第五十話 ダンジョンのなやみ
クリスマスという重要ミッションを終え、今日は作業をせずのんびり過ごそうと決めていたのでリビングでだらだらしていた。
この世界には暦の概念が存在しない。「明日」や「明後日」という概念はかろうじてあるし、ざっくりとした時間の概念もあったため、今のところはそこまで困っていないのだが、季節の設定もいい加減なのと相まって決まった時期に行うイベントというものが存在しない。
辛うじてスマホのカレンダーがあるため、なんとか理性を保っていられるがそうでも無ければ少し精神が耐えられなくなっていたかもしれないな。
もう年越しだというのにそんな概念も無いから集落もきっといつも通りだろう。これから建国に向けてコツコツと遊びながら仕込んでいく予定だが、暦は早いうちに導入した方が良いかもしれないな。
「主よ、少しお時間を取らせて貰って構わぬか」
モル助だ。彼?とはちょいちょい雑談をすることはあるが、こうやって俺に相談してくるのは珍しい。何か困ったことでもあったのだろうか?
「ん、丁度暇してたとこだよ。どうしたんだい?」
「それが、ダンジョンの事なのだがな……、本来ならルー様にお話すべき所なのだが、状況が状況だけに先に主に相談したかったのだ」
細かい改善案等をルーちゃんに話しているのは見たことがある。その殆どが些細なこと―魚の種類がもう少し欲しいとか、嫁に逃げられたとか、キウリを寄こせ等しょうも無い相談が殆どで微笑ましく眺めていた。それが俺に相談となると話は別だ。ダンジョンで何か困ったことが起きたのか?
「なんだか穏やかじゃ無さそうだね。いいよ、話してくれ」
「実は……、ダンジョンの環境に甘やかされたのか住人がだんだんと我が儘になってきているようでしてな…、今日はルー様の許可を取りあちらより同胞を一人連れてきてます故、おい、頼むぞ」
「あるじ はなしを きいてくれ」
「はい、ちょっとこっち来てね!」
ダンジョンモルモルを小脇に抱え風呂に向かった。
「はいドボーン!ちょっと30分くらいこの水浄化しててくれ!」
「どうして? あるじ われの はなしを さきに」
「いいから!暫くしたら迎えに来るから!そうすればわかるから!」
◇◇
30分後、女神出汁が効いた風呂からあげたモルモルは心なしか精悍な顔つきになっていた。
「おお…これは!凄いな!我の頭が冴え渡るぞ!あるじ!感謝する!」
うむ、これで話が聞きやすくなった。厳密には女神印のフィルターによってかけられた加護がかかった水の効果ではあるが、モル助がいう「女神の出汁」がどうにも気に入ってついそう呼んでしまう
「さて、改めて話を聞かせてくれ。あ、ちなみにお前は今からモル丸を名乗るがいい」
「おお…名前まで…ありがたいぞ!あるじ!では、我がダンジョンの惨状を聞いて貰いたい!……」
と、モル丸が話してくれた内容はなかなか面倒な状況だった。快適な環境に旨い飯、その環境は何故か外よりもパラメーターを底上げし身体を持て余すようになった。
そこで調子に乗った連中が喧嘩の売り買いをするようになり、ちょいちょい小競り合いが起きているのだが、それ自体は元の沼地でもよく有ることなのでいいらしい。問題はそうやって生まれた一部の強者が餌場を独占してしまうことだった。
同じダンジョンの住人として仲良くやっていきたいのにそれは困る、何よりルーちゃんの「みんな仲良く」の信念に背く行為だ、モル丸はそう憤っていた。
ルーちゃんに進言したこともあったらしい。しかし、ルーちゃんがいる間と、それから暫くは大人しくしているのだが、一度調子に乗った連中はそう簡単には元に戻らない。暫くするとまた暴れ出してダンジョンの空気が悪くなっているとのことだった。
「なるほど…それは不味いな。ルーちゃんだって常駐するわけにも行かないし、誰か統率者になれるようなものでも居ればな…」
「同胞の悩みは本来ならば我が行って解決するのが筋であろう。女神様の加護により魔族に劣らぬ知性と、力を手に入れた。我が行き平定すればそれでいいのだが、我にはこの屋敷を保護するという命がある故…」
「モル助…お前の気持ちは分かる、しかし例え俺やルーちゃんが許可をしてダンジョンに配置換えしたところで連中に勝てるのか?なかなかの強者もいたはずだが」
「それがな、主。我はどうも強くなったらしいのだ」
そう言われて疑いながらステータスを見させて貰う
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名前:モル助
職業:屋敷の守護者(塩のダンジョン、ユウの家)
LV:18
体力:429
魔力:680
スキル:溶解 吸成長 水流操作LV2 水魔法【水鉄砲 壱】
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オイオイなんですかこれは。
パラメータ見るたびにびっくりしてる気がするが、しょうがねーだろ!
やたらレベルが上がってるのと、水魔法覚えてんのはまあいい、よくねえけどいい!「吸成長」ってなんだこれ。
ルーちゃんと畑に出ているパンを呼び出して事情を聞かねば。