第五百三十話 路上ライブ
伝説の15分から一週間が経った。今やこの学園で、いや、メリノでゾニュースの事を知らない人間は居ないと言っても過言ではない。
ファーストライブを成功に収めた彼女たちは、商店街でのゲリラライブを経てさらなるファンを獲得。そして、彼女達のためにメリノの住人達がこしらえた特設ステージで今日もライブを行っている。
………正直言って、ここまで人気が出るとは思わなかったのでビビっているわたくしユウですけれども。あっゲリラライブとゴリラライブって似てる……んんっ なんでもない! なんでもないからー!
で、何が凄いって、おじいちゃん、おばあちゃん達までもがゾニュースのウチワを手にステージに駆けつけてるんですよ。日本で俺が住んでいる街のじいちゃんばあちゃんと言えば、ローカル演歌歌手のライブに駆けつけて声援を送るのが関の山で、こうして若者たちに混じってアイドルライブに来たりはしなかったんだけどな……。
つっても、ゾネスの民のものの他に歌という物が存在しないわけですからね。孫のような年代の娘さん――に見える彼女達が健気に頑張る姿は年配の方々のハートをがっしりと掴み、応援支度させるのかも知れません。
『それでは今日最後の曲です。集まってくれた皆のために……アイラブ♥バナナ!』
「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」
……俺が森の賢者呼ばわりすると謎の力が働くくせに、自分たちでそれっぽいこと言ってたら世話ねえよなあ! ってかなんなんだよその曲名。誰が考えたんだよ……。
(アイラブ♥バナナはアイリちゃん達が作詞・作曲したみたいよ)
(自作かよ!自覚あんのかよ!)
『バーナナ♥ バナナ♥ バーナナ♥』
「「「「バーナナ! バナナ! バーナナ!」」」」
コーラスも完璧かよ! てか、新曲じゃねえのかよ! なんで完璧なんだよこいつら!
(そりゃそうよ。彼女達が練習するのは学園の屋上や中庭よ? 生徒の出入りは自由なんだから、お披露目前に練習風景を見物する連中はたくさんいるじゃないの)
(そうでした……)
言われてみれば確かにそうだ。ゾニュースが練習を始めると、何処と無くわらわらと生徒達が集まり始め、ずらりと遠巻きに取り囲んでその様子を見物するんだ。
追い払ったほうが良いのではないかと、パンやラミィに言ってみたけれど、ラミィの奴が
『何いってんすか。こんくらい想定の範囲内ですよ。彼女達はプロじゃないんっす。こういった練習風景の公開も含めてスクールアイドルの活動なんすから、狭量なこと言わず黙って見守ってください』
と、なんだかそれらしいことを言い、俺もそうかもしれない……とすっかり丸め込まれて見逃していたんだ。
いやまあ、実際何か害があるわけじゃあないし、独占欲なのか単なる正義感なのかは知らないけれど、生徒以外の部外者が学園に侵入しようとするのを止めるガーディアン役にもなってたから、ファンたちの見物はありがたい部分もあったんだよな。
そんな学生達を中心としたゾニュースのファン達の中にはすげえ濃い連中も居まして……。
推しの名前が入った揃いのユニフォームに身を包み、何やら光る棒を振りながら怪しげな踊りを最前で踊るんですよ。これもうまんま日本に居る熱狂的なアイドルファンの方々じゃないかっつーか……
(おい、これ教えたのラミィか!?)
(それがね……違うのよ。そっか、あんたはゾニュースの監視につきっきりだったから知らないのよね)
(むっ?)
(実はね……)
パンさんが言うことにゃ、アイリちゃん達ゾニュースを応援したい一新で生徒達が発起。秘密裏に応援用の衣装を発注し、その間必死に応援用の振り付けのレッスンに励んだのだという。
(その衣装を受注したのがラミィで、おまけにペンライト……もとい、光魔術を封じ込めた棒を付けて、使い方を教えてあげたら大喜びしたそうよ)
(いや言い直さないでいいよそれ……なげえしってか、結果的にやっぱラミィが関わってんじゃねえかよ)
(いやまあ、そうなんだけどさあ……でも不思議よねえ。ペンライトは兎も角として、揃いの衣装を作ったり、振り付け考えたりってのさ、自発的に芽生えてんだもん。どの世界も変わらないのね)
(そうだな。それに関しちゃ俺もびっくりだ)
いやほんと、なんと言いますか。最初の頃と比べたら大違いだよね。その日生きられればいい、それ以上を求めない、寧ろそれ以上の生活を想像できない……。
そんな感じの停滞した文化に生きていた連中がさ、ちょーっと俺が背中を押してやったら、こうして次々に新しいものや文化を自分たちで生み出せるようになったんだよ。
アイドル文化っていうか、歌の文化もさ、こうして世に出た以上、次々と模倣する奴らが現れると思うんだよね。各地でライブが行われたり、酒場で歌うやつが現れたり。
そしたら楽器もどんどん開発されていったり、録音の魔導具やCD的な役割を果たす魔導具が生まれたりするかも知れない。
ただノリだけで、半分遊びの感覚で色々やって来たけど……そろそろ最後の仕上げに取り掛かっても良い頃かも知れないな。
……あと3ヶ月もしないうちにあの日から2年だからな……。
パン(ジャーンどころか日付が飛んでるじゃないの!)
ユウ(うるさいなあ。そういうメタ的な事を言ってはいけませんよ)
パン(どの口下げてそれ言うのよ……)
ユウ(しかし、カズ達はどうしてんだろうな)
パン(露骨に話を変えたわね)
ユウ(いやいやマジでさ。アッチの情報とかねえわけ?)
パン(うーん……それが、ブーちゃんの奴、本気で楽しみたいみたいでね、互いに情報見られなくしてるのよ)
ユウ(……ここってお前の世界だよね? 権限が無いはずのブーちゃんが好き勝手できてるよね? 大丈夫?)
パン(や、優しい声ださないでよ!……ブーちゃんは何ていうの? 天才だからさ……平気な顔でこう、普通できないことをやっちゃうっていうか……できちゃうっていうか)
ユウ(……敵にしてはいけない存在ってこったな)
パン(そういうこと……)




