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第五百十七話 赤い○○

 ゴクリ……と、俺の喉が鳴る。美味そうな飯を前にした時の歓喜なる音では無い。これは、格上の相手を目の前に、絶望を感じつつも攻めなければいけない、此方から行かなければやられてしまう、そんな気持ちの時に鳴るアレだ。


 視線の先に揺らめくは血の池地獄の如く赤く揺らめく液体だ。恐らくはスープなのだろうが、立ち上る湯気が鼻先を掠めただけでブワっと汗が噴き出してくる。


 ゴクリ


 再び喉が鳴る。


 その音が聞えているのか、居ないのかは知らないけれど、周囲のプレッシャーが、はよ飲むんだよと言うプレッシャーが俺に重くのしかかる。


 畜生! 死なば諸共じゃい!


 木さじをスープ?に潜らせ、赤き液体をすくい取る。思った以上に粘度が高く、もったりとした確かな手応えを感じた。濃いめのカレーやシチューの様な塩梅と言えばわかるだろうか。


 赤い色の他に確認出来た物は、何かの肉片と野菜かハーブかわからないが何かの植物らしい緑の物体。さあ、ここまで来たらば逃げることは出来まい。


 料理を挟んだ向かい側にはアイリちゃんの期待たっぷりの眼差し。左からはパンからの早く死んでくれと言わんばかりの眼差し。


 ああ、わかったよ。今……そっちへいくからな……!


 えいやっと木さじを口に運ぶ。


 ……


 …


「……うまい」


「は?」


「お?」


 パンとアイリちゃんの声がハモるように聞えた。前者はあり得ないと言った、後者はやるじゃんと言ったニュアンスを含んだ声である。


「いや、これうまいぞ。肉の味がたっぷりとしみ出していて……あれかな、骨を煮込んだのかな?」


「おお、おお!その通りだ!ガーベと言う大きな魔物の骨をな、三日三晩かけて煮込んだ汁を使っているのだ!そうか!わかるか!」


「そうだな、牛のテールスープのような濃厚な味と言えばパンにもわかるか? そして何より香り付けに使われているだろう香草が素晴らしい。ケモノ臭さを完全に消して居るばかりか、爽やかな風味すら感じさせる」


「凄いなお前は!そうだよ!ガーベの骨を煮込むと臭みが出るからね。シャーリを刻んで入れてるんだ。シャーリは強い香りを出すから丁度良いんだよ」


「……ほ、ほんとうに大丈夫なの?」


「大丈夫って何が? いやこれ美味いぞ。色は気にせず食ってみろ!」


「……そう? ううん、そこまで美味しそうに食べてるのを見ちゃうとよだれが出ちゃうわね……じゃ、いただきます」


 なんだか妙に照れくさそうな顔でパンが木さじを口に運ぶ。散々食えなさそうであると遠慮した手前、少し恥ずかしくなったのだろうな。はは、そんくらい気にすること無いのにな。


「……ッ!?」


 急激に赤く染まるパンの顔! さじを持つ手は痙攣し、全身から凄まじい勢いで汗が噴き出している。ふふ、そうだろう、そうだろうとも!辛いよな!辛いよなあ!


「衛生兵!」


「えっと、私で良いんだよね? ほら、ママいまなおして上げるからね……エクストラヒール」


 ゴホガハと大いに咳き込んだパンが蘇生を果たし、凄まじい形相で俺を睨んでいる。なんだろう、俺はそんな目で見られるいわれは無いのだが?


「な、なに……ごほっ……超鈍感系主人公みたいな事考えてるのよ……か、辛いじゃ無い!辛いじゃないの!すっごく!すっごおおおおく辛いじゃないのおおおおお!!!」


「ああ、やはりお前には無理だったか。ウチらの集落でも子供らにはこれは食わせないようにしてるからね。成人の儀を済ませた連中でも食えない奴がいるくらいさ、いやあユウはホント面白い奴だな!」


 ……そんなもんを客に出すな!っと、突っ込みたいところですが、俺には実害はありませんし、パンが大いに痛めつけられたのは愉快でしたので不問としましょう。


(なんでそんな涼しい顔してられるのよ!あんただって辛かったはずなのに!)

(ふふ、馬鹿め!この料理がクッソ辛いのはお見通しだ!ならば辛み耐性を一時的にあげて挑むまでよ!)

(……なっ!ほんとだ!隠しパラメーターの辛み耐性がカンストしてる……)

(お前が要らん改造をコツコツと俺に施したせいか、隠しパラメータなんぞにもアクセス可能になったからな!)


(くっ! ユウ……恐ろしい子!)


 てな感じで、辛み耐性を揚げればどうとでもなるという事に気付いたパンさんは、その後、自らも耐性を上げると改めて美味そうに出されたごちそうに舌鼓を打っていました。


 ナギサちゃんは何故かそのままでも涼しい顔をしていましたので、子供達やウサ族の連中には俺がこっそりと辛さ耐性アップの魔術をかけてやり、辛すぎることを除けば結構美味しいエルフ族謹製料理を楽しむことが出来たのでありました。


「いやあ、最初は失敗したかなと思ったけどさ、あんたら慣れるの早いのな!うちらの飯を美味そうに食って貰えて本当に嬉しいよ!」


「びっくりするほど辛い……口の中が痛くなることな。辛かったけど、ちゃんと美味しかったよ。俺達の飯はどうだい?」


「ああ!カレーとか言う奴は最高だし、それ以外のやわらかい肉やサクサクとした肉も滅茶苦茶美味いよな!」


「カレー以外はそこまで辛くないけど、物足りなくなかったかい?」


「辛い……火炎味の事だな。いやあ、火炎味はしょうが無い事だと思ってるからさ、成人まで慣れるように努力するくらいでさ……正直な話しを言わせて貰えば、普通の飯のがうちらも好きなんだよな」


「ええ……」


 じゃあなんでこんなに辛い飯を作ってしまうのだろうか!俺達は訝しんだ……じゃなくて、これはちょっと色々お話を聞く必要がありそうですよ。



パン(ほんっとアンタにはしてやられたわー)

ユウ(はっはっは。いくら俺だってあんなの食ったら死ぬわい!)

パン(そんなのをあたしに食べさせるなんてどんだけ外道なのよ!)

ユウ(ちゃんと抜け道教えてやったんだから許しておくれよ)

パン(しょうがないわねえ……まったくもう……)

ブー(イチャイチャしてるところ悪いんだけど-)

パン(ぎゃー出た!イチャイチャしてないわよ!)

ユウ(なんすかブーちゃんさん!心臓に悪いんで急に出ないでくださいよ!)

ブー(ううん?貴方たち、誰か忘れてない?ほら、向こうを見て?)

ユウ(誰か……?あっ)

パン(カズ君が……真っ赤になって……)

ユウ(し、しんでる……)

カズ「ごほっがはっ!み゛ず……み゛ずを゛……」

ユウ(以外と頑丈だなあいつ……)

パン(そうね……大分鍛え直したよう……ってエクスヒールっ!ふう……ギリね)

ユウ(ああ、今ちょっと魂抜けかけてたな……まったくなんて恐ろしい料理なんだ……)

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