第四百八十三話 カズ涙の帰還……しかし
空は何処までも高く、そして深く蒼い。
地平線の向こう側はかすんで見えなくって、この大陸の馬鹿でかさをしみじみと感じる。
はい、俺は今、空に居ます……って居ちゃだめだよ!って、とか言ってる間に下腹部あたりがキュンと違和感を放つ。ゴリラさんのゴリラパワーでぶち上げられた俺による空の旅もおしまいのようだ。
ここからは一転して地上に向かって落下RTAのスタートだ……って、オイオイ死んだわ俺。流石の俺でもわかるこの大ピンチ。死んじゃう以外の未来が見えない!
でも、不思議なのな。いざこうやってガチで死ぬわこれって状況になるとさ、妙に頭が冴えてしまって……はは、気を失えたらどんなに幸せだったことか。
ここまで高く上げられてしまったら、湖に落ちたところで助かる確率は低いことだろう。くっそ、良く有る異世界主人公ならさ、こういうピンチに陥ったのを切っ掛けとして何かすっげえスキルが芽生えたりするんだけど……一向にそんな様子は無い!
あああ!そんな事考えてるうちに島がぐんぐんと大きくなってくる!この距離になると自分の落下速度が如何に早いのか身に染みてわかるぜええええええええええっていうか、もう無理!無理だょ。。。目。。。とじるょ。。。
……そろそろ死んだかしら?
…… ……あれ? 風が……止んでる……?
ぎゅっと瞑っていた目をゆっくりと開けると、太陽の光がわっと飛び込んできて、眩しくって思わず再び目を閉じてしまう。
「だいじょうぶ? 痛いところ無い? んー?意識が無いのかな?」
と、何処か幼さが残る可愛らしい女の子の声が耳に届く。
……そう言えば、誰かに抱きかかえられている様な感覚がするし、ふわりと甘い蜂蜜の様な香りが漂っている。これはもしかするともしかするのではなかろうか?
もう一度、今度はゆっくりと目を開ける。相変わらず日光は眩しく俺の目に飛び込んでくるけれど、薄く開けたまぶたの隙間から見えるシルエットは長い髪の人物だ。
「うう……俺は……?」
「あ、良かった!目は覚めてるみたいだね」
どうやら俺は、甘く優しげなハチミツの香り漂うロングヘアの美少女に抱きかかえられているらしいな。凄まじい速度で落下してきた筈の俺をどうやって抱き留めたのか、そんな事はわからないがここは異世界だ。落下の衝撃が一切無かった辺り、きっと何らかの魔術を使ったに違いない。
そう、例えば風の魔術「ウィンド・クッション」とかね。
高位の魔術師となれば、かなりの衝撃を吸収できると聞く。たまたまこの島に遊びに来ていた美少女魔術師が俺を救ってくれた、そういうシナリオ有ると思います!
「へへへ……魔術師様との出逢いか……」
「うーん? やっぱり頭打っちゃってるのかな? 念のために回復術かけた方が……」
っと、俺の妄想で余計な心配をかけてしまっている!この幸せな状況は何時までも味わっていたいが、ここはさっと起き上がって、お礼を言うべきシーンだな。フラグというのはきちんとした行動をとらねば立ものも立たない故な!
抱きかかえられていた腕に別れを告げ、地に足をつけると……なんだ、結構背が高いなこの子!
……地に足を付け、顔を上げてお礼を言う。
「ありがとう、お嬢さん。俺の名はホームガーディアン・カズだ。お陰で助かった」
サラサラとした髪を風で揺らすその方は……俺よりちょっと背が高いのか、見上げる感じになってしまったが、緑色の肌とアヒルのように広がっている口元がキュートな……んん?
