第四百八十五話 カズくん釣りに意欲を見せる!
最初釣りの凄い人から習うのだと、ナギサさんから言われたときには正直面倒くせーなーと言う気持ちが勝っていたのだけれども、その講師が美少女ルーちゃんである事と、そんな彼女が華麗なテクニックでヌシ的な魚を釣り上げているのを見てしまったらムクムクと釣りをやるぞ、やるんだ!という気合いが湧いて出てきたんだけれども……。
何人かずつ班分けをして、順番に教えるのだという説明を聞いているときだった。今はナギサさんが居るし、禁呪【フタリグミ・ツクッテ】であろうと俺には効かないぜと余裕の表情をしていると、突然――
『お前はこっちやで』
と、よく知っているあまり聞きたくはなかった声とともに腕を引かれ、釣りグループとは別の団体のもとに連れて行かれた。
『ちょ、一体何ですか!何するんですか!こら!やめろ!変なとこ触んな!』
必死に抵抗するも、数の暴力には勝てず。タルットで固められたグループに入れられてしまったんだ。
そう、明らかに『釣りグループとは別』とわかるその団体は釣具の代わりに農具を持っていて、どうやら俺もそれを手伝う羽目になりそうだとさすがの俺も気づく。
イヤダイヤダと抵抗していると、何やらこちらの様子を見ていたらしいユーサンと目が合った。おお、これはもしかすれば助けてもらえるのでは?そう思ったのだが、甘かった。
彼はにこやかに微笑むと、ビシィっと親指を立て『グッドラック』と、口を動かしていた……。
やっぱ良くしてくれていても他人はだめだな! ここは良き隣人であり半分家族のようなナギサさんに助けを……と、思ったら、彼女は既に釣りを始めていて、俺のことなど人っつも気にしていない様子。
……。
『ま、元気だせや。これが現実や』
ケラケラと朗らかに笑うタルット共に背中を押され、島の中心部へ向かって登らされている……というのが今の状況。
上から見たから知ってたけど、この島って中央がやたらと盛り上がっていて、その頂上付近にちょっとした集落があるんだ。
タルット共はそこに住んでいるらしく、コハン村のキャンプ場で働く他、湖や畑の管理もしているらしい。タルットのくせに中々に働き者だな。
「俺が知ってるタルットはダンジョンで働いてて、夜は街の酒場で飲んだくれてるんすよー」
と、知り合い?の話をしてみれば。
「まあ、それも一つの労働の形やろうけど嘆かわしいね。お日様と共に目を覚まし、汗を流してキウリを齧る!夜はまあ、わいらも飲む事あるけど、報告会を兼ねた会合やからね」
なんて、ほんとタルットらしからぬ生真面目さである。正直タルットという種族は総じて残念なおじさんキャラかと思っていたんだけど、住む環境が違うとこうも変わるんだなあとびっくり。
「今日はお前をたっぷりと揉んだるからな。尻に手をつっこまれんよう、気合いれや」
「えぇ……」
褒めてる所で微妙なカッパフレーバーをチラ見せするのは辞めていただきたい。
タルット共に囲まれながら、えっちらおっちらとちょっとした登山をしているわけなんだけれど、一向に息が切れる様子が無いし、足が笑うこともない。
ナギサさんがゴリラだったり、ユーサンが勇者だったりするせいで俺はクソザコナメクジだとばかり思っていたけれど、いや、クソザコナメクジなのはそうなのかもしれないけれど、ナメクジはナメクジなりに体力がついてたんだなあと気付かされた。
そりゃそうだよな。良くわからん部屋で師匠達と結構キツい訓練をしてきたわけだしさ、冒険者としてちょっぴり活動をしたり、ナギサさんのゴリラパワーに合わせて生活したりと、それなりに身体が鍛えられる要素は数多くあったんだ。
良くある異世界主人公的に超人的な成長はしなかったようだけれども、地球に住む普通の人間として考えれば結構いい具合に鍛えられたんじゃなかろうか。
すぐに疲れるから外出はあんまり好きじゃなかったけど、今はそうでもないもんな。こっちにきてからの様々な生活は無駄ではなかったんだなあ。
腕をぐっと曲げ、力こぶポーズをとると、なんと以前では見えることがなかった筋肉が薄っすらとこんにちわをしているではないか! うおお!無駄ではなかったんだ、ホント無駄ではなかったんだ!
「おう、なんや? 早くもやる気を見せとるな!よっしゃ、半信半疑やったが、ええ子貸してくれたもんや!ペース上げて登るで!」
「え?ちょ、なんでいきなり……ひっ!?ケツを撫でるな!わかった!わかったから!急げばいいんだろ!だからケツを撫で回すなー!」
地獄である。
少しでも登るペースが落ちると背後に控えている長髪のタルット……、落下してきた俺を抱きとめたタルットがニヤニヤとしながら俺の尻を撫で回すんだ……!
他意は無いと信じたいが、厭らしい笑顔と共に撫で回すものだから色々と危機を感じてしまう!やめろ!
そんな具合に俺を追い立てるものだから、結構いいペースで登ることができてしまい……鍛えたとは言え、これはかなりしんどいペース。なので目的地らしい場所についたときにはすっかり生まれたての子鹿のようになってしまった。
「なんや、だらしないやっちゃな! ま、ワイらのペースに付いてこれたんわ褒めたるわ」
ニコニコと嬉しげに褒めてくれたのは悔しいかなちょっと嬉しかった……が。
「よし、お休みのとこごめんやけど、休んでる暇はないからね。そやな、お前はまず草むしりをするんやで」
バケツと軍手を投げ渡され、ビシッと結構な広さの土地を指で示された。なるほど、どうやら新たに畑を作るらしいが、これはこれは。小さな公園くらいはあるじゃないか……。
「あの、あれをどんくらいやればいいんですかね?」
俺はずっとここにいるわけじゃない。だから軽い気持ちでそうきくと……。
「何を言っとるんや?あのスペースがお前の持ち分やぞ。まずは全部草をむしれって言ったんや。それが終わったら次は土を耕すんやで」
……ゆっくりと目の前が真っ暗になっていくのを感じる。
ちょっとしたお手伝いのつもりでやってきたら、畑を一つ任されていた。何を言われているのか……どうしてこうなったのか。いやほんとわかんねえぞこれ……。
パン「うわあ、エグい。アレはちょっとした絶望よ」
ユウ『ああでもしないとグダグダな釣り回をもっかいやるハメになるから仕方がないんだ』
パン「一体何の話をしてるのよ!」
ユウ『はっはっは。まあ、あの様子ではナギサちゃんも暫く帰らんだろうし、悪い話ではないぞ』
パン「流れからして、カズくん達にキウリ畑を一つあげる感じになるのよね?」
ユウ『左様。惣菜系クレープにそのまま使うもよし、ピクルスを作るもよし。キウリは万能だからな』
パン「わかるけど、なにも律儀にイチから作らなくても仕入れたらいいのでは」
ユウ『しー! そうでもしないと話がふくらまないでしょ!』
パン「だから何の話をしてるのよ……」




