第四百九十話 カズくん爽やかな目覚め
「う……むむ……」
顔に当たる陽射しが眩しくて目を覚ます。ゆっくりと目を開けると、窓からさんさんと朝日が差し込んでいて、これはもう完璧に朝であると俺に伝えている。
ベッドから起き上がり、グッと背伸びをし、さっぱりと目を覚ますために顔を洗いに向かう。
一応、ここの建物にも水道という物はあるし、風呂場があるくらいなので当然洗面所もあるんだけど、なんとなくそう言う気分だったのでわざわざ井戸を使う事にした。
玄関に置かれていたサンダルを引っかけ、裏手の井戸に向かう途中、何人かのタルットがラジオ体操のようなものをしていた。
「おはようさん。はやいね」
「ああ、おはよう。眩しくって起きちゃったよ」
「どうせそろそろ起床時間や。自分で起きれて偉いやで」
今が何時なのかはわからないが、丁度良い時間に目を覚ましたようだ。タルット達に手を振ってその場を後にし、間もなくついた井戸で水を汲んでバシャバシャと顔を洗う。
朝のうちはまだ涼しく、冷たい井戸水で顔を洗ったらちょっと寒かったけれど、シャッキリと目が覚めたのでよしだ。
此方の世界に来て暫く立つが、夜に自宅で特にすることが無かったり、ナギサさんの手伝いやらなんやらで昼間活動しているせいだったりで以前では考えられないほど寝るのが早くなっている。
そのお陰でこうして朝早くから目を覚ませるようになった分けだけれども、日が昇る頃に寝てお昼を過ぎる頃に起きるような生活をしていたって言うのがホント嘘みたいだよな。
体力もけっこうついているのか、早朝から活動していても怠くなることは無いし、なんだかほんと俺にとって良い転移だったのかもしれないなあ。
部屋に戻ると、たたまれた作業服らしき物が置かれていた。どうやら今日はこれを着て働けという事らしいな。昨日借りたTシャツと同じく『タルット農園』と文字が入っていて、背中には大きなキュウリのイラスト。むう、デザインは兎も角として、部屋着としては悪くは無い着心地だ。
妙に肌触りが良い作業服にちょっと嬉しくなり、ニコニコと食堂に向かうと既に大半のタルットが席についていた。
俺もそれに倣って空いている席に座ると、隣のタルットから
「お、似合うとるやん。これで君も僕らのなかまやね」
と、ニッコリとした笑顔で言われてしまった。仲間……か。いやいや、カッパの仲間になるつもりはないぞ? 無いけれど……悪くはないので、適当に愛想笑いでそれに返しておいた。
間もなく全員が揃い、朝食の時間となった。メニューは白米に豆腐とねぎの味噌汁……豆腐も有るのか……味噌や醤油があるんだもんな、どうせユーサンだろ? 彼が居る以上何があってもおかしくはないか。
と、後は鮭のような魚を焼いたものに、生卵、何か葉野菜のお浸しに、山のように盛られたキュウリの漬物。これで海苔や納豆があれば如何にもな朝食メニューだわ。
以前の俺ならば、こんなメニュー眉をしかめて仕方なく食べたと思うけれど、最近はほんと何を食っても美味いし、何よりここで出される米や野菜はどれもツヤツヤとしていて、とっても魅力的だ。
まずは一口と啜った味噌汁は、何の出汁かは俺の舌ではわからんが、しっかりとした出汁に味噌の香りが絡み合い、ふわりとした豆腐とネギの香りが絶妙に朝の胃袋に染み渡る。
味噌汁に刺激され、急激に目を覚ました胃袋は次に焼鮭を求める。箸で一口サイズに切り、口に入れると薄く振られた塩味と、ややこってりとした脂が非常に好ましい。
すかさずご飯をかき込むと……これがまた甘くてとっても美味い。
味噌汁、ごはん、鮭、ごはん、キュウリ、ごはん、味噌汁……と、食べているうち、早々にご飯が無くなってしまった。まだおかずは沢山残っているし、お腹にも余裕がある。
「ほいよ、ご飯おかわりね」
と、突然茶碗を奪われ、2杯めのご飯がよそわれた。むう、以前であれば朝からこんなにくえねっすと、そのまま残す所だが、今の俺ならまだ入る。
再び、鮭、ごはん、キュウリ、ごはんと1/3程ご飯を食べ、ここで生卵の投入だ。そう、いわゆるTKGだ。
TKGがノーリスクで出来るのはきちんと衛生管理がされた卵位のもので、海外はもちろん、衛星概念が希薄な異世界ではご法度であると何かのノベルで読んだことがあるけれど、そこはそれ。
ユーサンというチート野郎が散々いじくり倒したこの世界なのだから安心……していいんだよね?
少々不安に思ったが、俺はTKGが大好きなのだ。細かいことは気にせず、一気にいただく……ああ、うまい。
濃厚な卵黄と、芳醇なお醤油。つやつやとしたお米と合わさって最強に見える……。
TKG!味噌汁!TKG!鮭!TKG!TKG!キュウリ!なんかのおひたし!む!うまい!TKG!おひたし!TKG……と、食べているとあっという間に無くなってしまった。
まだもうちょっと入りそうだったけれど、食後の麦茶をぐびりぐびりとやると、ちょうどお腹がいい具合になった。これから作業をするわけだしな、腹八分目がちょうどよかろう。
食べ終わったものから各自適当に準備を済ませ、いよいよ二日目の作業だ!
……いやいや、楽しみになんかしてないよ? ある意味強制労働だからね? 今日から農業活動が本格的に始まるわけだろう?未経験だからやっぱり不安が勝る。
庭で待つよう言われたので、そのとおりじっと待っているとどうやら朝会がはじまるようだ。
「えー、概ね昨日までと変わらんけど、ホムセン君が短期で入っとるからね。畑組は気をかけてあげてね。以上、解散やで」
……即終わってしまった。
朝会……の意味があったのか無かったのかは知らんが、その後タルット達はそれぞれの持ち場に散っていった。俺はもちろん畑仕事なので、畑組のタルットの後に続いてゾロゾロと向かう。
タルット屋敷から畑まではそう遠くはないので、10分も歩くと畑エリアに到着だ。
「ほな、お前は昨日と同じく彼処の畑担当やで」
特に何か説明をされるでもなく、タルット達はそれぞれ自分の畑へと向かっていってしまう。ええ……俺は一体どうすれば?
等と困りつつも、とりあえず昨日と同じ畑に向かうと………
「あ、おはよー!今日もよろしくね!ホームさん!」
そう言えば昨日、またねっていってたっけ……。ティーラちゃん……今は君がとっても頼もしく見えるよ!
ユウ「今はじゃなくて、ティーラはいつでも頼もしいだろ!」
パン「そういう事言ってるんじゃないと思うんだけど……」
ユウ「ていうか、カズの食レポで終わっちまったじゃねえか!農業何処行った」
パン「それな。じゃなくって、なんかさあ?ここに来てカズクンのIQ上がってない?」
ユウ「わかる。なんかあいつ、ジワジワと普通の人間になってきてるよね……」
パン「来たばかりのバカっぽいカズくんが恋しい……っていうか、まともなカズくんは面白く……」
ユウ「やめろ!まともで面白くないカズなんてネタにならない!さっさと日本に返そうとか言うな!」
パン「……いやいや、あんたのほうが大概酷いわよ……」




