第四百九十八話 カズくん 感動
湯に浸かり、サラリとした服に着替えて身も心も綺麗になった所でお楽しみの夕食に向かう。
ここに来てまだ3日目だというのに、なんだろうなこの実家のような安心感は。どことなく爺ちゃんちに雰囲気が似ているのも有るんだろうけど、なんだかすげーしっくりくるというかなんというか。
なんだかなあ、一緒に住んでいるのが美少女ではなくカッパの群れだというのに、我ながら不思議なもんだ。
「さって、今日のご飯は何かなあ……って、ええ?」
食堂に入ると、謎の横断幕が広げられていて……
『お疲れ様やでホームセンター』
と、大きな字で書かれていた。一体これは……?
「お!主役の登場や!ほら!お誕生日席に座りや」
なんだかわけがわからないまま、一番奥の席に座らされ、手にコップを持たされると、トクトクとビールを注がれる。
「あの、一体これは……?」
事情を説明してもらおうと思った瞬間、ロン毛のタルットが立ち上がりなにやら喋り始めた。
「みんな今日もお疲れ様やでーって、ちゃうわ! 今日はな、このホームセンター君最後の夜っちゅーことでな、慣れない農作業を頑張ってくれたわけやし、お疲れ会をしようと思う」
「ええぞー!」
「結局お疲れ様でええやんか!」
「ホームセンター!」
「ホームセンター!」
「え、ちょ、なに?なんなんです?」
何やらよくわからんまま、謎のホームセンターコールが始まってしまった。っていうか、最後の……夜?
「何やお前ユウさんから聞いとらんのか? 今日で無事収穫も終わったわけやし、ホームセンターの農業体験は今日で終わりっちゅーわけや。毎日毎日慣れん仕事して疲れたやろ? もうおしまいやから安心してな」
いやホント何から何まで全く聞いてなかったからね。いきなり連れてこられて畑を預けられて。何時迎えに来るとも告げられず気づけば農夫に……って感じだったし。
「えっと、その、今日で……終わりなんです?」
「なんや?ほんと何も聞かされてなかったんか? まあ、ユウさんやししゃあないな」
「しゃーないしゃーない」
「せやせや」
「ユウさんやからな わはは」
笑って済まされている……あの人ホント適当だな!
「まあ、ちゅーわけでな。ホームセンター君は結構頑張ってくれたし、ワイらとも仲良くやってくれたからなあ。せっかくやし、お疲れ会をしようかって事になったんや」
そっか……ほんとに今日で終わり……なんだな。
なんだろうな、一刻も早くここから帰りたいと思っていたはずなのに、さっさとナギサさんと合流して本来の旅に戻りたいと思っていたはずなのに……何だろなあ、この気持。
「ま、ちゅーわけでな。主役さんにバシっと乾杯の音頭を取ってもらって、お別れ会をはじめましょ」
近くに座っていたタルットに立たせられ、挨拶をする流れになってしまった……くっそ、今ちょっとまずいことになってるんですがね。
「うっ……ぐすっ……お、俺なんかのために……あじがどお……」
「泣いとるがな!」
「誰や!あいつ泣かしたんわ!」
「ちがうんでず……うれじぐっで……ここは居心地がよぐって……ぐすっ……知り合って間もないのに、みんな、昔からの……うぐっ……家族みたいでえ……」
「ホームセンター……」
「嬉しいこと言ってくれるやないの」
「わいらと一緒にキウリ食ったんや。お前はもう家族やで!」
「せやせや!名誉タルットの称号やるわ!」
「うっぐすっ……あじがどう……称号は……要らないかな……」
「なんでや!そこは受け取らんかい!」
「「「わはははは」」」
気のいい仲間……いや、家族に恵まれて俺は幸せだなあ……。まさか異世界でこんなにも温かい居場所が出来るなんて……ううっ
「えっと、へへ、ほんと何から何までありがとう!俺も皆のことは頼りがいの有る兄貴の様に思ってます。今日はこんなに素晴らしい会を開いてくれてありがとうございます!では、俺達の出会いに、キウリに乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
慣れない挨拶だったけど、泣いちゃったけど、なんとか上手く出来たかな? キウリはその、言っとけばタルット達が喜ぶかな?って思ったんだけどさ、思った通りウケてくれてよかった。
しかし、お別れ会というだけあって今夜のご飯は豪華だな。
大きな鮭をまるごと使ったちゃんちゃん焼のような物がドンと置かれているんだけど、俺が知っている鮭の何倍もの大きさが有る。それを取り囲むように新鮮な野菜で作ったサラダが置かれていて、その他にも鶏のから揚げやフライドポテト、グラタンにシュウマイ!俺が好きなものばかりだ。
たまたまなのか、ユーサンが何かしたのかは知らないけれど、嬉しいことには変わりはない。
「ほれ、若いんやから沢山食うんやぞ」
「ありがとう」
タルットが鮭を取り分けてくれた……んだけど、これがまた。
鮭をそのまま焼いたのかと思ってたらそんな事なくって! 俺が知ってる鮭より大分お腹に空洞が有るらしく、そこにたっぷりのチーズと何やらトマトやら何やらで作ったピザソースみたいのが野菜と一緒に蒸し焼きになっていて……やべえうめえ!
「うまかろ?ふふん!飯はな、塩のダンジョンに研修に行ったタルットが作っとるからな。そんじょそこらの飯屋には負けないんやぞ」
塩のダンジョンに研修……ああそう言えば、彼処のダンジョンって中に街があったもんなあ。やたら近代化されてたし、なるほど彼処で腕を磨いたのであれば頷ける。
「まあ、夜はまだまだこれからや。今日はたくさん飲んで、たくさん食って、沢山おしゃべりして楽しもうや」
「うっす!兄貴達もどうぞ!コップが空になってますよ!」
「おっ ホームセンター、君気がきくやないの……ちゅうか、兄貴て、照れるわ」
「へへ、もう皆俺の兄貴みたいなもんっすよ。さあ、そっちの兄貴も!」
「おう、ありがとな!」
こうして俺の農業研修最終日の夜は穏やかに、穏やかに更けていった……。
ユウ「なにこれ。何いい話っぽくなってんの?」
パン「ううっ……カズくん、良かったね……あんなにあんなに良くしてもらって……」
ユウ「うわマジかよ」
パン「だっでえ……こっちに来てからさ、あんまりいい事無かったカズくんがさ、家族のように迎え入れられてさ」
ユウ「ナギサちゃんと仲良くしてたじゃねえかよ……ああ、あと師匠達もいたやん」
パン「それはそうだけどお……男同士の友情って……ぐすっいいわね……捗るわ……」
ユウ「おいくそやめろ!生物は禁止!禁止です!」
ブー「アマテラさんこういうの好きそうよね」
パン「ねー。男子寮での友情物っていうの? 騎士学園物とかめっちゃ大好物じゃん」
ブー「今回の一件をレポートにしてまとめたら良くしてくれると思うわ」
パン「だよね!だよね!それでさ、ちょこーっと行間で捗るようにほんのり盛ってさ?」
ユウ「こいつ……さっきまでの涙何処いったんだ!?」




