、このたぬきさん、今普通に「一週間」とか言ってましたけれども、その王様とやらが日時の概念を教えたのでしょうか?
これはもしかして……
『ねえパンさん……俺やカズ以外に異世界人がこっちに来たとか考えられる?』
『ありえないわよ。私が連れてくるわけがないし、他の神の仕業だとしても、そこまでのことをされたらシステムから通知が来てわかるようになっているし』
『なにかこう、時空の裂け目に落ちて迷い込んだとかは?』
『うっ……それならば考えられなくはないけど、逆に言うと迷子にはチートなんて与えられないわよ』
であれば、地球ではない何処かから、元々異能が普通に存在する世界からやってきたとか……そういう面倒くさいあれなのでは? おいおい最終章だぞ? 今から方向転換するのか? 無茶だ! 風呂敷を畳みきれなくなるぞ!
なんて事をコソコソとパンさんとお話しているうちにどうやら国の入り口に到着したようです。
「さあ、ついたよ。ここが俺達の国、シガラキだ。偉大なる王が作り名付けた我ら猫族の国だよ」
「「ね、猫族ぅ!?」」
どう見てもタヌキにしか見えぬオヤジは猫族と自称しやがりました。っつうか、国名のシガラキってどう考えてもタヌキだし、名付けたやつは日本人か、それに準ずるもので間違いないでしょう。
タヌキの猫族発言、謎の国王。さあ、盛り上がってまいりました! 頭が痛くなってまいりました!
ユウ「なあ、猫族って……なあ?」
パン「なにいってるのかしらね、このタヌキは」
ユウ「だよなあ……タヌキだよなあ……」
パン「百歩譲って犬族ならわかるけど、なんで猫族を自称してるのか頭がいたいわ」
ユウ「つうかさあ、国名のシガラキから嫌な予感がするんだよな」
パン「ああ、謎の日本人の存在ね?」
ユウ「ちげえよ。またお前のガラクタが悪さしてるんじゃないかなって言うアレだよ」
パン「……」
ユウ(あっ これ信楽焼に何か覚えがある顔だ)
パン「王様、一体何者なんだ!」
ユウ「たしかにそれも気になるけど、今誤魔化したよね? ね?」




