第四百九十九話 カズくん別れの朝の衝撃
パチリと目を開けると、まだ太陽が登り始めたばかりで薄暗く、窓から外を見てみれば東の空が赤く染まっていた。
「この世界でもお日様は東から昇るんだな」
なんだか妙な事に感動しつつ、布団をきちんとたたむ。タルット達は『当番がやるからほっとけ』と言っていたけれど、今日くらいは礼儀としてやっておこうと思うんだ。
……布団をこうして上げたのは何年ぶりだろうな。自宅のベッドに敷かれてる奴は上げた記憶はないし、気づけばカーチャンが干してくれたりしてたんだよな……。
記憶と折り目を頼りになんとか布団を畳んだが、なんだかちょっと不格好だ。
……ま、許してもらおう。
井戸水で顔を清め、えっちらおっちら体操をしていると、ゾロゾロとタルット達がやってきた。
「おはようさん。なんや、早いなホームセンター」
「おはようっす。なんだか目が覚めちまって」
タルット達と並びラジオ体操のような何かを一通り済ませる。なんだかずっと昔からこうしていたような気がするけれど、ここに居たのは一週間にも満たないのだから不思議な話だ。
体操を終えたタルット達が屋敷周りの草むしりをするというので手伝うことにした。これは別に当番があるわけではなく、こうして気づいた者がチマチマとやるのだと言っている。
ひとりひとりが見て見ぬふりをせず、こまめに綺麗にしておけば後々楽である、そんな事を言っていたけれど、確かにそうだ。ゴミ箱からこぼれている紙屑に気づいても、何か面倒だからと放置をしていると、それが積もり積もって部屋がひでえことになるんだ。
そこまで来ると流石にカーチャンの雷が落ちるわけだが、そこでようやく片付けを始めると余裕で半日はつぶれてしまう。
タルット達の教えを守れば、俺もそんな目に合うことはなくなるんだろうな。うん、肝に銘じよう。
結構な量の草が生えていたが、全部で8人くらいでやったので30分もかからずに作業が終わった。
あまり動いたつもりは無かったけれど、背中にはじっとりと汗が滲んでいて、両手や膝は土でどろどろになっていた。やれやれ、また井戸で清め直しだなと思っていると……。
「よっしゃ、みんな!朝風呂いただくで。草取り組の特権や」
どうやらこうして早起きをして汗を流した連中のために朝風呂が開放されているとのことだった。ありがたいのでタルット達の後に続いて俺もあやかることにした。
「あ゛あ゛~……」
「妙な声だすなや」
「なんや湯に魂溶かしとるような感じやわ」
「ホームセンター……お前死ぬのか?」
「死なんわー!」
「「「わははは」」」
朝風呂いいよね……なんというか、明るい時間からのんびりと湯に浸かれる贅沢というか……。
「ホームセンター、お前この後どうするんや? 街に帰るん?」
「あー、どうでしょうね? ぶっちゃけこの旅って俺はナギサさんのオマケみたいなもんで、彼女が何処に行くか全部決めてるんですわ」
「なんや、良い御身分やないの」
「良い御身分……へへ、そうですね。あっちこっち面白いところに連れて行ってもらって、こうしていい出会いもあった。ほんといい旅させてもらってますわ」
この後何処に向かうのか、それは全てナギサさんの気分次第だ。街に帰るのかもしれないし、まだまだ何処かに向かうのかもしれない。でも、彼女がどんな選択をしようと、来るなと言われない限りは共に向かおうと思う。
俺はまだまだこの世界を知りたいからな。
「そうか、カズ。お前はまだこの世界に居てくれるのか」
「そう、俺はまだこの世界から帰れない……って、ユーサン!?」
びっくりした。湯に浸かりぼんやりと考え事をしていたら隣に怪しげな仮面が、ユーサンがいきなりいやがった。
気づけばタルット達の姿はないし、一体これはどういうことなんだ?
「なんかびっくりした顔してるけどな、タルット達はさっさと上がったからな? 俺と入れ替わりだよ。あいつら風呂は好きだが長湯が出来ねーんだよ。カッパだからな!」
……なるほど納得してしまった。
「……じゃなくて!なんでユーサンがここに?」
「なんでって、今日で農業体験も終わりだろ? 迎えに来てやったんだよ。ナギサちゃんも来てるぞ?」
「え!マジっすか!早く上がらなくっちゃ」
「まあ、待てよ。もうちょい付き合えや。どうせ朝飯までまだ時間は有るしさ」
男と長々と湯に浸かる趣味はないんだけど、まあ、上がっても手持ち無沙汰になるだろうし、何よりユーサンに逆らって上がるのは何か怖いので素直に従うことにする。
「なあ、カズさ、改めて聞くけどさ」
「はい」
「お前さ、まだこの世界に居たいと思うか? 帰りたいとは思わないか?」
のんびりとしているけれど、何処か真剣な声でユーサンが質問をする。
「ん……そりゃあ、帰りたいなって思いますけどね。でも、この世界はまだまだ知らないことがたくさんあるし、俺はそれを知りたいと思う。なんというか、知れば知るほど俺が変わっていけるといいますか……、なんだろうな。以前の自分が恥ずかしくなるくらいに成長できてるっていうか」
こっち来る前は、ダラダラと今日を生きれれば良いというような感じで過ごしていたし、こっちに来てからも何処か、ゲームを遊んでいるような感覚で適当にノリで生活をしていた。
けれど、色々な人達と出会い、様々な経験をしていく内にさ、なんだか以前の自分のダメさ加減に気づいたというか、なんというか……俺はまだまだこの世界で学ぶ必要がる、そう感じたんだよな。
「そっか。そっかそっか。カズ、お前ほんと成長したな!」
「いて、いてえっすよ!ユーサン!」
背中をバシンバシンと叩き、嬉しそうに笑う。
「……どうすっかなって思ってたけど、お前も結構成長したし……もういいかなあ」
「もういい?」
ザバリと音を立て、浴槽から上がったユーサンが洗い場に向かった。
「ああ、もういいや。うん、もういい! お前はこれからも暫くこっちの世界で暮らしたいみたいだしな。かー!この仮面さあ、めっちゃ蒸れるんだよな。しかもよ、つけてお前と話してると妙に鼻の頭が痒くなって…………はー!スッキリした!」
仮面を取り外し、バシャバシャと勢いよく顔を洗ったユーサン。そう言えばあの人の素顔、見たことがなかったな。
「ま、色々聞きてえ事や言いたい事は有るだろうが、そりゃ後だ。改めて俺達の世界にようこそだ! カズ!」
「ん……? って、あああああああ!!!ゆ、ユウさんじゃないかああああああああ!!!」
仮面の下に隠されていたその顔は、俺がよく知る頼れる親友であり、心の兄貴であるユウさんだった……。
パン「あーあ!バラしちゃった!」
ユウ「迷ったんだけどさ、キリがいいかなって」
パン「キリがいい?」
ユウ「うん。話数的にキリもいいし、そろそろ主人公返してもらおうかなって」
パン「一体何の話をしてるのよ!」
ユウ「はっはっは。いやあ、カズも成長したしさあ、なんか満足しちゃってね」
パン「ほんと、こっち来たときと比べ物にならないほど真人間になったわよね」
ユウ「俺もびっくり。悪戯のつもりだったのにいい事しちゃった気分」
パン「それで、正体バラしちゃったけどこの後どうするの?」
ユウ「んー、次回あたりで9章を終わりにしてさ、新章かなー。とりあえずカズのお話はひとまず終わりだ」
パン「だから何の話してんのよ……」




