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第四百八十七話 カズくん土と触れ合う

『カズ、起きなさい……ほら、出かけるわよ。カズ……』


 頬を撫でる涼やかな風。柔らかに差し込む木漏れ日は優しい暖かさ。


 そして俺を呼ぶ懐かしい母の声。思い出すな、休みの日なんかに昼寝してるとこうやって起こされたっけ……かーちゃん……。


「あきませんわ。こいつ、起きる様子がありませんで」


「困ったねー。父さんはここからホームセンターさんにやらせるようにって言ってたんだけどな」


 ……あれ? かーちゃんじゃない……っていうか、ここは……そうか、俺は……タルットの畑で働いていて……昼寝を……。

 

 だよなあ。そうだよな、だって優しかったカーチャンはもう……いやいや、生きてるけどね。子猫を愛でるかのように俺に接してくれていたあの優しいカーチャンはもういないってだけで、カーチャンはちゃんと生きてるからね。


 こっち来る前に最後に言われたのって確か……


『はぁ!あんたより漬物石のほうが役立つわね!漬物は作れるし、なんなら働かない息子の頭をかち割ることだって……うふふ』


 ……思い出すんじゃなかった!


 近年のカーチャンは、よくその手の笑えない冗談を言うんだよな。それを聞いたユウさんは


『あれは冗談で言っている顔じゃねえ。悪いこた言わねえよ、お前もさっさと働いてお母さんを楽にしてやりな』


 なんて言ってて、その時の俺は『何をそんな大げさな』と、笑っていたけれど……暫く離れ、今こうして少しまともな生活をしていると以前までの俺が如何にダメダメだったかがじわりじわりとわかってきてさ……ああ、カーチャンはもしかすれば本当にギリギリだったのかもしれないなあって申し訳なく鳴ると共に、ゾッとするわ。


 ……帰ったらハロワに行ってカーチャンをほっとさせてやろう……。


「こうなったら石を落として無理にでも起こしちゃおっか?」


「のわああああ!!石?石はやめてくれ!」


 物騒な発言はメモリーオブザカーチャンの声……ではない!この可愛らしい声は……


「んん……その声はティーラちゃん?」


「あ、起きた!そうです、ティーラです!父さんに言われてホームセンターさんのお手伝いに来ました!」


 さらりとした黒髪がつややかな美少女、ティーラちゃん!いやあ、ユーサンの娘さんとは思えないほどの美少女ですな。


 あの人のお子さんたちは総じて美少女なので、あわよくばお近づきに……と思うのだけれども、ユーサンから発せられる殺気からするに手を出した瞬間に灰になる予感しかしないのが恐ろしい。


 って、お手伝い?


「あの、ティーラちゃん。お手伝いって言うと……もしかして、畑を?」


「そうです!流石にホームさんだけだと畑が完成するまですんごい時間が掛かっちゃうので、手伝って上げなさいって父さんが」


 ホームさんて。とうとう家になっちまったぜ……まあいいんですけどね!


「そっかー。正直俺もアレは結構無理なんじゃね?って思ってたから有り難いけど、でもなあ、ティーラちゃんと二人でもまだまだ無理な感じだと思うよ?」


 猫の手も借りたい!そう思ったけれど、美少女が手を貸しに来るとは思わなかった。猫よりはもちろん有り難いし、嬉しいんだけれども、ティーラちゃんみたいに可愛い子がお手伝いをしてくれたところで……俺のやる気が上がる以上の事はないと思うんだ……ああいや、それが目的なのか?もしかして……。


「んー? 無理ではないと思うけど……あーそっかそっか。うんうん。えっと、ホームさん。残っていた半分と、ホームさんが取り切れていなかった根っこは全部私が抜いておいたので、午後は耕す作業をしましょー」


「えっ?」


「えっと、耕そう?ホームさん」


 耕そう……それはわかる。わかるけど、残っていたのを全部抜いた? それも俺の尻拭いまできっちりと済ませた上で?


