第四百九十四話 カズクン お迎えに喜ぶ
「む……朝か……」
昨夜は心地よい疲れが子守唄となり、風呂の後に泥のように眠ってしまった。お蔭で昨日の疲れはスッキリと抜けていて、素晴らしく快適な目覚めとなった。
外に出て顔を洗い、軽く柔軟体操をする。これでより、頭がシャッキリと冴え渡る。日が変わって暫く立ってから適当に眠り、昼を過ぎる頃に目覚め、ダラダラと食事をとった後、適当に横になりながらゲームなりアニメを楽しむ……そんな生活は悪くはなかったけれど、なんというか、いくら寝ても謎の倦怠感がつきまとうような、脳がスッキリとしないような……そんな感じだった。
だが、今はどうだ。まるで小学生の頃に戻ったかのように身は軽く、脳は知識を求め唸りを上げている!
「うおお!俺は生きているんだあああ!」
「朝からうるさいやっちゃな。起きたんならちゃっちゃと着替えて食堂に来ぃや。お前にお客さんも来とるしの。なんやわからんが手伝ってくれるらしい。くれぐれも失礼のないようにな」
「……うっす」
くっそ、恥ずかしい所をみられてしまった! 感極まって思わず雄叫びを上げてしまったけれど、アレは人に見られて良いものじゃあ無かった!
まあ、ユウさんに見られたわけじゃないからな。あの人に見られた日にゃあ、半年はそのネタでいじられるのは間違いない。
そういやお客さんが来てるとか言ってたな。失礼のないように……か。ここの連中はティーラちゃんに謎の信仰心を持っているようだったから、来ているのは恐らくティーラちゃんだろう。ここの所、毎日手伝ってくれているしな。
ふふ、今日は朝からあの子と一緒か!よっしゃ、張り切っていきますかね!
「おはようございます!」
「俺はいきているんだああああ!」
「ぐっはぁ!」
……食堂に行くと、今日も元気に怪しげな仮面をかぶったユーサンが俺のものまねをしていた。
何故だろう、同郷という共通点がそうさせるのだろうか? まるでユウさんに弄られているかのような心の痛みを感じる……。
「よう、朝から熱血系青春主人公やってるカズクン……もとい、ホーム君おはようだ」
「やめてくださいよ!忘れてくださいよ!つか、カズってわかってるなら言い直さないで!」
「はっはっは。せっかくの飯が冷めてしまうぞ。細かいことをごちゃごちゃ言う前にそれを食っちまえ」
まったくもう。
なんだろうな、この人もまたユウさんと同じ様なヤバさを感じるな。そんな人に最悪の弱みを握られてしまった。くっそ、なんて最悪な1日の始まりなんだ。
「あ、ホームさんおはよー!今日はお楽しみの日だよー!がんばろーねっ」
「わあ!ティーラちゃんも来てたんだ!おはよう!うん!がんばろーねっ」
「あ゛あ゛? なにが『がんばろーねっ』だ。ティーラの真似してんじゃないよ。おら、味噌汁が冷める!ちゃっちゃと食え!」
「う、うっす」
怖い怖い。やっぱあれっすわ。娘を持つ父親は怖いっすわ。俺の娘は渡さん系パパはホント怖いっすわ……。さっきまでの『面白い玩具見つけた!どうやっていじろうかな!』っていうオーラから一転。『なんだァ……てめェ……』ってな感じのガンギレオーラに変わってますからね。
これで美味しそうに召し上がるティーラちゃんの天使のような微笑みが視界に入っていなけりゃ、せっかくの朝食も砂を食ってるようにしか感じなかったと思いますよ。
今日もまた、新鮮お野菜や卵に魚といった最高の食材で作られた、素朴だけれども心と体に優しく、何よりとっても美味しい和食に朝から癒やされ、一日頑張るぞ!という気力に満ちることが出来た俺はユーサンとティーラちゃんと共にやる必要性を感じられない朝会をした後、畑に向かった。
道すがら今日やることをティーラちゃんに聞こうと思ったんだけれども、近付こうとすればユーサンが体と殺気を使ってブロックをするし、ならばと離れたまま声をかけようとすれば、それもまた先にユーサンが話しかけることによってブロックされてしまう。
なにもそこまで娘を護らんでも!
てな具合で結局俺は今日何をするのかわからないまま畑についたわけだけれども……
「なんじゃあこりゃあ」
「はっはっは!」
いや、そこはユーサンのドヤ顔高笑いじゃなくて、ティーラちゃんの悪戯に成功したといった表情で返してほしかった!……いっでえ!
「てめえ、ティーラになにか期待をしていたようだが俺が居る以上許さんからな」
「べ、別になにもそんな……期待なんて……」
おっかねえ。この人もナギサさん級だな! 声に出したわけじゃないのに、前に立っていたから俺の顔を見れたわけでもないのに、的確に俺の考えを読み取って後ろを見ずにお仕置きを加えやがった!
しかも、脇腹あたりの抓られると絶妙に痛い所を何らかの魔術で器用に抓るという、無駄に高度なお仕置き! ガチのチート転移者は敵にしちゃだめだな……。
「そ、そうじゃなくって!これ、一体何が起きているんです!?」
ああ、そうだ。話を本筋に戻さねば。確かにここは異世界だ。日本の、地球の常識は通用しないと理解をしているつもりだ。しかし……ここまでとは思わなかったぞ!
「あん? おめえわかってねえな。ああ、お前にはまだこの領域の話は難しかったんだな」
「くっ!なんだかわからんがすげえムカつくどっかで聞いたようなセリフ!わかんないから教えてくださいよ!」
「簡単な話さ。ティーラの加護……じゃねえや、土属性魔術によって野菜さん達が本気を出した結果だよ」
「うんうん。お野菜さんたちにね、がんばれ♥がんばれ♥って応援をしたんだよー」
くっ!そのセリフ俺もされてみたい!あっやめて!ユーサンやめて!脇はやめ!
……そうなのである。
畑にたどり着いた俺が見たもの、それは昨日植えたばかりだというのに、青々と葉を茂らせ、ツヤツヤとして美味しそうに実る野菜たちの姿なのであった。
ユウ「はん、こちとらお前の心の声は垂れ流し状態で聞こえてるんだっツーの」
パン「冷静に考えるとなんて酷い事をしてるんだと思うわよね。外道よあんた」
ユウ「そのそれなりにある胸に手を当てて自分が俺にした事を思い出してから同じセリフ言えよ」
パン「なっ! そ、それなりにって……!」
ユウ「そっちに反応されると非常に恥ずかしいんですけどお!」
パン「だったら余計な事言わなきゃ良いじゃないのよ……ああもう、顔熱いわ……」
ユウ「いやまじで、その、そんな純粋げなリアクションされると……その、俺も困るから……」
パン「ちょ、ちょっとあんたまで照れるとあたしも……余計に恥ずかしい……ですけど……」
ブー(優しげな瞳で見守る)
ユウ「……」
パン「……」
ユウ「さ、さあてカズクンいじりにもどるね!」
パン「あ、うん、が、がんばってね!」
ブー(にやにやにや)




