第四百七十五話 カズくん、クレープを見守る
「じゃ、ちょいとキッチンを借りるよ」
ナギサさんに続いて台所に入ると……思ったより普通の台所だった。
「あれ、普通……」
「何か失礼じゃな、ホームセンターよ」
「ああ、ごめんごめん。もっとこう、竈?があったりさ、水瓶が置いてあったりするのかなって思ったんだよ」
「ああ、そう言うことか。確かに少し前まではそんな感じじゃったがの。最近リフォームしたんじゃよ。魔導レンジや上下水道のメリットには敵わんじゃろ」
なるほど……。そういやテレビかネットか忘れたけど見たことが有るな。外見は凄く古そうな古民家なんだけど、中はハイテク――床暖房だわ、全室エアコンついてるわ、なんつったっけ、スマホで操作できる家電で揃ってるわのオール電化住宅なんだよな。
すげー渋い廊下をロボット掃除機が掃除している様子は中々にシュールだった……。
レンゲちゃんの家もそんな感じかあ……って、大事な事を忘れかけたぞ。ハイテクなのが間違ってんだよ!他の街だって外観はRPGにありがちな普通の建物ばかりじゃないか。
……一部おかしな建物も有るけどさ。
なのに、蓋を開けてみれば冷蔵庫は有るわ、電灯はあるわ、テレビこそ無いけれど、日本の住宅とあんまり変わらない環境でびっくりしたもんだ。
あとから知ったけど、精霊樹の里はその辺り徹底していて、一見そうとはわからないように景観に溶け込むようなデザインのものを使ってて、俺みたいなよそ者にはパット見わからないようになってるんだったな。
あそこもナベゾコ村と似たようなコンセプトなんだろうなあ。
「どっこいせ」
台所の設備からうっかり脳を酷使していると、ナギサさんがここまで大切そうに持ってきた荷物――すげえデカい背負紐がついた箱をドスンと床においた。
そうそう、これなんなんだよ!恐らく調理道具が入ってるんだろうと思ってみていたけど、それにしてはデカ過ぎるんだよ!俺がすっぽり入るくらいの大きさは有るぞ。
そんなもんをナギサさんが背負ってるもんだから、木箱が一人で歩いているように見えるんだ。
「うん、中身は無事そうだね。ごめん、ちょっと散らかすよ」
木箱の中には小さな箱と大きな箱が入っていて、最初に取り出した小さな箱には思った通り調理器具が収められていた。
「こっちは……うんうん、魔石残量もまだまだ余裕があるね」
木箱に入れたまま、大きな箱についていた扉を開くと、中からひんやりとした冷気が飛び出してきた。その内側には瓶に入れられた生クリームや果物、卵等が入っていて……。
「あんた冷蔵庫担いできたのかよ!」
「あったりめーだろ!いつでも必要な材料が買えるとは限らないんだ!コイツがなかったらお話にならないだろう!」
そりゃ箱がデカいわけだよ……。
ナギサさんが恐ろしいのは、この俺ではまず持ち上げられない木箱の他に、それなりに大きなカバンもひとつ持っていることだ。それの中身については、死に戻りが出来るダンジョン以外で語る訳にはいかないが……まあ、乙女の秘密が色々と入っているわけだな……いっっっっどぅぁあ!!!!
「ああ、わるい。木箱を動かした先にお前の足があるとはな」
「くぁ~……い、いや……それを……うごかす……必要が……あったのかなあ……はは」
くっそ、右足の親指が赤黒くなってるじゃないか……うう、後でポーションかけとこ……。
しかし、ナギサさん。こうして料理をしている姿を見ていれば女の子なんだよな。俺が教えたクレープも直ぐにモノにできていたし、料理スキルを持ってたりするのかもしれないなあ。
口を閉ざしてじっとしてれば可愛らしい女の子だからな。数々の戦闘スキルに紛れるように【料理】とか【裁縫】とか、家庭的なスキルが混じっている可能性は高いな。
「あー、ホームセンターさ」
「はいはい、何か必要ですか?」
「ん、後でぶっ飛ばす」
「なんでえ!?」
しばらくした後、台所には様々なクレープと、無残に転がる俺の姿が。ちくしょう、俺がなにしたってんだ。
今回ナギサさんが作ったのは、抹茶クリームとあんこ、白玉団子、イチゴ……の様な果物が入ったナベゾコ仕様のものと、いつも作っているフルーツクレープとチョコバナナクレープ、それとレタス……の様ななにか、もうレタスでいいやと、ツナマヨが入った惣菜系クレープの4種。
惣菜系クレープは俺も失念してたんだけど、ナギサさんが野生の勘を発揮させて開発してしまった。正直これがめちゃくちゃうまくって、甘味はちょっとって言ってるようなおっさんの支持が熱い。
レンゲちゃんもこれが気に入ったようで、普通のクレープより嬉しそうに食べているな。女の子なんだから甘党だと決めつけていたけど、見た目に反してしょっぱい系がお好みのようだ。
「あー、ハムチーズクレープとか、唐揚げクレープとかそういうの増やすとよさそうじゃのう」
「おっ!良いね!いただき!いやあ、新たなメニューがどんどん生まれてくなあ。販路を築くついでに食材探しって思ってたけど、こりゃ幸先いいね」
そして、レンゲちゃんちのお手伝いさん達を集め、みんなでああだこうだとクレープ談義が始まり、終わる頃には皆腹をパンパンにして動けなくなってしまっていた……。
ユウ「うむ、展開が退屈だな!早く次の村いけ!」
パン「亀が居ると胃が痛くなるしね!」
ユウ「まあこの流れだと近い内に出るんじゃないか?」
パン「ナベゾコ村の観光っても、カズくんには退屈だろうしね」
ユウ「ナギサちゃんの用事もあら方済んだろうし、後は安心して見ていられそうだなあ」
パン「……アンタ知ってる?そういうのフラグっていうのよ」




