第五百十話 ※まだ着きません
マイちゃんが歌うように仲間に連絡を入れると、間もなく何処からともなくキレイな歌声が返ってきた。
俺達にはそれがどういう意味なのかはわからなかったが、ただただひたすらに心を穏やかにさせる良い声で、なんだかとってもうっとりと聞き惚れてしまった。
「よっし!オヤカタの許可がとれたぞ!予定通りこれからお前たちをウチらのナワバリに連れてってやる!」
オヤカタにナワバリときたか。そんでもってモノノフとか言ってたっけね。なんだか可愛らしい見た目にキレイな歌声なのに物騒な娘さんじゃ。
なんてことをヒッソリと考えつつ、案内するマイちゃんの後ろに続く……と、なにやらパンさんが難しい顔をしています。
「どうした?うんちしたいの?」
「ばっ! ばか!違うわよ!ていうか女神は清いから排泄とかしないの!」
「そうか。じゃあぶーちゃんにお願いしてお前が行ける範囲のトイレ全てにお前避けの結界をはってもらうか。用もないのにトイレに入られちゃかなわん。」
「ぐ……ぐぐぐ……!」
まだまだ甘いですな。っと、ついつい引っ掻き回してしまったけれど、そういうことじゃねえんだ。
「まあ、それは今後の議題にするとして」
「しないで!?」
「難しい顔してたけど、何か気になることでもあったか?」
「……っ!そ、そうだわ。今のアホみたいなやり取りで忘れかけたけどさ……あ、ちょっとあっちに切り替える」
耳元に顔を寄せてそんな事を言うもんだから、とってもくすぐったい!べ、べつにドキドキなんかしてないんだからね!
(……何変なこと考えてるのよ……)
(くっ!念話に切り替えると思考もそのまま漏れちまうんだ!)
(いいから!あの子、きっと耳もいいからさ、こっちの方が都合いいでしょ)
(なるほど、そういうことか。確かに)
あの子というのは言わずもがなマイちゃんだ。女神様的になにかマイちゃんに思うところがあって難しい顔をしていたのか。
(でね、この世界の創造主的にね、凄く気になることが有るのね)
(ふむふむ。この世界の事をろくにしらねえ創造主様、気になることとは?)
(くっ!いちいち!こいつは!……ねえ、あたしがあんたに上げた加護のこと覚えてる?)
(ええと……スマホで敵を撲殺する能力と……スマホで環境破壊する能力と……)
(違う!違わないけど違うでしょ!もっと平和的で普通なのがあったでしょ!スマホ以外に!)
(ええ……?あ、ああ。不老不死属性と、後なんだっけ……ああ、お約束の言語スキルか)
(イグザクトリィ!)
(お前それ言いたいだけちゃうんかと)
(ごほん!それよ、それ!言語スキルよ!それが有るのにさ、歌声連絡の内容がわからないの不思議じゃない?)
(何だ、お前真面目な顔でそんな事に悩んでたのか)
(はあ? だって不思議じゃないの!あたしだってあの意味わからないのよ?)
なるほどね。そりゃ確かにあの歌声の意味はわかりませんよ。俺にはね。でも、きっとパンさんならその気になればわかると思うんですけどねえ……。
(え?その気になればわかるって……どういうことなの?)
(地の文を読むな! そうだなあ、説明も面倒くせえし……シュシュシュっと、召喚!)
スマホを軽やかに操り、召喚コマンド――メールを送りました。その対象は……
「やっほー!ユウ!ママ!みんな!」
突然現れ、俺とパン以外を驚かせたのはルーちゃんです。あの歌について説明をするのであれば、俺が思っている通りの理由であればこの子が適役でしょう。
「なんでまたルーちゃん呼び出したのよ?」
「まーまー!ちょっと見ていてよ!」
「そんな料理漫画の主人公みたいに……」
くっ!ちょっと面白いツッコミやめろ!……と、グダる前に気持ちを切り替えてっと。
「なあマイちゃん。うちの娘が一人増えちまったんだが、もうひとり増えるって連絡入れてもらえないか?」
「あ、あんたらってのはなんだ? ちょっと番でイチャコラするだけでそんな大きな子が産まれるのか?」
「増えたってそういう意味じゃねえよ!家からここまで来たんだよ!」
「あ、ああ、そういう……」
なんて恐ろしい勘違いをしやがるんだ……まあ、大きな状態で産まれるってのは間違いではないけどな。ていうか、ここまで来たことにはつっこまねえのな……
『ラーリラルー♪ ルルルル♪ レラリラルーン♪』
(ルーちゃん、今あの娘がなんて言ってるかわかるかい?)
