第五十二話 フロアマスターモル丸
年末に向けて色々やることがあるため、フロアマスターモル丸が爆誕した後は速やかにダンジョンに向かって用を済ませた。
「お前ら話は全部聞いてるからな。ルーちゃんに迷惑かけてんじゃねえぞ?」
集めた妖怪どもの中で若いタルットや上半身がワニの獣人っぽいヤツ、デカい鮫みたいなヤツが目を合わさないようにしていたから首謀はそいつらなんじゃねえかなって思った。
「ルーちゃん来てるときだけ良い子のフリしてんだってな?モルモルから聞いたぞ」
敢えてチクり魔の名前を出すとやはり目をつけた連中が忌々しそうにモルモル達を睨み付けている。この手の連中って人も魔物も変わんねえよな!わかりやすくて噴き出しそうになった。
「ここで俺がもうやんなよ!っていって帰ったら、その後モルモル達と"仲良く遊ぶ"んだろうな?ってのは俺にも分かってるんだ」
ニヤニヤと笑って悪ガキどもの顔を順番に見る。バっと目をそらすのが自白してるようで腹痛い。
「そこでだ、俺やルーちゃんの代わりにここをまとめ上げる代表を決めようと思う」
そういった瞬間、思った通りザワつく。腕に覚えがある連中が俺か?俺だ!俺だろう!と名乗り出ようとそわそわし始めていた。
「自惚れるな!若造共が!うぬら如きにこの妖怪どもを纏められると思うな!うつけが!」
別にキレたわけじゃないが言ってみたかったセリフを放ち凄んでみる。ジワジワと照れが来るが、ルーちゃんの主と言うことで一応俺も一目置かれているので効果はあったようだ。
「そこでだ、お前らに代表を決めろと言ったら酷いことになるのは目に見えている。だから俺が指名する。文句はねえな?」
ここでまたざわつく。俺か?俺なんじゃね?馬鹿野郎!俺だろ!と。どんだけ自惚れがひでえ連中なんだ。モル丸が泣きついてくるのがよく分かるぜ。
だからここで一発ガツンと爆弾を落としてやる。
「馬鹿野郎!もう決めてあるんだよ!今から発表する!文句あるヤツは出てこいよな。怒らないからよ」
シン……と静まったので意気揚々と発表してやった。
「モルモル族のモル丸、そいつが今日からお前らの頭だ!」
モル丸にはまだ待機して貰っている。姿を見せない方が面白いだろ?
案の定、不満の嵐だ。どう考えても雑魚にしか見えないモルモルだ。俺だって首をかしげる人事だと思う。
「あるじよー、あるじが言うことに文句はいいたかねえけどよお、モルモルっておかしくね?わりいけど現実?ってのを理解してねーんじゃねえっすかー?」
うける、仕込んだかのようにワニの若造がガン切れですよ。それに乗じるようにタルットの若造や鮫の若造も前に出てきて俺を睨み付けながら文句を言ってるぞ。
「うるせえなあ!ぶん殴るぞ?って、俺が殴っても意味ねえな。よーし分かった。俺だってそんくらいは理解してんだよマヌケ共が!今からモル丸喚ぶから不満なら勝負して勝て。そしたら考え直してやる」
「きいたか?」
「ああ、きいたで…」
「チカラ ミセテヤルゼ」
ここまで綺麗にシナリオ通りに進んでくれると嬉しくなってしまう。こいつらはお仕置きが必要な態度だが、個人的にご褒美をあげたい。まあ今後の態度次第だけどね。
ルーちゃんにこのやり取りを見せるのはアレなので、パンとクロベエと一緒に湿原の生態調査として離れた場所に居るよう打ち合わせをしておいた。
その際、パンに頼んで限定的な召喚権限を付与して貰った。そう、最大限に場を盛り上げるためにな。
「モル丸、出番だぞ。思い知らせてやれ」
スマホに表示されてる召喚ボタンを押し、モル丸を選択する。
妖怪どもが輪になっている中心に光の柱が立ち上り今からここに出ますよとアピールしている、しているがこれがモルモルにしてはデカいため、気づいたヤツがざわつき始めた。
辺りにふわりと良い香りが漂いはじめる。