「誰がお嬢さんや。喋ってたんわ姫様や!ははーん、わかったで。姫様がしゃべっとったから、姫様に抱っこされてるかとおもったんやろ!? 残念だったな!わいや!わいやで!」
……。
俺の目の前に居たのは髪を……髪を無駄に長く伸ばしやがっているタルットだった……ガーンだなってレベルじゃねえ…・…色んな意味でショックだよお。
「あっはっはっはっはっは腹痛え腹痛え!ありがとうお嬢さん(キリッ)だってよ!ゲラゲラゲラ」
腹立たしく大笑いをしている声の主に振り返り、キッと睨み付けると……
「げ、げえ!サスケさん改めユーサン!」
「よっす!どんな気持ち?タルットに抱きしめられてどんな気持ち?」
「だめだよ、ユウ!この人頭打ってるかも知れないんだよ?」
「でーじょうぶだルーちゃん!死んでもなんとかボールでいきけぇる!」
「地上で【グランリターナ】使うとママやブーちゃんに怒られるからダメ!」
「ちぇー」
ユーサンと親しげに話しているのは、彼の娘さんであるルーちゃん……そして、俺に語りかけてくれていた優しい声の主……そうか、聞いたことが有ると思ったらルーちゃんだったのかあ。
「ったく、空から降ってくるお前をいきなりキャッチしろとか無茶ぶりひどいっちゅーねん。折角のハチミツキュウリがわやんなってもうたわ」
……ハチミツの香りの正体……知りたくなかったな……。
香り……そう言えば、バニラの香りを漂わせる俺の可愛いゴリラはどうしているんだろう?彼女の事だから無事だろうけれど、俺を吹き飛ばしてしまったのだから、何処かで俺を探していたり、落ち込んで居たりするのでは無かろうか。
「あの、ユーサン!俺、この島にナギサさんと来たんですが、彼女は? もしかしたら彼女……泣いているかも知れない……」
気分を切替え、そう伝えるとユーサンの表情がキリリと真面目なモノに変わる。これはもしかして考えたくは無いけれど、ナギサさんは俺以上に酷い事に……。
「あー、ホームセンターくん。落ち着いて聞いてくれ。いいかい、落ち着くんだ」
優しげな声が余計に不安を呼ぶ。良いから、前置きは良いから早く言ってくれ。
「ナギサちゃんはな……いや、止そう。君が自分の目で見た方が良いな。ほら、彼処だよ……行って声をかけてやってくれ……」
不吉な物言いに慌てて振り返ると、ナギサさんと思われる小柄な女性が地面にうつ伏せになって倒れていた。
「ナギサさん!」
予想していない事実に動揺して足がすくんだが、彼女の元へゆっくりと向かう。
呼吸はしているようだが……もしかすればあの事故で致命傷を受け、回復術ですら追いつかない状況になっているのだろうか? 既に手は尽くしたと言わんばかりに横たえられ、苦しいのか荒く呼吸をしている。
……俺を雲近くまでぶち上げたあのパワーだ、反対側に乗っていたナギサさん自身にも同じだけのダメージが入ったのかも知れないな……くっ!せめて起こしてやろう、この体勢はあまりにも可愛そうだ。
彼女の横に腰を下ろし、ゆっくりとその身体をおこ……起こす……起きねえ!なんだこの力は!弱っていてもゴリラだというのか!?
「……やめ……やめろ……くく……」
「どうしたんだ!ナギサさん!苦しいのか!」
「やめろ……ああ……くるし、くるしいから……あは、あははは、だめだわりいホームセンター!わはははははははは!!!!」
ふっと力を抜き、仰向けになったナギサさんは目に涙をたっぷりと浮かべながら爆笑していた。
「ナギサさん?」
「だ、だって、た、タルットにキリっと、くはは!キリっとした顔、あははははは顔でええええ!!」
「なあああああああ!?」
ユーサンを見ると、海外バラエティにありがちなやれやれと言った感じのジェスチャーをしていて非常に腹が立つ!
こうして、非常に腹立たしい結果とはなったけれど、俺達は無事に島に到達できたのでした。
パン「ひどいなーユウは酷いなー」
ユウ『ひどくねーし!勘違いしたのあっちだし!』
パン「わざわざロン毛タルットを強制召還させて抱き留めさせてたじゃん」
ユウ『だって俺が抱き留めるの嫌だし、ルーちゃんにさせるのはもっと嫌だし』
パン「他のタルットでもよかろうに、わざわざロン毛なんだもんなー」
ユウ『カズだって美少女の腕の中で目を覚ましたいとかあるだろ?俺からのサプライズじゃん』
パン「美少女なのは声役のルーちゃんであって、腕の持ち主はキモいタルットじゃん……」
ユウ『そうやってね、非難めいたこと言ってるけど、お前が一番笑ってたじゃねえかよ』
パン「だ、だって!タルットに真面目な顔でお嬢さんって……あは、だ、だめだ思い出すと……』
ユウ『まったくひでえ女神様がいたもんだよ』
パン「あ、あんたが、あははは、いう、いうなあはははははは」




