第五十一話 モル丸改造計画
「げっ、また私が知らないスキル芽生えてる!」
相変わらず自分の世界を制御し切れてない女神様だ。
「それを創造主様(笑)に言われると俺も困るんですが……」
「今(笑)ってつけたでしょ?分かるんだからね!まあいいわ。どれ、スキルの解析してみるわね」
【吸成長】吸収の上位スキル。吸収したものより取り込む経験値の効率を上昇させる。
「うわ、すげえなこれ!日々コツコツと女神のいろんなもの吸収したのが良かったのかな?」
「ちょっとやめてよ!!!ばか!!!!」
「何に怒ってるのか分からないんだけど?女神様の加護を受けた水とか、女神様の加護で育った野菜とか食ってたらこうなるのかなあって思っただけなんですけど?」
「あ、そう、そうね!!!」
「まあ、もっとダイレクトな加護もうけてそうだが」
「もおおおおおおお!!!やっぱわかっていってるでしょ!!!」
「ん?何を?いやほら、たまに撫でてあげてるから、そこで加護がとかさ」
「そ、そおお?そう、そうね!うん!そうね!」
ギリギリの線でからかってやった。もう少し遊ぼうと思ったが、失敗すると暫く口をきいてくれなくなりそうなのでこの辺で。
「ところでさ、このスキルこのモルモル…ダンジョンから来たモル丸っていうんだが、こいつにも芽生えないかな?」
「ルー様、女神様、ダンジョンから参りましたモル丸です。いつも来て下さりありがたき幸せ!」
「あ、どうもどうも。良く分からないけどなんかあったの?」
◇
詳しいパンに詳しい経緯を伝えた。ルーちゃんにもダンジョンコアとして居て貰おうか迷ったが、こう言うゴタゴタはまだ早い。
もう少し大人になってから自分の力でなんとかさせたいと思ったのでクロベエと二人散歩に行ってもらった。
「なるほどね…あの妖怪ども、裏でそんなことを…」
「それでさ、モル助はここの守護者ってことになってるから行かせるわけにはいけないし、モル丸にもこのスキルが芽生えるならそれに超したこと無いなって」
「それもそうね。スキルの芽生えも興味深いし、試してみましょうよ」
そしてモル丸改造計画は始まった。生体実験みたいでアレだが、モル丸からしてみれば食事を摂ってるだけなのでなんとも思わないらしい。
早くなんとかしてやりたかったので、パワーレベリングだとばかりにとにかく効きそうなのを色々食わせてみた。女神出汁が効いた水と薬草から作った回復ポーション、毒消しポーション、魔獣の肉に摂れた野菜。小一時間ほど食わせたところ……
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名前:モル丸
職業:モルモル(塩のダンジョン)
LV:6
体力:229
魔力:48
スキル:溶解 吸成長
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しっかり吸成長を覚えていた。最初はパンと二人パラメータをチェックしながら丁寧にやってたのだが、だんだんと面倒になり適当に色々やった結果、何がスキル取得に繋がったのか分からなくなってしまった。きちんとデータを残しておけば今後何かあったときに楽だったのだが後の祭りだ。
それについては俺も悪いと思ってるし、パンもそう思っているのか互いに話題に出さないで居る。
「す、すげえな!ちゃんと吸成長覚えたね!」
「そ、そうね!おぼえたねー!」
話題に出しても互いに得をしないのでその話題に至らないよう互いに慎重だ。
「でもこれじゃまだ妖怪どもになめられるな。この調子でやってれば間違いは無さそうだが時間がもったいねえ。もっと色々…モル助に喰わしてないようなのもやってみるか」
そこでモル丸には悪いと思いつつ、成長のためだとばかりにデタラメに色々与えてしまった。
空き缶や紙パック等地球産のゴミは念のためにパンに頼んで消却して貰っているのだが、どうなるか気になったので空き缶を与えてみたところ、
「おお、この鉄はいいな、何か漲るぞ!」
と、言っていたため、どうやら地球産のゴミは経験値的に旨いようだ。モル丸のため、仕方なくパンと二人昼間からビールを開け空き缶を作った。
「モル丸!待ってろ!今経験値作るからな!」
「んぐんぐんぐんぐ…プハア!はい、経験値!もっといるわね!」
「あるじ……、女神様…!我の為に…!この恩は!」
決してモル丸をダシに昼間からビールクズをやってるわけではない。こうでもしないと空き缶というこの世界におけるレア素材は手に入らないから仕方が無いのだ。
「よーし!おじさん元気出てきたから張り切って喰わせるぞー!」
「おー!」
アイテムボックスにため込んだ素材をどんどん喰わせていく。木材によくわからん草、ノリで取っておいたよく分からん木の実!
パンもゲラゲラ笑いながらシャンプーに石けん、コロンに化粧水などでたらめに喰わせている。
してとどめとばかりに与えた魔鉄鋼、これがまずかった。
「ちょ、ちょっと!ユウ!なんか光ってるわよこの子!?」
「え、ええ?ああ!光ってるな!お前がさっき石けん喰わしたからだろ!?」
「何言ってんの!明らかに今あげた魔鉄鋼が悪いんでしょうが!」
だんだんと強くなる光に思わず伏せてしまう
「ば、爆発するー!!!!!」
「きゃーーーーーー!!!!」
しませんでした。
光が収まると二回りほど大きくなったモル丸がそこにいた。いや、モルモルなのかこれ…?
鈍く輝くガンメタの丸い姿、中央には変わらずつぶらな瞳。しかし滲み出る強者のオーラ。
「おお…力が漲る!主!女神様!凄いぞこの力!」
元々パワー系の匂いがする口調だったが、ますますそれらしくなったような気がする。と言うわけで改めてパラメーターを見てみよう。
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名前:モル丸
職業:魔鉄のモルモル(塩のダンジョン)
LV:28
体力:870
魔力:391
スキル:溶解 吸成長 癒やしの香り 斬撃耐性 射撃耐性 奥義【鋼落とし】
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「……」
「……」
ちょっとやり過ぎた感ある結果が表示されていた。
「ええと……、斬撃耐性に射撃耐性ってやべえなこれ……」
「耐性だから通らない訳では無いけど、厄介なスキルね。それにこの鋼落とし!飛び上がって硬質化した身体を落とすんだって。潰されたらただじゃ済まないわね-」
「だよな…かなりエグいぞこれは…そしてみろよ!この「癒やしの香り」!まさか回復スキルまでもってるのか?手に負えんだろこれ……」
「あ、ああ……大丈夫。それは良い匂いがするだけ」
「え?」
「多分シャンプーやコロンから芽生えたスキルね。パッシブスキルで常時良い匂いがするの。ほら、いい匂いしてるでしょー」
「嬉しそうに言うな!つーかしょうもねえ……」
ともあれ、かなり強化することが出来た。ルーちゃんには「1階層のリーダーを作ったよ」と経緯だけ省いて話してフロアマスターとして登録して貰おう。
最初はモル丸に喧嘩を売る愚か者もいるだろうが、何度か斃されてるうちに懲りて平和になるだろう。
ただ、妖怪どもが暇を持て余してるのも事実だ。丁度フロアマスターも生まれたことだしそろそろアレを実行してガス抜きをさせてやってもいいころだな。