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第五百三十三話 そろそろ開演ですよ

 ――そしてアイドル対決開幕の朝ッ!


 はい! と言うわけでしてね! 雑に日付が飛びました。決戦前の熱い決意表明とか、それに至るまでの熱い熱い努力の日々とか、挫折して涙する日、ファンからの暖かい言葉に胸を熱くする日――そんなありゃしませんよ! というわけで、若干やさぐれている私ユウですけれども、ブーちゃんからカズも同じ境遇であると聞き、ちょっと溜飲が下がりました。我ながらなんて小さな男なんだ……ッ!


 現在俺がいるのは控え室……ではなく、会場だよ畜生め! パンの野郎、


『ちょっと、ユウ。アンタはここでサヨナラバイバイよ。何よその、捨て犬みたいな顔……はぁ、ばかねえ。ここは控え室よ? そりゃ、関係者なのだからアンタだって入る権利はあるけれど……アイドル達が着替えたり、メイクしたりするような場所……耐えられる? でしょう? 分かったらさっさと会場にでも行きなさいな!』


 とかいってさ、俺を追い出しやがったんだよ。ちくしょう! ムカつくほどに正論だぜ……ッ!


 というわけで、居場所を求めて会場をウロウロしてるんですが、何か向こうの隅っこに申し訳なさそうに小さくなって座っているカズを見つけたのでちょっと嬉しくなりました。


 まぁ、近寄りませんけどね。酷いって? 何をおっしゃる。今のカズと俺は敵同士。 何故か対決という形になったし、何をもって勝敗を決めるのかもフワフワとしたまま決まってないので分かりませんけれども、兎に角アイツと俺は敵同士……ッ!


 ここで塩を送るほど俺は優しくありませんよ。


 ……なんて、唯単に今のあいつに絡むと面倒くさそうだからなんですが。


 っと、なにやらBGMが流れ始めましたよ。どうやらそろそろ開場時間のようだ。


『本日はアイドリング★バトル02にようこそおいで下さいました。開始時刻は18時30分を予定しています。それまではお手元のパンフレットをご覧になって注意事項をご確認下さいませ――』


 うおお! なんだかそれっぽいアナウンスが流れたぞ! あれですな、俺が知らない所で色々バンバンと進んでいくのが少し寂しかったんですけれども、知らなければ知らないでこうした驚きがあって良いですな!


 何か謎の感動に打ち震えていると、見慣れぬウサ族女子に声をかけられました。


「あ、ユウさん。ちわっすー!」

 

「む、お前は……誰だっけ?」


「酷いですね! っていうか酷いですね! 私は今回のライブイベントの会場スタッフ長に任命された……ええと、名前が無いので付けて欲しいです!」


「名無しウサ族かよ! ってこた、俺とあんまり絡んだことねえんじゃねえか!」


「酷いですね! まあ、私も遠くからチラリと見たくらいしかありませんけれど……」


「知らねえのも無理ねえじゃねえか! んー、ちょっぴりキャラ立ってるから名前をやろう。そうだなあ……ごはんが好き、とかどうだ?」


「アイドルネタと関係があるようなオーラが漂ってますけど、それは嫌って言うかだめです!」


「ちっ……勘が良い奴め。じゃあアイドルのドルをもじってドリスね」


「ドリス……うん、響きが良いので合格です! ご褒美にこれを上げます! じゃ、私は忙しいのでこの辺で!」


 ……まったくなんだったんだ……って、都合良くパンフレットを手渡して去って行きましたよ。話しを進行させるご褒美に名前を付けてやったと思えば悪くはありませんね。


 ええと何々……ロープから先にはいくな、熱くなっても喧嘩はするな、推しが出たら全力で応援しろ……なるほど、恐らくブーちゃん辺りが監修したんだと思いますが、すげえ雑に注意書きが書かれていますね。


