第五百十六話 グダグダと実食に
ドン!
ドドン!
てな具合の効果音が聞えてきそうな雰囲気が漂っています! わたくしの前方には腕組みをして険しい表情を浮かべたアイリちゃん!
その対面にはわたくしユウもまた、それに対抗するかのように腕を組んで不敵な笑みを浮かべちゃったりしているわけですが!気分は「らあめん」を出すお店の大将ですわ。
「……どうやらお前らも支度が終わったようだな」
「ああ!お前達の赤い飯と俺達の不思議な飯!どちらが美味いとかそう言うのはどうでもいい!楽しい宴にしようじゃないか!」
「どうしてウチらの飯が赤いって知ってるんだ?」
「……どうしてだろう?」
アイリちゃんが訝しんでますね。そりゃそうだ。ずっと離れた森の中で飯を作ってたはずの俺が、エルフ族の強そうなお姉さん方に見張られていてその場から動いていない事が確認されているはずの俺がアイリちゃん達の料理なぞ知るわけがないのですから。
「……くそ!まあいい!難しい事を考えると頭が熱くなってくるからな!腹も減ったしさっさと宴を始めるぞ!」
「「「おおおおお!!!」」」
(まったくあんたは要らないところで変に口が滑るんだから)
(いやあ、どんな反応するのかなって思ったら言わずには居られなかった……)
(わざとか!?)
わざとです。
というわけで、ぐだぐだして参りましたが、宴のお時間と相成りました。
広場に大きな敷布が敷かれ、どうやら料理はその上に直接置かれていくようですね。
俺とパン、フィーちゃんルーちゃんは代表一家と言う事で、アイリちゃんやその家族?と同じ場所に。カズとナギサちゃんはマイちゃん達お付きの人達と同じ場所へ。
残りのウサ族達は配膳係として料理の前に陣取っています。
ウサ族の皆さんは俺達代表グループに食事を運んだ後は、それぞれの料理を取りに来た皆さんに配膳する係りとして頑張って貰う事になっています。ある程度料理が行き渡って余裕が出てきたら交代で適当に食べるように言っておきましたので、彼女達も研究のために赤い飯を美味しくいただく事でしょう。
というわけで、我々の前に双方の係達がせっせと料理を運んできまして……中々に豪華な事になっています。
……なんだろうな。いや、予め知っては居ましたけれども、こうして赤い皿がずらずらと並ぶ様を直に見るとこう、中々に壮観ですな。食べる前から汗が凄い勢いで噴き出してきます。
「ふむ。お前らの飯はなんだか変わった色をしているな。汚い色だというのは聞いていたが、何やら地味な色をした料理ばかりではないか」
「汚い色……まあ、気持ちはわかりますけどね。アイリちゃん達の飯はまた……総じて赤いですね!」
「ふふ、よそ者の飯を食うという事はこれまで無かったことだからな。色は兎も角として楽しませて頂くぞ!」
スルーですか!そうですか。
そんな具合で実食のお時間となりました! 右を見ても赤!左を見ても赤!さあ、そのお味は!
お味は!
……
(ちょっとあんた!食べなさいよ!)
(いやあ、パンさんが食べたのを見てからかなって)
(卑怯者ね!)
(何とでもいえ!)
ルーちゃん達は……と、様子を見てみれば、美味しそうにカレーライスを食べていますね。おいおい、ルーちゃんそれは僕らが持ち込んだ御飯じゃ無いか。
いやまあ、可愛い娘に毒味をさせるのはどうなんだって思いますけどね……。
こんな時に役に立つのがカズ! 奴とは席が少し離れてしまいましたが……どうしてるのかな?
……口を押さえて虚空を見つめていますね! これ以上に無い程分かりやすいリアクション! ナギサちゃんは……なんだか嬉しそうな顔をして食ってらっしゃる!
彼女はゴリラなので参考になりかねますが、一応食べられるレベルではあるのか……いってえ!