嗅ぎ慣れない香りにうろたえ出す妖怪ども。馬鹿め癒やされるがいい。
光が収まり現れたのは魔鉄のモルモルことガンメタのモル助だ。
その姿は妖怪どもが想像していたモルモルからかけ離れていたことだろう。
「お祝いよ」と調子に乗った馬鹿女神、それに乗った俺。
馬鹿二人がビールで盛り上がって追加された空き缶、悪乗りして喰わせてしまったラウベーラの牙
LVは34になり、大きさは子供用のプールくらいになっている。その頭からはツノ状のものが生え、普通のモルモルとは違うと言うことを嫌と言うほど見せつけている。
つぶらな瞳で辺りを見渡すモル丸。
「主よ……喚んで下さり感謝するぞ!我のチカラを見たいのはどの若造だ?」
低く渋い声で静かに威圧し、若造共を睨み付けるモル丸。その時点で既に大半の連中は戦意を消失している。
が、この手の馬鹿は引き時と言うことを知らない。
「で、デカくなっただけじゃねえか!おい!おめえら一時休戦だ!モルモル如きになめられるわけにはいかねえ!」
「おう、ええで。ワイたちかてモルモル如きに尻尾を巻いて逃げるわけにはいかんのや。タルットだけにな!」
「コンナモノ オレノ ハデ イチゲキヨ」
「モル丸、遊んであげなさい」
その一言を合図にしたのかしないのか、若造共が飛びかかってきた。
何か武器のようなもので殴りかかってきたのはタルットの若造だ。あいつら道具使うんだな……
素早い動きで回り込み、背中から強烈な一撃を入れる。ガツン!というおよそモルモルからはしないような音が鳴り響き、その武器はポッキリ折れてしまった。
「そ、そんな…わいのキウリブレードが…」
それキウリを模した剣だったのか……。
「ソンナ ナマクラ トオルワケナイ」
一度水に潜り勢いをつけ飛び出してきたのは鮫の若造だ。パニック映画で主役を張れそうなその迫力ある身体はモル丸にも負けない巨体だ。大きく開いた口でモル丸を飲み込んでやろうと喰らいつく。
が、だめ。
食事をしてるときにさ、柔らかいとばかり思い込んでいたものが固かったとき、または固い異物が入っていたとき、予期せず固いものを噛んでしまったときって結構辛いよね。
硬いと知らずに思いっきりやったもんだからたまらない。顎に返った衝撃で崩れ落ち、のたうち回っている。
それを見て戦意が怪しくなっていたのがワニの若造。へたり込む2匹の妖怪を見てどうしようか考えてるようだ。
「モル丸、やれ」
俺の非常な一言でモル丸が動いた。
ゆっくりと獲物に近づき、身体の形を変えて包み込むように、しかし内側は空けるようにワニの若造を取り込んでいく。
中から何か聞こえているが、それはきっと鋼の牢獄から出ようと足掻いている音だろう。
暫くすると静かになったので、固唾をのんで見守っていた妖怪達に改めて宣言する。
「改めて宣言する。今日からこの階層の責任者、フロアマスターとしてモル丸を指名する。
見ての通り、モル丸は強くなったし、知恵もついた。だが、けして力だけでお前らを支配する暴君では無いことを俺が保証する。
目に余るヤツには容赦はしないが、困ったことがあればモル丸に相談するといい。お前らの役に立つことだろう」
「今紹介されたモル丸である。我は主と女神の命により、本日よりここの守護者となり、皆の力となりここを護っていくことを誓う」
盛大な歓声が上がり、モル丸が認められたことを証明していた。
モル丸はそれに応えるように身体を伸ばしポヨポヨと揺らす。
ズルリ
その際、中に閉じ込めたままだったワニの若造がぐったりと外に出てきたが、その顔は穏やかでとても良い香りに包まれていた……
俺の合図を聞いて戻ってきたルーちゃんに改めてやわらかめに説明し、ルーちゃんの口からも
「うん、モル丸!ルーちゃんがいない間がんばるように!」
との声を持って正式にフロアマスターモル丸が誕生したのだった。