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第四十九話 クリスマス

(目標の睡眠深度 50で安定、熟睡と判断)


(よし、突入する)


 管理者権限でステータスを確認してまで熟睡を確認する怪しい人影、そう女神リパンニェル。


 大きな謎の箱を持った男がルトの枕元に忍び寄る、そう成瀬 結。


 現在最重要ミッション中の二人は念話でやり取りをしている。ユウにそのスキルが芽生えたわけでは無い。一時的に女神の力で使用可能になっているのだ。


 忍スキル【無音足】と忍スキル【気配遮断】まで一時付与されたユウはこの時間のみ優秀な忍となっていた。


 その装束はこの世界では未だ見ることが無い白と赤の暖かそうな服で、顔には白い綿のような面をつけている。


(あ!やばい!ルーちゃんの睡眠深度が急激に変化してるわ!現在20!はやく!)


 そっと物音を立てないよう、枕元に"箱"を置き、ベッドから遠ざかるユウ。


 ルーちゃんの様子を確認し、そっとリビングに戻っていった。


「はー!緊張した。どうせ寝てるのにあの服必要だったかな……」


「ばかね、万が一起きたときも安心だし、なによりロマンじゃないの」

 

「そうだな、あの服を着てあの作業をするのはロマンである」


 現在、日本時刻で12月25日深夜1時、クリスマスの夜だ。おわかりの通り、我々「ルーちゃんにクリスマスを楽しませる」団は最終ミッションであり、最重要ミッションである「プレゼント設置」を無事終えたところだ。


「しかし、地球の文化とかよく知ってたな。俺より率先してサンタの用意してるの知ったときはびっくりしたぞ」


「地球はほら、魔力こそ無いけどほどほどに発展した世界で参考にしやすいのよ。特に日本人は変なとここだわって遊ぶ性質があるじゃない?だからちょいちょい遊びに…研究に行ってたのよね」


「ふーん、もっと高度に発展した世界を参考にしたり、そっから攫ったりすればもっと楽に世界の成長を促進できたんじゃ無いの?」


「例えばさ、ふとお部屋に水槽置きたいなあ,お魚飼いたいなあって思うじゃん」


「ああ、稀によくある」


「でもさ、機材とかわかんないから詳しい友達にお願いするわけよ」


「何となく話が見えてきた」


「アクアリウムのスペシャリストみたいな人に凄いの作って貰ったとするじゃない?海水水槽とかさ」


「まあ、お前じゃ維持できないよな。1ヶ月後にゃ一式フリマアプリで出品してる姿が目に浮かぶ」


「うっさい!でもそういう事なのよ……悔しいけど私には無理。せいぜいグッピーとエビがたゆたうかわいらしい水槽を維持するのが精一杯」


「エビをなめんなよ……お前ならエビも無理だ」


「たーとーえ!ってことで、地球の中世くらいならあんた帰った後でも維持できそうだし、いいかなって思ったのよ」


「理解したが、一つだけ言わせて貰うと地球には魔法や魔獣なんてものは存在しないから参考には出来ないのでは」


「ばかねえ、だからラノベ脳のあんたみたいのが異世界の神からターゲットにされるんじゃ無いの」


「納得した」


 こんな所で何故地球の、なかでもわざわざ日本の冴えない連中が攫われることが多いのか理解する羽目になるとは。



   ◇


 そして夜が明け、緊張の時間が訪れる。


 ルーちゃんタイマー(女神スキルの未来予知でルーちゃんが覚醒する30分前に俺とパンが強制的に起こされる)で酷い朝を迎えた我々は指定の位置にてターゲットの監視についた。


(こちらジーク、こちらジーク、ターゲット動き出しました)


(こちらビーナス、こちらビーナス、こちらでも確認、ターゲット動くぞ)


 むくりと起き上がり、ふわあと、小さく伸びベッドから降りようとしたルーちゃん。

 

 普段と違う様子に気がついた。


「なにこれ?なにこれー?ねえ!ユウー!まーま!おきてー!なにかあるよー!」


(こちらジーク、こちらジーク、突入する)


(こちらビーナス、了解、援護する)


 ターゲットに向かい突入する我々特務部隊、何も知らないと言う顔でルーちゃんに向かう。


「どうしたの、ルーちゃん。わ、その箱なんだい」


「わかんないの。朝起きたら置いてあったの」


「ふーん、なんでしょうね?あ、そうだルーちゃん見てごらん」


 と、言うと"ビーナス"は打ち合わせには無い行動に出た。


 目の前に浮かび上がるのは昨夜の映像。白と赤の装束に身を包んだジークこと俺がベッドに忍び寄り箱を置いて出て行くまでの一部始終が映っていた。いつの間に撮ったんだよ…。


「この赤い人が犯人なの?」


「ルーちゃん、私この人知ってるわ」


「あ、ああ、俺も知ってるぞ。あと犯人って言い方は適切じゃないな。悪い人じゃないよ」


「悪い人じゃないの?じゃあ誰?だあれ?この箱はなあに?」


「これはね、サンタクロース。クリスマスの夜にね、よい子にプレゼントを置いていくのよ」


「そうだぞ、俺が子供の頃も来てくれたぞ。その箱の中身はプレゼントだ、何が入ってるか開けてみたらどうだい?」


「うん!開けてみる!」


 バリバリと一気に行くと思いきや、丁寧に包み紙を剥がし箱を開けるルーちゃん。


 箱の中身を見た瞬間、くわっと目を見開いて声にならない声を上げていた。


「何これ何これなあにこれー?????」


「おっクマさんのぬいぐるみじゃ無いか。良かったなー」


「あら可愛い!小さなお友達が出来たわね-」


 俺の隠しスキル、「ぬいぐるみ製造」を使いこの世界の素材で作ったクマのぬいぐるみだ。


 何を隠そう、ぬいぐるみ作成は俺の趣味で、人に言うのも恥ずかしいから普段は内緒にしている。


 クリスマスが来るし、ルーちゃんにプレゼントをーって何をあげようか悩んだときにふと思いついたのだ。


 ガワはラウベーラの毛皮から作った素材、目や鼻はパンに拾ってきてもらった鉱石で出来ている。素材の加工以外は製造キットに頼らず縫い上げた渾身の作だ。


 小さなお友達、とパンは言っているが、ルーちゃんより少し小さい程度の結構大きなぬいぐるみだ。愛おしそうに抱きしめてるが、どっちが抱かれてるのか分からないくらいである。


「ねえ、まーま、ユウ、さんたくろーすって魔族なの?」


「えっ?ち、ちがうわよ?」


「す、凄いこというね。サンタは…そうだな、パン…ママに近い感じの人だと思うよ」


「そうなんだ……残念だな、もし魔族だったら使役してお友達になったのに……」


 さりげなく恐ろしいことを言う子供だ。サンタクロースを使役って。"友達"の基準もちょっと危ういな……。近いうちにリットあたりと会わせてみるか……。


「でね、お友達になったらここに召喚してね(よんでね)来年はユウとままの分もプレゼントちょうだいねってお願い出来たら良いなって思ったの」


「「る…ルーちゃん……」」

 

 目から熱いものがこみ上げる我々。


 ルーちゃんの言ってることはやや物騒だが、その思いやりに胸が熱くなった。


 ある意味立派なダンジョンコアらしく育ってると言えよう……。

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