「ユウさん!ラッツを絞ると美味いよ!」
「あ、ああ……ありがとう」
ラッツ……は表皮が硬いのでこうして投げられるとクッソ痛えんだぞ……。確かにレモン的な使い方が出来ますからね……言ってることは正しいんですけれども。
「へえ!この汚い色の飯、以外といけるじゃ無いか!」
「それはカレーって言うんだ。白いライス……米と一緒に食うとうまいぞ」
「ああ、これ何の味もしねえから首を捻ってたんだよ!……うん!なるほどね!一緒に食べるとまた違う旨さがあるね!」
そう言うのが好きそうだなって思ったんで、途中からやや辛めに調整しておきましたけれど、顔色一つ変えず、美味そうにかっ込んでいます。
何といいますか、思ったよりリアクションが薄いと言いますか。もっとこう『な、なんだこれは!? 味わったことの無い深みのあるおあじだ! これは神々の作った料理に違いない!』みたいなね? 異世界クッキングあるあるが今回もあるかな?って思ったんですが、普通に旨い飯を食った感じのリアクションでちょっとだけ残念ですね。
と、アイリちゃんが此方をワクワクとした顔でじっと見つめていますよ。これはあれだな。あちらさんはあちらさんで此方のリアクションを楽しみにしてらっしゃるんだなあ。
……ですよね、流石にそろそろ手を付けないと失礼に当たりますね……しょうがない、ここはやはり俺が先陣を切って頂くことにしましょう。
スープっぽいのはスリップダメージが長く続きそうですので、お好み焼きのような、パンケーキのような赤い物から食べてみましょうか……。
もぐ……もぐ……ああ、なんだろう、なんだろう! 不思議とふわっとしていて、何かベリーのような甘酸っぱさがとても美味しい感じなんですが、なんでなんだろう? なんでこうしちゃったんだろう?
美味しいパンケーキを食べていたらすげえ勢いでカプサイシンが追いかけてきた! そんな感じの味わいですよこれは! 辛い! 控えめに言ってもすげえ辛い!
「ど、どうなの? なんだか神妙な顔をして食べてるけど……」
卑怯者が何か言ってますね。
「赤いからちょっと構えたけどさ、これベリーっぽい甘酸っぱさが中々に美味しい感じですよ」
「ほんとう?」
「ほら、仄かにベリーの香りがしてるじゃん」
「確かに。なるほど、赤いのはベリーの果汁由来の色なのねえ」
なるほどですよーと言った顔でパクリとパン=サンがいきました!もぐもぐと噛みしめ、あらほんと!美味しいじゃないの、といった表情を浮かべた瞬間……くわっと目を見開き、俺の方を向きましたよ。
「~~~!!!」
声にならない声をあげ、俺の肩をすげえ勢いでドスンドスン叩いていますね!はっはっは!俺は多少の辛さ耐性があるんでな!貴様を騙すのなんて軽いものですよ。
「どうだ?うまいか?」
心配そうな顔でアイリちゃんが声をかけてきました。その手に持ったフォークにはヒッグ・ホッグのカツが刺さっていて、どうやらそれもお気に召したような感じですね。
「ええ、ちょっと辛くてビックリしましたが、これはこれで嫌いな味では無いです」
嘘は言っていない。
「からい……? ああ、口の中がカアっとする奴だな。それが好きならそちらの汁物も飲んでみると良い。それはまた違ったうま味があるからな」
……赤い沼のような椀が俺に飲めと手招きをしている……ッ!
顔を近づけただけで目に染みる謎の汁物! 俺は生きて帰れるのだろうか!
パン(おら!あく食うんだよ!)
ユウ(うるさいですね……今度はお前から先に食ったらいいだろうが)
パン(まだ口の中回復しきってないから無理!)
ユウ(律儀にちゃんと食おうという姿勢は良いと思うが……人任せかよ)
パン(折角作ってくれたんだから食べるのが礼儀でしょうに)
ユウ(そう言うとこ以外としっかりしてんだけど、基本残念だから救えない)
パン(うるさいわよ!?)
ユウ(ま、どうせ辛いんだろうけどさ、パンケーキ?も美味かったし、いっちょ食ってみますかね)
パン(当て馬系勇者のセリフみたいね。これから酷くやられる奴のセリフだ)
ユウ(そう言う事言うんじゃありません!)