(え? 何って『報告より一人女子が増えるぞ』って言ってるよ)
(ちょ、ルーちゃん?なんで分かるのよ? ただの歌じゃないの!)
(なんでって……あ、そっかあ。あのね、ママ。あのお歌さ、モルモルなんかの言語と同じなんだよ)
(はいーーー?)
(ふふふ。俺はちゃんとそう推測してたからな。どこぞのぼんくらとは違うのですよ!)
(ぐ、ぐぬぬう!)
おさらいをしてみよう。今でこそモルモルは他の種族と会話が可能となっているが、それはルーちゃんの加護だったり、魔導具の力だったり、新たに芽生えたスキルの力によるものだ。
本来のモルモルは発声期間を持たないため、体を震わせることで生じる波形を使い、それを言語として意思の疎通を図っている。
……まあ、この事を突き止めたのは魔物博士のルーちゃんなのだけれども、そのルーちゃんには魔物に特化した様々なスキルが備わっているらしく、そういった特殊な会話方法を用いる魔物が何を言っているのか完全に理解可能なのである。
動物とお話ができるどこぞの先生が暗号解読スキルまで身につけた様な感じですな。
さて、マイちゃん達が連絡に使用している特殊言語はどういう仕組なのかといえば、アレは一種のモールス信号のようなものなんだろうと思うんです。
音階やリズムに意味を持たせ、風に乗せて仲間の元まで言葉を伝える特殊な言語。それは人間族や魔族が使う通常の言語と違い、どちらかといえば言葉を持たない魔獣達が使用する原始的な言語に近い物。
ならばもしかして……と、ルーちゃんを呼んで歌を聞いてもらったわけですが、ビンゴですね。
ああ、念の為に言っておきますとマイちゃん達は別に魔族というわけではありません。よくわかんねえけど、人類……それもエルフ族です……信じられないことに……。
なので特殊言語はこの見通しが悪く、移動がしにくいジャングルで生活しているうちに自然と身についた生活の知恵なのでしょう。
という感じで、同行者が一人増え、若干ぐだぐだとしてまいりましたが、楽しい楽しいフィールドワークをしているうちにどうやら目的地に到着したようです。
「ここがウチらのナワバリだよ。オタチダイに皆集まっているから、取り敢えずそこにいこうか」
オタチダイ……一体どんな場所なんだ……!
パン「はー……まさか、ルーちゃんが暗号解読出来たなんてね」
ユウ「お前ね、世界の事は兎も角、娘のことはキチンと把握しておきなさい」
パン「ぐぬぬ……まさか【自動翻訳】があの歌にまで効くとは思わないじゃないの」
ユウ「でもさ、自動翻訳が効いてるんなら、なんで俺達にはわからなかったんだろうな?」
パン「そ、そうよね。ルーちゃんが来たなら、周りの私達にもその意味が通じるはずなのに」
ルー「え? 確かにスキルで同時翻訳できるけど、流石にオンオフできるんだよ?」
ユウ「うん?」
ルー「聞いたそばから周りに喋っちゃったら暗号の意味が無くなるでしょ」
パン「なるほど……というか常時発動してたらルーちゃんも大変だもんね」
ユウ「言われてみればそうか……魔獣だらけの場所じゃずっと消耗しっぱなしになるもんな」
パン「珍しくためになる反省会だったわね」
ユウ「ほんとにな……」