 うっそだあ!


 と、立ち上がって畑に向かってみたら驚いたねこりゃ。近所の人が気まぐれで適当に手入れをした広場みたいだったスペースがちょっとした運動場みたいにきれいになってる。


 ははーん、ティーラちゃん可愛いからな。スケベなタルット共が手伝ったんだなー。いいな、美少女は得でさ。俺も美少女として異世界転生をして百合ハーレムを築きてえ……。


「ええと、ホームさん?」


「あ、うん!耕すんだったな!ええと道具は……」


「あ、そっかー。ホームさんは魔術をまだちゃんと使えないから手作業なんだね。じゃあ、これを使って下さい。付与術がかかっているので普通のよりサクサク掘れますよ」


「あ、はい。ありがとう……って、今どこから道具を出したの!?」


「何処からって……母さんから貰ったストレージからだけど……あ!これ内緒だった!」


「す、ストレージ……」


 アイテムボックスじゃんっ!アイテムボックスあるんじゃんっ! いいなあ!いいないいなあ!つうか、やっぱりユーサンとこはちょっとレベルがちげえな!なんだ? 主人公と巻き込まれモブの差っていうの?


 ……後でおねだりしたら俺にもアイテムボックスもらえたりしないだろうか……。


「じゃ、私は魔術でドーンとやっちゃうから、ホームさんは自分のペースで頑張ってねー」


「あ、うん!道具ありがとうね」


 おねだりのためにも、今は真面目に働いておくか……。これは見た目は普通のクワ?っていうの?畑耕すアレだけど、付与術のおかげなのか、丸めた新聞紙を持ってるかのように軽いな。


 今度は耕せと言われてウンザリしたけれど、これならなんとかなる……かな!って、これしゅごい!


 ボッソボソとした硬そうな地面に振り下ろしたら、思っていたのと違う感覚が返ってきた。もっとこう、ザク!ってすると思ったんだけど、やわこいプリンにスプーンを刺したかのような柔らかさ!


 うおお!これはマジで行ける!マジで今日中に耕せるぞ!よおし!ティーラちゃんには負けないぞ!


 振り下ろす!引く!振り下ろす!引く!うおおお!俺は農機具人間だぜ!今ならどんな畑でも無限に耕せる、そんな気すらする!


 あっという間に最初の折り返し地点まで到達だ。ふふ、ティーラちゃんは魔術でやるとか言ってたっけな。女の子だもんな、付与術がかかった道具とはいえ、力仕事には変わりはない。あの子の分まで俺ががんばらないとな……って、あれえ!?


 ティーラちゃんが畑の脇に置かれた椅子に座って麦茶を飲んでいる……。あの子、もう諦めてしまったんです?


 あ、こっちに気づいた。ん?なんか言ってるな。


「ホームさーん!私はもう半分終わっちゃったんで、ちょっとここで見てますねー。全部やると父さんから怒られちゃうから、もう半分は頑張ってねー」


 終わっちゃった……だと?


 うっそだろと、あの子がさっきまで居た場所を見てみれば……フッカフカに耕されている……。


 ……いやほんと、俺いらねえんじゃねえかな。

パン「酷いやつよね。ティーラちゃんに無双させるなんてさ」

ユウ『それを言うなよ。俺のおかげであいつに労働意欲が芽生えたじゃんか』

パン「それがぶち壊されるのでは!?っていってるのよ!」

ユウ『まーまー。大丈夫だって。あいつはそんなたまじゃねえよ』

パン「ていうか、カズクンにストレージの存在がバレちゃったわね」

ユウ『バレてなかったっけ?って思ったんだけど、カズも俺も細かいことは記憶しねえからな』

パン「適当なんだから……それで、どうするの?カズクンにもストレージ上げちゃおうか?」

ユウ『うーん……頑張ってるし制限版をあげてもいいかもしれんね』

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