 ていうか、さりげなくペンライトの購入を勧めている辺りが憎いな。確かにアレもってないと疎外感受けそうだなーってライブビデオを見る度思いますもんね。


 ……と、だんだんと会場が賑やかになってきましたよ。今回はオールスタンディングの総自由席。ナノできた順番に早い者勝ちで席というか、スペースを取れる感じになってるんですが、早くもゾニュースとニューゾネレーションズファンの間で交流……というか、それぞれの出番が来たら場所を交換する取引が行われていますな。


 ……こいつら場慣れしすぎだろ。


 と、俺もこうしちゃいられない。さっさとスタッフ席に移動しておかないと人の波で動けなくなりそうだ。


 ふふふ、スタッフ席は良いですよ。なんといっても椅子がある。それでいて浮いているんです。そう、浮いている。


 ステージ正面の結構近い位置にフワリと浮いている、そんな不思議な場所がスタッフ席です。勿論、このままの状態ですと、下界のお客さん達からクレームが入りますからね。当然関係者以外からは不可視になっていますし、そこに座った我々関係者の姿も消えて見えなくなる仕様です。


 流石にこんな魔導具は俺の力ではつくれませんので、パンとラミィに提案をして適当に作って貰ったんです。だって、折角のライブだよ? 良い席で見たいだろ?


 と、BGMがまた変わりました。時計を見ると開始10分前です。


「ふう、なんとか間に合ったわ」


「おっ、パンさんラミィさんおつっす」


「なによそれ。まあいいわ。ふふ、ユウ覚悟しなさいよ。今日のゾニュースはひと味違うんだから!」


「そうっすよー! 研究を重ねた結果生み出された新生ゾニュース、見て驚くといいっす!」


「あらあら、私達も負けてないわよー? ねえ、ナギサちゃん」


「ああ、うちのニューゾネレーションズだって今日のために鍛錬を続けたからな! ちょっとやそっとのパンチじゃ沈まねえぞ?」


「ナギサちゃん、違うわ。今日は格闘大会じゃなくて、歌の対決なの。大丈夫?」


「いけねえ、あたいとした事が言い間違えちゃったよあはは!」


 ……ホントに大丈夫なのかよ。と、ブーちゃん陣営もお出ましか……って。


「あれ? カズがいないけど、あいつは?」


「あれ? カズ君? あらやだほんと。ねえ、ナギサちゃん。カズ君がいないわよ?」


「あれれ? ほんとだ。あいつ、関係者席に……あー……この席のこと伝えるの忘れてた……」


 ……。


 ……そしてスタート2分前になった頃、会場の隅っこで小さくなりながらもペンライトを握って眼を煌めかせていたカズは無事に発見、保護され、関係者席に確保されたのでありました。

パン「あれ? ユウなんか機嫌直ってない?」

ユウ「ん? ああ、まあね」

パン「なになに、どうしたのよ」

ユウ「いやさ、俺主導でやること多かったじゃん?」

パン「うんうん」

ユウ「だからさ、がっつり関われないのが寂しくて拗ねてたんだけどさ」

パン「アンタそういうのを恥ずかしげも無くぶっちゃけるわよね……それで?」

ユウ「うん、でもさ。全部関わっちゃったらさ、何か新しいことをしても驚くって事が無いわけじゃん」

パン「そうね。ネタを知ってるわけだから、そりゃあね」

ユウ「だから今回さ、会場アナウンスとかパンフレットとか見てびっくりしてね。なんだかこう言うお客さん感覚なの久々の感覚で楽しいんだよ」

パン「ふふ。あんたが色々と頑張ってきたお陰よ……今回はぶーちゃんが色々頑張ってたけど、もううちの子達だけでも新しいこと生み出せるようになってると思うわよ」

ユウ「だよな。これからはこうやって俺も楽しむ側に回れるのかなって思ったら嬉しかったんだ」

パン「そっかそっか……なんだか珍しく綺麗な後書きになったわね」

ユウ「……そういうメタなこと言って台無しにするの辞めてくれないっすかねえ……」

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