第五百四十五話 話? そんなもん進むわけねえじゃん!
とっとことっとこと道なき道を走っていた我々探検隊ですけれども、ユウですけれども。
流石にミチっと木が密集した森は車で移動することが不可能なため、魔導二輪車に足を変えての移動中です。
何時ものノリでスマホを使ってばっさばっさと開拓しながら進めば車でも余裕で移動できるんですが、この先に未知の国があるとなれば、そんなお行儀が悪い真似をするわけにはいけませんからね。
何かこう、ガチめの森の民的な人達がわっと現れて『聖なる森を荒らす悪魔の子はお前らかーっ!』なんて言われてしまったらたまりませんし、国交を結ぶ前に怒らせてしまっては本末転倒ですわ。
というわけで、バイクでブンブン移動してるんですが……その当たるんだ。うん、そうなんだ。背中に2つ、お約束のアレが当たってるんだ……その……パンさんのパンさん達が……ふよふよと……。
「すけべ!!!」
「うっせ! だったらお前も自分で運転したらいいだろ!」
「いやよ! バイクなんて運転したこと無いもの!」
これだもん。
ここから先は車じゃいけねえ、久々にのんびりと徒歩の冒険と洒落込みますかと俺が言ったのを聞いたパンさんの顔と言ったら。
クリスマスの朝にプレゼントの包装から表れた百科事典を見たの○太くんの様な顔でしたよ。絶望of絶望、この世界が神の感情で変化が訪れる恐ろしい設定だったらば、世界は厚い雲に覆われ、得体のしれない危なげな雨が降り注ぎ、地上に生きる全ての生命が死滅するような……、ガチな女神の絶望ってやつを俺は見てしまったんだ……。
とは言っても車じゃ無理だ。
「じゃあ、自転車……」
と、言いかけた瞬間、さらに顔を顰める女神様。コイツどんだけ身体動かすの嫌なんだよと、呆れちまいましたけれどもね、まあ俺も鬼ではないので妥協案としてバイクを取り出したんです。
その瞬間、パアッと花が咲いたような明るい表情に変わりましてね。不覚にも少しかわいいなと思っちゃうほどで。
もしもこの世界が女神の感情で(略)なら、厚い雲は吹き飛び、荒れ果てた大地に新たな緑がぴょこぴょこと芽吹いては花を咲かせ、木は茂り、死滅した生命はリスポンして小鳥がさえずるような……なんとも神々しい光景が見られたことでしょう。
で……
「じゃあ、俺は青いのに乗るからお前は赤い2号に乗れよな」
と、言った所、
「いやよ! 何言ってるのよ!? 自慢じゃないけど私、自転車だって上手に乗れないんだから!」
ときたもんだ。ほんとに自慢できることじゃねえわ。確かにパンさんが自転車に乗ってる姿はあんまり想像できませんけれども、そこまでか、そこまでなのか。
「まじかよお前……ええ……あれもだめ、これもだめ。じゃあどうすりゃいいんだ」
「何言ってるのよ。そのバイク、ちょっといじれば二人乗り出来るでしょ? 後ろに乗せなさいよ」
と、平気な顔で言いやがる。そりゃね、俺だって男の子だ。女の子と自転車なりバイクの二人乗りってもんは憧れがありましたし、せっかくのファンタジー世界ですからね、馬的な物でもみっけたら、可憐で瀟洒なメイド長なんかを後ろに乗せて、お屋敷から湖までとっとこ遠乗りしてみたいんだ! なんて思ったりしてましたよ。
まあ、現実は非常で、馬的な物は未だ見つからない(顔が馬になっているケンタウロスみたいのは居たが)し、それより先にバイクが出来てしまって今後馬の出番は無いだろうと言う感じなのですが。
だもんで、パンさんを後ろに乗せるってのは悪くはないんですよ。コイツなんだかんだ言って可愛いし、あんま言いたくねえけど、俺もまんざらではないしな。
ただその、当たるじゃん? 背中にさあ。勿論それが嫌だってことはないし、寧ろ望ましいといいますか、男の夢ですのでね、どんとこいと言いたい感じなんですけれども、パンさんはそれでいいのかと。
流石に「いうて、俺の背中にお胸がタッチダウンしまくるけどいいの?」なんて言えるわけないじゃないですか。
なので、アレ以上ぐずられても困るため、粛々とバイクを弄くりまして、二人乗り用にカスタムした上でうれし恥ずかし二人乗りと相成ったわけですよ。
「というわけで、不可抗力なんだよ!」
「なによ! 嬉しいくせに!」
「お前それ自分で言っちゃうの? いやまあ、そりゃ悪い気はしねえけどよ」
「やめろ! 恥ずかしくなってきた!」
「お前ほんとなんなんだよ!」
静かな森に喧々囂々と響く俺と駄女神の声。背中に確かな柔らかさを感じながら俺はただひたすらにバイクを走らせる。
「何かっこよくまとめようとしてるのよ! 背中の感覚断ち切るわよ!」
「怖いこと言うのやめろよ!」
まったく。赤や黄色に染まる木々、森の香りをたっぷりと含んだ気持ちが良い風。小鳥(魔獣)達の囀りに、サワサワとした木の葉の音。ほんと、シチュ的にはとっても素晴らしい秋の森デエトなんですが、俺達ですからね。どうにもこうにも締まりませんわ。
と、どうやらようやく森を抜けるようですね。徐々に明るくなってまいりました。
ややバイクの速度を落とし、ガサリとヤブをくぐり抜けて降り立った場所は金色の穂が揺れる広々とした草原で……そのはるか先に薄っすらと見えるのは、明らかに文明の香りがする石の壁。
どうやら噂の国とやらに到着できたようですよ。さあて、ようやくお話が動き出すってもんです。
ユウ「背中に当たる感触の話しか出来なかった……」
パン「ばか! ユウのすけべ! ばか!」
ユウ「だって……なあ?」
パン「同意を求めないでよ!」
ユウ「しかし、ようやくですよ。ようやく話が動き出しましたよ」
パン「森の話なんて『車からバイクに足を変え、鬱蒼とした森を抜けるとそこは』で済むじゃない。1行よ、1行!」
ユウ「パンさんも随分とメタなことをおっしゃるようになられたもんだ」
パン「うるさい! くだらない背中の感触の話に1話使うなんてばっかじゃないの!」
ユウ「ふふ……俺も男の子なんだなあ」
パン「それ自分で言うセリフじゃないから!」




